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クレドのにっき
賛美歌の伝え方
賛美歌の伝え方
平和の為の戦争だなんて、嘘ばっかだ。
戦争は、平和と云う束の間の勝利の証、カップを受け取る為のゲームで、そしてまた次の平和と云うカップを奪い合って、戦争が始まる。
多分、そんなもんなんだろうと、オレは思ってる。
「…ごめん、デュー。オレ、やっぱり…最後の約束も破っちまう」
愛銃に手を伸ばした。馴染んだフォルムに、なぜか涙がこぼれた。
「…きっと一緒に飛び降りたほうがよかったのに。よかったのに…、だめだ。だめなんだ…」
セーフティ外して、こめかみに当てた。
その時、ドアが開いた。
「あ”――っもう!!メールまだかっ!兄貴は無事か!否、無事なわけは無いけど、死んじゃいないだろーなっ?!」
デューはパソコンの画面の前でうろうろうろ、歩き回っていた。
大穴の開いた壁はダンボールが貼ってある。
「…二人とも、同じ名前なのか」
床から声がした。そちらをぎろりと睨み付けると、デューは無言で
2キロのダンベル
を落とした。
「ああ!云ったろ!オレたちは二人で一人を演じてるって!…まあ、兄貴はデュオ、オレはデュー、って呼ばれてるし呼んでるけどな!」
床には、未だ梱包物のヒイロ。の傍に、2キロのダンベルはめりこんでいて、…これ、また直すんじゃないのか?…とヒイロは思った。
「あ!」
ぴよん!とメールの着信音。
メールを開いたデューの顔が、安堵に変わる。
「…間に合った…!任務了解、遂行する」
「…そろそろ、ほどいてくれてもいいんじゃないか?」
デューは床の梱包物には目もくれず、パソコンをいじっている。何処かをハッキングしているのか。
ヒイロはため息。撃たれた四箇所の傷がじくじく、痛みを訴えてきている。とりあえず貫通はしているけど、手当てくらいしないと、膿んだら困る。
外は暗く、星の瞬きが見える。
床に転がっているヒイロの目に、コロニーが見えた。
デュオはあそこにいるのか。L2コロニー。
…本当は、そう、手放したくないくらい、なんて、そんなこと云えない。
任務の前に抱くのは、せめて、最後に思い出すのがお前であるように。お前のぬくもりであるように。
何処かですれ違っても、軽く声をかけられるような間柄じゃないなら、身体のつながりだけだと思わせていたい。
あいつにとって、重荷にならないように。
「――重荷になりたくない、とか考えてない?」
唐突に言葉が発された。パソコンのキーを忙しく打ちながら、デューは目線もくれずに云った。
「…何のことだ」
あくまでも、ヒイロは姿勢を崩さない。なんて馬鹿。強情!
デューは画面の中の建物の構造を頭に入れながら、
「お前が、兄貴に素直に云って、それが重荷になるなんて考えんなら、抱くなよ。兄貴はお前やオレみたいに割り切れるタイプじゃないんだ。肌を憶えてしまったら、もう忘れられない。必要とされるなら、何でもやる。…そういう、ひとだから」
――それは、きっと俺も…同じなのに。
ヒイロは目を伏せた。
――あの夜、優しくしてくれたから。…その優しさが、嬉しくて、嬉しくて、仕方なくて。だから、その優しさを独り占めできたら、と思ってしまった。
かたん。
パソコンの電源が落とされた。
デューがこちらに向かって、銃を向けていた。
そっくりの顔。でも、全然違う。
「…でもね、兄貴は先約があるんだよ。」
パシュッ、と乾いた音がした。
ヒイロを取り巻いていた梱包がばさばさと床に広がる。
動けないヒイロをぽい、とベッドへ放り投げて救急キットを出しながら、デューは歪んだ笑みを浮かべた。
「みんな終わったら、二人で一緒に、死ぬっていう、約束。」
「眠れるか?デュオ」
ベッドの上で、ぼんやりと天井を見つめている。頼りない白熱灯。
殺風景な病室の中で淡い青のカーテンと、…ああ、窓の外はきっと鉄格子。
サイドテーブルに、青い薔薇が活けてあった。
「…センセー。オレ…」
栗色の髪に碧眼、結構な男前のデュオたちの主治医は、すぐに兄か、弟か見ぬく。例え、おんなじ動作をしていても、だ。
「厭なことがあったんだろ。じゃあ、寝ちゃいなさい。…デューが代わりに任務をやってくれるって云うから。」
そう云って、頭を撫でてくれる。
「…うん。」
主治医の後ろで、ドアが開いた。プロフェッサーGが入ってきた。
「あ。プロフェッサー。」
「…悪いの。疲れてたんじゃな。ここの所、どたばたしていたからな。」
こう云うとき、彼は本当は優しいと云う事を改めて思う。
…あの、最初の任務は、彼が知らない所で行われた、そう、一種の暴動のようなものであったことも。
