鍋・フライパンあれこれ美味
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クレドのにっき
賛美歌 1
賛美歌
食事を摂る時は、必ず向かい合って。
オレが喋り、あいつはそれを楽しそうに聴く。
並べられている食物は、総ておなじもの。
食べる時、ハンバーガーの右側から齧る癖も、コーラばっかり選ぶ癖も、意地汚く袋についたケチャップを舐めてしまう癖も、全てがおんなじ。
オレたちは、全くおんなじ人間、そう、"デュオ・マックスウェル"と云う人間を演じているのだ。
「――でさぁ、そこでヒイロのやつってば、笑ったんだぜ!ひっどいよなぁ、店員に間違えられて茶ぁ飲まされたオレの身になれっつーの!」
デュオはハンバーガーの最後の一切れを口に放り込み、その時の事を思い出したように頬を膨らませた。
向かいに座る、おんなじ顔でおんなじ髪型、何処を見ても鏡をみているようにしか見えない少年が笑う。
「ははー、コーラと茶じゃあ全然違うってのにねぇ。色だけじゃん、おんなじなの」
「そーそー、コーラだと思って飲んだ時のあのがっくし感!デュー、お前もやられるかもよ、そのうち」
まだ半分くらい残っているバーガーを左手に、デューは大口を開けて笑った。
「ないないないないっ!兄貴じゃあるまいし、オレは絶対な~い~!」
スイーパーグループの中では、兄がデュオ、弟がデューと呼ばれていた。尤も、その違いなぞ、殆どわかる人間はいない。彼らは、デュオ。どちらもそうなのだから、どっちで呼ばれても振り返る。
こうして食事をする食堂では、勿論分かる。喋るのはいつも兄で、聴くのが弟だからだ。
「さあね~?オレたち同じだし、やっぱホラ、ふこーへーつーか」
デュオが云えば、デューはまた笑う。「ないっ。ないないない!オレはやんねー!んなことされたら、店全員皆殺しにしちゃうよ~」
ああそうか、なんて相づち。
「やればよかった!」
デューはバーガーを齧りながら、横目で兄を見る。
「あに、そん時は『ちくしょう、よくも茶なんかのませやがったなこの野郎、死神デュオ様が天罰くらわしてやるぜ!』とか、ゆうの?」
今度はデュオが笑う番だった。
「傑作!ケッサク!!いーねっそれ!」
バーガーの最後の一切れを飲み込んで、
「やだ、かっこわりー死神デュオ・マックスウェルの名が泣く!絶対泣く!」
二人は笑い合う。ああ、
この瞬間だけが、ふたりがただの兄弟である時間。
気がついたら二人だった。
双子の兄弟は、名前を持たなかった。
ただ、兄と弟だということは分かっていて、
弟は「兄貴」と呼んでいた。兄は弟にかける名前をもたなかったので、
なんとなくただ、話しかけていた。
スイーパーグループで名前をもらったけれど、それは双子だから効率よく仕事をこなせるであろうと云う目論見だった。
でも、兄は安心した。やっと、弟を名前で呼んでやれる。
現実はそんなに甘くなかった。
「兄貴ー、明日から仕事なら、残ってるビール呑んでいいよね?」
シャワーを浴びて出てきたデューは、長い髪をタオルで拭きつつ、リビングでテレビをぼうっと見ているデュオに話しかけた。
デュオは少し、……反応が鈍かった。
「…うん、いいよ。」
デューは髪を拭く手を止めて、タンクトップを着た。勿論既に下は穿いている。兄の側まで来て、ソファを背に、床に座り込んでいる兄の顔を覗き込んだ。
「…兄貴、夜の薬、飲んだ?」
デュオの瞳がさまよって、弟を見付ける。同じブルーの瞳をしばし見つめる。
「…ああ、忘れてた。」
やっぱり、と弟はため息をついて、タオルを首に掛けると、テレビの横の棚を開ける。
デュオは床に横倒しに寝ころんだ。
「…しにたい」
突然、云いだした。
デューは振り向かない。「またぁ?はいはい、お薬飲んでからにしましょーねぇ」
「…しにたい。なぁデュー、一緒に死のうよ」
これも、いつものことで、デューは慣れている。と、云うか二人きりになればどっちかが必ず云い出すことだ。
デューはデュオの分の薬を捜し当てると、――あ、二日くらい飲んでない――水を入れたコップも用意して、床で蹲っている兄へと差し出した。
「ほら。薬。」
目もあげない。ただテレビの乱雑な音を聞いている。床に長い三つ編みが転がっている。それと同じように本人も転がっている。
「やだ。ねえデュー、死のうよ。死のう。面倒臭い。もうやだ。死のう?」
「はいはい煩い。飲めっつーの」
半ば強引に腕を引っ張って、自分と同じ体重を軽々持ち上げる。だらりと、意志の無い身体はソファに投げ出された。
「やだ。めんどうくさい…」
デューはため息をついて、薬を口に含んだ。
そのまま、口移しに飲ませる。抵抗もせずに、嚥下する。
すぐに寝息が聞こえてきた。
デュオも、デューも、お互いの前でだけ本当の睡眠をとれる。
だから、デューは兄がそうしてくれるように、兄を抱き上げ、ベッドへ連れていった。
寝かせて、毛布をかける。
「…みんなおわったら、いっしょに死のうね、兄貴。」
それは、たったひとつの確実な約束。
みんなおわったら、一緒に死のう。
もう決めてある。教会の屋根か、すっごく高いビルの上から飛び降りるんだ。
手をつないで。
その日は、真っ白な服をきて。
喪服みたいなあの服は着ずに。
決まってる、血に映えるからさ。
「……ね、兄貴……」
――みんな、おわったら、一緒に…。
なんていうか、偶々、にしては多すぎる気がする。
「えー…と。なんで、ブッキングしてんの?」
ひとりごちて、デュオは目の前にいる人物をまじまじと見た。
黒い髪は陽に当たっても、茶けたりしない。深い黒で、瞳は濃い青。鼻筋が綺麗に通っていて、両目もまなじりが綺麗。うん、まあ何処から見ても、美人だ。
それは、いいんだけど。
「……こっちが訊きたい」
しばしの沈黙の後、件の人物――ヒイロ・ユイ――は云った。
白いワイシャツにネクタイは緩め。上の方のボタンを開けているからだろう。紺のスラックスは割と綺麗で、でもシャツの裾を出しているから、何だかだらしない。茶色の髪を、長い三つ編みにしていて、瞳は少し薄い、青。鼻筋は通っているけど、まなじりはきつくない。少し童顔だ。愛嬌のある顔立ちをしているな、と思う。いや、まあそこが…。
二人は同じ制服を着て、同じ寮の部屋にいた。
ヒイロはいつもの尊大な態度(?)で、大仰にため息。
「急に転校、なんて任務が入るから、何かと思えば…またお前と一緒とは。俺はツイてない」
ヒイロはよく喋るようになりました。ええ、なりましたともよ!でも、何でいちいちツイてないとかゆーわけっ。オレが悪いとでも?いやいやいや、悪いのはそう、OZ!OZでしょ!
なんかぐるぐる考えながら、混乱する頭を仕事に向かわせようとしたけれど、気がつくと天井を見ていた。
「は?おいちょっと」
ブッキングをツイてないとかゆーくせに、どうしていつも、すぐ押し倒すわけ?オレってお前の恋人とかじゃないし、…多分、オレはお前のこと好きだけど、お前はきっとオレのことなんか好きじゃないだろうし、いや、今は、
「あ、朝!!授業!に、2時間目!!」
に、行かなきゃまずいんじゃないの?!ヒイロは器用にデュオのボタンを片手で外し…ちょっと待てつーに!
「大丈夫。…成績は問題無い。」
「違う!サカってんじゃねえ!授業…ん」
黙れとばかりに口づけられて。
結局、押し通されてしまうのでありました。
そんなに昔のことじゃない。
だってまだ15.6年しか生きてないし?
まーそーだねー普通じゃないけど。ほらオレたち頭よかったんで。コンピューター関係なんか大好きで、色んなこと憶えたね。火薬とかの扱いも割と器用に出来て、うん、まあ…質がよかったんだよね、二人とも。
だからこんな人生になっちゃったんだろうけどさ。
ひとつこなしたらアメダマ一個。
任務こなしたら生を。
失敗は死。
まーそういうわけ。
「んーよし」
時計は安もんつかっといた。もったいないし。火薬も一応節約。
あと、5分。
さっさと立ち去って、インカムに告げる。
「こちらデュー。任務完了。脱出ぅ」
腹が減ってきたので、バーガー屋に立ち寄る。その後ろで。盛大な火花が空に咲いた。
「なんだ?!」
「テロ?!」
慌てる一般の方々を尻目に、店に入って店員にひとこと。
「…てりやきバーガーセットひとつ。コーラ、ね」
その三日後、オレは何回目かの交代を経験することになる。
「悪い、デュー。なんかオレ、だめかも」
パソコンに兄貴から通信が来た。背景は、どっかの部屋。何の任務だか知らないけど、制服着てるから学校か。
「どしたの。なんか、あった?」
デュオは人前で見せる笑顔なぞひとつも無い、昏い顔で云う。
「うん…ちょっと。なんか。ダメなんだ。代わってもらえる?」
デューは少し考えた。否、フリをした。元々兄がこんな通信をするのは精神の崖っぷちギリギリで、それは自分も同じで、そうしたら答えはひとつしか無いのだ。
「わかった。今夜は我慢して。明日すぐ行くから、メール頂戴。」
画面の向こうのデュオが安堵した表情をして、その瞳から涙が伝った。
「あ、ごめん。ごめん…」
相当きついらしい。
「大丈夫だよ、兄貴。すぐ行くからね。今日は薬のんで、早く寝ちゃおう。ね?」
宥めるように優しい口調で云うと、子供のように何度も何度もうなずいて、涙をこすった。
「うん。うん。ごめん。ごめん…でも、もうちょっと、話したい」
「…うん。わかった。そうそう、あのね、今日オレもやられちゃった」
「?」
デューは思い出し笑いをする。「ほら、こないだの。コーラ!今日ハンバーガー屋でやられたよぅ。」
デュオの顔に笑みが浮かぶ。
「あははっ、だから、お前もやられるっつったじゃん」
二人は声を揃えて笑い合う。そこに、距離なんかない。
「で?どうしたの、まさか、殺っちゃった?」
「まっさかー!公園で食ってたらナンパされて、ついでだからそいつらをぶちのめして、ストレス発散しときました☆」
「うわーコーラの恨み恐るべし!」
デュオの顔に笑みが戻った。デューも少しだけ、安心する。「…もしかして、その画面の端に見えてるのって、コーラ?」
目ざといなー、とデュオは云ってから、「そ。今日は大丈夫だった。」
デューは自分のパソコンの画面まで白い紙袋を引き寄せた。デュオに見えるように。
「じゃあ、それで薬飲んじゃおう。オレも一緒に飲むから。」
「うん。じゃあ、1.2の3で」
二人は紙袋を全く同じ動作で開け、色とりどりのシートから薬を出した。
「1.2の、3!」
薬が効いてきて、眠気を誘ったのでベッドに入った。
ヒイロはどうしてあんなことを云ったんだろう。と、考える。
「なんで、好きになってもらえないのかな…」
高望みはしない。何にも欲したりはしないから、ちょっとだけでも、友人くらいに、優しくしてほしい。オレはいつも云うことをきくし、逆らわないから。
ゆめが――せまって、くる。
いやだ、夢なんか…。
最初の任務だった。
「デュー、任務だ。」
弟が最初に連れて行かれた。
なんだろうと思っていながらも、学習を続けていると、自分も同じように呼ばれた。
そこで、
(いやだ、思い出したくない)
見たのは、
(忘れてるんだから、もういいだろ!)
「兄貴ぃ!助けて、たすけてーっ」
泣きわめくデューを、同じスイーパーグループの男たちが…
「…え。どういう…こと?な、なんで?」
すぐに自分も同じようにされた。
「やめてーっ、兄貴に何するのー!やめてよー!」
「どっちが目の前で死んでも、こうされても、冷静でいられるようにな。」
あの後、デューは笑顔を無くした。代わりにデュオは笑うようになった。
だけど、結局どちらも病んだのは心だった。
薬は未だ増え続けている。ちょっとした事で精神のバランスが崩れる。それが外に出ないよう出ないよう、押し込めている。
(…ねむい)
浅い戦士の眠りでも、今は眠りたい。
明日まで。明日まで。
――と、云うわけで空港に着くと、ちゃっちゃと荷物を交換した。
「じゃ、ごめん。頼むな」
笑顔が崩れる。兄を抱き締めた。「…大丈夫。大丈夫だから。オレの方は当分ひまだから、ゆっくり休んで。ね?」
「うん…うん。」
シャトルに乗り込む兄の姿を確認して、デューは歩き出した。
メールには一言。
”ヒイロと同室”
歩きながら、何故かふと原因はあいつにあるんじゃないか、と思って、デューは拳を握りしめた。
「あんの無愛想自爆男、兄貴になんかしてたら、即撃ち殺してやる!」
途中レストランに入って服を着替えて、学園に向かった。寮の部屋番号を思い出して、歩く。
「よーデュオ、美味しいアイス屋、見付けたんだけどいかねぇ?」
兄貴はようようもてる。というか、オレも。デューは人なつこく笑った。
「マジ?あ、でもちょっと用があんだ、後でいい?」
相手の男子生徒は、飛び上がって喜びそうな勢いだった。
「じゃ、後で校門で待ってる!」
手を振って別れて、”自室”に向かう。
ドアを開けると、キーを叩く音が規則的に聞こえていた。あー、またどっかハッキングしてますか。いや、オレもやりたいんだけど。ヒイロがやってくれんならその情報もらおうかな。
「なあなあ、何やってんのー」
後ろから腕を回すと、画面には思った通り。OZの基地。
「はーん。」
ぎらり、とヒイロににらみつけられたが、流す。
「みーちゃった☆まーオレもおんなじだからさ、いいっしょ?」
いいおわらないうちに、ネクタイを引かれた。
ブルーの瞳が間近。
柔らかい感触が唇に触れた。おまけに…舌まで入ってきました。
ええと、ヒイロさん、あなた兄貴とどういうご関係ですか?
