クレドのにっき

クレドのにっき

零~天倉 繭 拾壱~

あたしは、天倉繭。この力が役に立つなら、それはきっと今。
そう、この、呪いを解くための。


「それにしても…ここは何処?」

桐生家よ


「!?」
不意に耳元で声がして、あたしはひっくり返るほど驚いた。そこには、紗重が立っていた。血まみれの着物と、歪んだ笑いを浮かべて。
「――!」
『逃げなくても…いいよ。…それ…があるかぎり…あたしはあたし…だもの。ドコヘだって…あなたがいけば…あたしにも…いけるの。』
「な…どういうことよ、紗重!」
『…そういう…ことよ!きゃはははっ。あたしはいつでもそこにいる…』
だらりとこちらへ出した手から、指をさして。
『その喉の痣がある限り…』
そう言い残して、彼女は出てきたときと同様に掻き消えた。
「喉の痣…呪いがある限り、紗重とは離れられないってことか…」
あたしは喉を抑えて、ポケットからお守りの紅い勾玉を出した。生まれたときに、澪と対でおばあちゃんから贈られたものだ。澪は蒼い勾玉。これがあるから、あたしたちは廃人にならずに済んできた、といってもいい。
「これを利用できないかな」
あたしは扉をあけた。細い廊下を、双子が走っていく。
『ドウシテコロスノ』
『コロサナイデ』
『コロサナイデ』
脳に直接響くような声に、お守りが反応した。紅い光を放つ。
『イタイ!』
『イタイイタイ』
「…つかえ、る…みたいね」
消えた双子の影を追いかけて、あたしは進んだ、廊下の奥まったところにある扉を開けると、そこは同じものが全て一対ずつある不思議な部屋だった。
「…?」
部屋を横切り、奥の扉を開けようとすると、気配を感じて、あたしはふりむいた。
「!」
『どうしてころすの…』
『もうだれにもころさせないから』
ころさせないから…
双子の姉妹が、一対の鏡台と座布団の上に座っていた。
「うわ…」
あたしは慌てて扉を開けて、廊下へ転げるように逃げだした。
廊下はひんやりと、ひとけのなさを物語っていた。この屋敷では虐殺が行われた様子も無い。…と、云うよりは、その前から廃墟になっていたような感がある。
「どういうことかしら…ともかく、表の戸は使えないし…蝶神をどうにかするには…黒澤家へ戻らなきゃいけないよね。」
呟きながら、あたしは自分にこれからやるべきことを確認した。なにもいない廊下を歩いていくと、不意に目の前にさっきの双子の一人が現れた。
「きゃあっ?!」
慌てて戻ろうとすると、後ろにももう一人!「挟み撃ち…!」
か、かくん、と最初に現れた方が可笑しな動きをする。そのたびに、キュルキュル、とぜんまいが巻かれるような音がした。
「…???」
『ふふふふっ…ひとりは人形…姉が妹を殺した…父親が人形を作って慰めた…けど…それは失敗父親は人形と娘に殺された…』
「紗重!」
まるでこの事態を楽しんでいる――厭、楽しんでいるのだろう――紗重はこちらを見て三日月形に唇を吊り上げた。『さァ、どうする?繭…』
「現状打破しかないよ!」
消え行く紗重に怒鳴って、あたしはお守りを取り出した。キュルキュル、と迫ってくる人形に、お守りを手の中にだいて、念じる。
「お願い!」
かざした勾玉から紅い光が放たれ、人形はズルリと葛折れて消えた。
気配を感じ、さっきまで人形がいた所へあたしは走った。振りかえると、人形じゃない方が迫ってきていた。ダメージを食らった様子も無い。
「…そうか、人形をやってもだめなんだ!」
あと、1mも無い状態で、あたしはまたお守りに念をこめる。
でも、動いてくるその双子の片割れは時折移動している。
あと50センチ。壁の中から。
あと40センチ。廊下に。
あと30センチ。――何処?!
(感覚を研ぎ澄ますのよ、繭…全ての壁を取っ払って、自分から霊を感じるの!) 壁――いない。
廊下――いない。
何処かにいるはず。ゆっくり、自分を巡る霊を感じるの。
壁…廊下…キュルキュル音がする…違う。
あたしは掴みかかってくる人形を避ける。人形は葛折れて消えた。
何処?何処に本体がいるの…
壁…
いや、前だけとは限らない…
前だけとは?!
あと20センチ――
「そこよ!」
真後ろの廊下に、彼女は出現した。それと同時に、かざしたお守りから紅い光が放たれた。
『キャアアアアアアアア―――――――――ッッ…』
顔を抑えて、彼女は廊下にうずくまる。その姿が薄れると同時、何処かでガシャッ、と人形の崩れる音がした。
肩で息をしながら、あたしは初めて出来た「霊の撃退」をかみ締めていた。
『やればできるじゃない…天倉の巫女…』
「!」
血まみれの紗重は、こちらへすべるように歩いてきて、あたしの喉に手を伸ばした。
動こうとしても、動けない。
「触らないでっ」
『…儀式をするのよ、繭…あなたはあたし。だから…儀式をするのよ』
「違う!違う違う違う違う違う!あたしは澪にそんなことさせない!」

後悔させてやるわ、紗重。
あたしをだましたこと…
あなたがいうならきっとあたしは巫女。
なにがあっても、この呪いは自分で、解いて見せる!


TO BE CONTINUED→天倉 澪 拾弐


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: