クレドのにっき

クレドのにっき

零~天倉 繭 拾参~

『むつきおにいちゃん、かんむりってどうやってつくるの?』
『ああ、これは~…そーだ、千歳、これやるよ』
『わあい!おはなのうでわだ!ありがとうむつきおにいちゃん!』
むつきおにいちゃんは、とってもおぐしがながかった。かぜさんがふくと、
まっくろいひかりみたいにみえた。

「ぜんぶ、あいつのせい…いつきおにいちゃんがいなくなったのも、
さえおねえちゃんがおかしくなっちゃったのも…ぜんぶぜんぶあいつのせい」

ねえおにいちゃん、いつきおにいちゃん、むつきおにいちゃんはどこ?
…睦月はね…遠い処にいってしまったんだよ
いつ、かえってくるの?
…もう、かえってこないんだよ…。

「ここは…」
あたしははしごを降りて、少し行くと、また登るハメになった。出た所は、物置のような所。
一体、ここは何処だろう。目を凝らして、灯りのない中歩く。そろそろ、膝が悲鳴を上げていた。
でも、戻るわけにはいかない。あたしは天倉の巫女。あたしが招いた事なら、あたしが収集をつける。そう決めたのだ。
曲がりくねる廊下を歩いていくと、ふと思い出した。
そうだ、ここは先刻の屋敷に酷似している。
「桐生家と…同じ造りなんだ、ここ」

チリリン


「?!」
はっとして振りかえると、視界の隅に紅い着物が映った気がした。「さてはまた紗重ね?!ここは何処なのよ!」
紅い着物は、小さかった。…紗重じゃ、ない。
「あれ…えっと…ごめんね、人違いみたい。あの…あなた、ここ、どこだか」
こないでええええッ!!
たずねる前に、大音声で叫ばれて、あたしは怯んだ。紅い着物はよく見ると、肩までの髪のかわいらしい少女だった。ただ、向う側が透けているが。
「えと…何処だか、教えてくれるだけでいいんだけどな…」
紅い着物の少女は、胸の前で両手を組んで、頭を激しく両横に振った。
『厭ああ!さえおねえちゃん、こないで――っ!』
つと、あたしの横から紗重が現れた。
『ちぃとせちゃあん。どうしたのー?紗重よぅ。どうしてそんなに怖がるのーふふっ』
紗重が進む度に、ちとせと呼ばれた少女は一歩ずつあとずさる。
『ちがう!さえおねえちゃんじゃない!こないで!』
「ちょ…紗重!邪魔しないでよ!!」
紗重が急にこちらを振り向く。と、あたしはまるで紙のように何かに壁まで吹き飛ばされた。
「痛っ…」
『五月蝿いわ、あたし。あたしは、千歳ちゃんと話してるのよ。邪魔、しないで』
紗重が近寄る度に、血煙があがった。まずい、と判断して、あたしはまだ起きあがれない身体を懸命に起こして懸命に叫んだ。
逃げて!早く!!
少女の霊は、あたしに驚きながら、身を翻して、どこかへ消えた。
『…つまらない。どういうつもりよ、あたし。』
紗重の言葉に、あたしはやっと起きあがって言葉を吐き出した。
「あんな小さな子まで、呪いの犠牲にするつもり?!やっぱりどうかしてるわよ、紗重!」
紗重はこちらへ焦点の定まらない瞳を向けた。
『…あんただって…何を犠牲にしても、八重を欲しがってたくせに?あたしを?非難するの?そんな資格、あんたに、あるの?』
「…っ!」
紗重のいう事は正しい。あたしは、何が犠牲になっても澪と一緒にいるつもりだった。例えそれが彼女の意向を無視した形でも。

ちりりん…



今更ながら、自分の馬鹿さ加減には頭が下がる。息苦しさを紛らわす為に、襟を寛げながら、あたしはまた、全てのものが一対ずつある部屋に来ていた。
「…樹月…くんと、睦月くんの部屋ね」

ちりりん


また、あの鈴の音…!
戸口を振り返ると、影だけが走っていった。目線を何となく部屋の中に戻す。すると、布団の上に、紅い表紙の日記がおいてあった。触ろうとして、やはりやめようかと手をさまよわせる。結局、あたしはそれを手にとった。 ページを開くと、突然紅い文字が浮き出てきた。
「きゃ?!」

『さえおねえちゃん、おかしいよ。どうしちゃったの?
 ちとせのこと、きらいなの?
 でてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてってでてって…』

思わずあたしはその日記らしき本を投げ捨てた。
パタン…と本が閉じて、そして消えた。
「い…今の、」
あの少女のメッセージ?と、後ろの方でガタリと音がした。
きゃ――っ!!!
流石のあたしも、悲鳴をあげる。何故か涙まで出てきてしまった。
そうっと扉を開けて、盗み見る。
何もいない。
「…き、気の所為か」

ちりりん


きゃあああ――っ!!! いやーっもういやー!出るー!こんな所出てやる――!!」
あたしは一目散に廊下を走った。扉をあけ、扉をあけ…気がつくと、玄関らしき所に来ていた。
「はあ…はあ…た、助かった…」
玄関の戸が音もなく開いた。もうあたしは声も出ない。
そこに、さっきの紅い着物の少女がすうと現れ、外を指差した。
『でてって…さえおねえちゃん』
あたしが玄関を出ると、後ろでそれはぴしゃりと閉まった。まるでずっと前からそうだったように。今、あたしが出たその、事実は嘘だったとでもいうように。
「…もおこんな村、厭…」
あたしは黒澤家へ向かった。囁き橋の門を開けて。

TO BE CONTINUED→天倉 澪 拾肆~


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