唇を離すと、ヒイロはにやりと今まで見たこともない獣の笑みを見せた。
「なんだ、いつもは抵抗するのに。今日は大人しいな」
いつも?兄貴ッ、どういう関係――?!
頭の中は混乱していたが、外に出すようなヘマをしてはいけない。うん、外には出してはいけない。
「…今日は気分がいいんだよ」
ヒイロはつと、デューの手首に目をやった。
「?」
だが何も云わない。彼は椅子から立ち上がると、
ドアを閉めて鍵をかけました。
「…っ、う…」
「気分がいいんじゃなかったのか?」
いきなり挿入られて、どーもこーもないですヒイロさん。あんた、いや、兄貴、こいつとこういう関係だったん?!オレ聞いてないよこんなの?
ベッドに俯せにされて、羽交い締めにされているけど、下半身は繋がっている。
「昨日は…なんで暴れた?」
熱さを含んだ声で、ささやかれる。同時に、突き上げてきた。
「うあ!」
昨日?昨日…兄貴が通信入れてきた原因…まさか?
「答えろ…デュオ」
容赦ない抽送に、考える余裕など無くなった。もう大分オサラバしていた感覚に、吐き気がする。
そんな所で、感じている、自分に。
「うううん、ああ、もっ…と奥、」
「…」
ヒイロの顔はデューから見えない。ので、彼が首を傾げる代わりに眉を動かしたのはわからなかった。
三つ編みが揺れている。
自分の声が熱い。どこか遠くでさめて見ている。
「あ!あ!そ、こっ、うん、もっと!」
――随分、積極的、…?否、何だか…感覚が。デュオはこんなに乱れただろうか?いつも何処か、及び腰で、昨日なんて、泣いて暴れたから…?
シーツを引きちぎるように握り締める。
「うんん、もう、だめ、イクっ、だめ、」
――ネクタイで両手を縛ったのに…?痣もつかない、のか?
最奥に放って、モノが抜き出されると、デューは暫く肩で息をしていた。ヒイロの手が離れた事に気が付かない。
が、本能が告げた。デューは緩慢に振り返る。シーツを自分の方へ寄せながら。
そこには、銃を構えたヒイロがいた。
「…お前は、誰だ」
きっちりと眉間を狙われている。
「誰って…デュオ・マックスウェルですよ。ひーろさん。」
全くもう、困惑じゃなくてなんかもう、どうでもいーや。
愛銃は生憎、枕の下。ヒイロが引き金を引く方が残念ながら早い。
右手でほつれた髪を掻き上げながら、嘆息する。もーいーや。
「だから、お前は誰だ」
「…うっさいなあ。だから、デュオ。お前のよく知ってるデュオじゃ、ないけど」
流石に、ヒイロの顔が驚愕に固まる。あは、こいつも驚くんだ。
デューはヒイロを見て、笑った。
それは、確かに自分の知っている”デュオ”では無かった。デュオはこんな笑い方はしない。否、今までは見たこともない。こんな、艶やかな笑みは。
目の前のデュオそっくりの少年は、それから、目を細めた。
「デュオ・マックスウェルはふたりでひとりを演じている。どっちもデュオで、どっちもデュオなんかじゃない。…なあヒイロ・ユイ。あんたさぁ」
目の前に白い閃光。と、思ったのは捻ったシーツだった。足元をすくわれそうになり、慌てて跳んで、銃口が逸れる。引こうとした引き金を、シーツの鞭が襲う。絡め取られて、そのまま引きずり倒される。
「ぐっ…」
油断した!布だって一定のスピードで振れば、充分武器になるのだ。仰向けに倒れたヒイロの胸の上に裸足の足がどん!と乗っけられて、目の前に銃口が突きつけられた。
「…うちの兄貴にさー、いつもこんなことしてんの?弟のオレ様は全然きーてませんでしたよん。」
「…双子か…!」
足の下のヒイロがうめいた。それに更に体重をかける。
「質問してるのはオレ。お前は黙ってそれに答えろ。昨日、兄貴に何しやがってくれました?」
「…」
サイレンサーつきの銃は、パシュッ、と乾いた音を立ててヒイロの左肩を貫いた。ワイシャツに紅いシミが広がる。
「ああ、そう。答えない?なら、答えるまで何度でも撃つぜ。オレ割と冷酷なの。兄貴は優しいから、あんたに何されてもきっと何もしなかっただろうけどさ。」
「道理で…」
更に力を込めた足の下で、うなるようにヒイロが云った。笑みまでのせて。
「感度が、良かった筈だ」
パシュッ、パシュッ、パシュッ。左肩、右肩、右腕。
デューは痛みに顔をゆがめるヒイロに顔を近づけて、艶然とした笑みを見せた。
「…オーケー。それって、オレに最期を看取ってほしいってことよねん?強姦魔さん」
迷いもなく、引こうとした引き金は引けなかった。
ピピピッ、ピピピッ。
二人とも、目だけを向けた。
『ええと~…おーい。おーいってば?デュー?…あれ。おっかしいな、この時間ならヒイロはいない筈なんだけど。誰もでない…おーい?お兄ちゃんですよー』
付けっぱなしのパソコンだった。
今まで誰かが座っていた、という風に投げ出された椅子と、部屋の背景。通信が通るということは、近くにいるんだろうけど。ヒイロはちょっと早く任務に行くだろうから、今ならデューと話が出きるだろうと思ったのに。
デュオはどうしようか、と思ってパソコンの前で考え込みそうになった。
『HI、My brother?』
唐突に画面に現れた弟の姿に、デュオはびっくりして椅子から転げ落ちた。
「デュ、デュデュデュデュー?!なんだっ、その格好?!なんでシャツ一枚なんだ!!」
思い切り不機嫌そうな顔で、画面の向こうの弟は何かを左手でたぐり寄せた。
『こいつに犯られました』
「ひ、ヒヒヒヒヒヒヒイロっっっ?!うわーっ、血だらけ!!」
『…本当に双子なんだな』
「
ぎゃーっバレたー!!
じゃなくて!デューに何したー!」
『ねえ兄貴、こいつとどういうご関係?オレ様に教えてくれてないよね~。』
デューはヒイロの額に銃を押し当てて、にっこり、綺麗に笑った。
『約束その1。二人の間では隠し事をしない。約束その2。秘密がバレた時はその相手を処分する。…二人で決めたことだったよね?』
「だ、だだだだだめだめだめだめだめっっ!!」
シーツでぐるぐる巻きの上、多分なんか余計なことを云ってデューの怒りをかったのであろうヒイロ。つーか、
「だめっ、黙ってたのは謝るよっ。だから、殺すのは…」
『なんで?!兄貴、こいつの所為で昨日の通信入れてきたんでしょ!そんなやつ、殺しちゃっていいじゃんか!』
「
だめ――――――ッッ!!絶対ダメ!!
」
沈黙が支配した。
デューがため息をついた。
『ああそう。兄貴、好きなの。こいつのこと』
「あわわわわわ」
ヒイロにも聞こえてるから!!ヤツはいつものように…ていうか、ちょっと意識なくなりかけてない?デューは銃を外して、ヒイロをぽい、と画面外へ捨てた。
『わかった。わっかりました!はいはい、恋する乙女は複雑ですね、じゃーオレ様は犯られ損ですか。ああそーですか。おにいさま?』
またもにっこりと、きれーな笑みを浮かべて、デューは…
『…今度あったらおぼえてろ馬鹿兄貴』
ぶちん!
……デュオ・マックスウェル(兄)がこの世で一番恐れているのは、デュオ・マックスウェル(弟)なのだ。
「ああああああああああああどうしよう!口きいてくんないかもしんない!どーしよー!」
頭を抱えてわめいても、誰もいない。
つづく☆
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