そうだ、寝ちゃおう。これで、デューとの約束を破らないで済む。
「ねえ、センセー。オレ、どのくらい入院するの?」
主治医は少し考えたようだった。
「そうだな…最低十日は欲しいな。…如何ですか、プロフェッサーG?」
プロフェッサーは一も二も無く、頷いた。
「デュオの身体の方が大切じゃ。十日でも、二十日でも、出来るだけ休ませてやるから、…早くまた、元気になっておくれ」
主治医は微笑んだ。「…そう云ってくれると思ってました。…じゃあ、ひとまず、落ち着くまで。ゆっくり。やりたい事をやって。寝たいなら寝て。好きなようにすごそうね、デュオ」
デュオは笑った。それは、無理な笑顔だった。
「…ありがと。プロフェッサー。無理いってごめんなさい。ちょっと休んだら、すぐ大丈夫になるから。」
二人とも、笑みを作ったつもりだった。
「プロフェッサー…なんで、泣くの?」
ヒイロは出血が多く、少し傷口も膿みかけていた。自分の身体はそんなにヤワだっただろうか、とも思うが、あれだけ至近距離から撃たれてこの程度なのだから、まあいい方なのかも知れない。
デューの手当ては的確で、すばやかった。
ついでに止血剤と化膿止めもくれる。
そういう優しさは、変わり無い。
ただ、違うのは、笑みが無い。
デューには、あの笑顔が無い。デュオは、いつでも何がしかの表情と云うものがあった。だけど、彼には、それすらない。死人のような、無表情だ。
「…なに。」
目線が合って、自分がずっと彼を凝視していたことに気づいた。
「…別に、」
デューは徐に、ヒイロの前髪を掴んで、自分の目の前に引きずり寄せた。
顔をしかめた彼に、にやりと、死神の笑み。
「オレの顔に表情が無くって、悪かったな。お前も大概コワレてるけど、オレたちはもっとコワレちゃってんの!見てみる?証拠!」
乱暴にヒイロを放すと、デューは自分のトランクを開けて、その中から紙袋を取り出した。
「今夜の分の薬。お前なら、わかんだろ?ひーろさん」
――それは、精神安定剤と、睡眠薬。かなりの量。かなり強い薬。
「普通の人間が飲むと、逆におかしくなるらしーねん。飲んでみちゃったりする?ヒイロ」
デューは水もなしに嚥下した。
そして、また笑う。歪んだ笑み。
「一日三回、あと頓服。お前と遊んでた所為で、ここんとこ飲んでねぇ。ちょっと、言動とか行動とか、可笑しくっても、気にすんなよな」
またヒイロの前に戻ってくると、くつくつと笑った。
「明日、任務だ。今日はねとかないとね。…ヒイロ、お前の回線閉じちゃったから。」
これには流石に、ヒイロは唖然とした。
デューはくつくつ、笑いつづける。こちらの反応を楽しむように。
「ウィルス走らせて、回線ごと焼ききった。とりあえず、復旧には結構かかるよねえ。その間、どーやって任務受けるぅ?うけらんないよねぇ!あは、あははっ!ていうか、応答無しで自爆するハメになっかもよぅ?」
腹を抱えて、デューは笑った。ベッドの上で笑い転げる。
ヒイロは、いつものように云う、
「…覚悟は、出来ている」
「覚悟!覚悟ねえっ!あはははは!それこそ欺瞞、嘘だよヒイロ!」
飛び起きて、ヒイロの傷に指を這わせた。
艶やかに。
「自爆すれば済むってか。済むってか?なあ、ヒイロさんよ。アンタそれでいいん?何の為に戦ってんの。戦ってんの?コロニーの為?コロニーの為?あはは、嘘ばっか!
てめぇの為じゃねぇかッ!!
」
包帯を突き破って、傷をえぐる指は容赦が無い。ヒイロのうめきはデューの狂った笑い声にかき消された。
「確かにアンタァ立派だよッ、ああ立派さぁ!伝説になるだろね!だけどねぇ、オレたちには寧ろどーでもいいんだよッ自分が生きていることすらね!どうせ生きるのも死ぬのも、おんなしじゃねーかっ、食って糞して寝て起きて殺し合う!人類がやるこたァいつまで経ってもかわんねぇかわんねぇ!」
悲しいくらいの真理だ。
デューの云っていることは正しい。悲しいくらいに正しい。人類が闘争を止めることなど、有り得ない。有ったら、それこそ、人類という種は滅ぶだろう。
退屈過ぎて。
傷をえぐる指に、血がまとわりついた。ヒイロの包帯はほつれて、だらりと床に転がった。
時計は深夜を切った。明日がやってきた。
「…デュオは…そんな風には、笑わない」
苦々しく、うめいた。デューはまた上ずった笑いを歌った。
「あはははは!そーだろねー!でも生憎、オレはデューだからさ!ああ違うな、今は元の名無しだ!名無しだからさ!特段気にすることも無いっ、でもアンタは気にすんのか、兄貴のこと、どう思ってんのか知らないけど!」
傷を抉って、そしてさらに奥を抉る指。爪が、傷を広げた。
「お前は、悲しそうだ」
指が止まった。数瞬置いて、笑いがピタリと止まり。
無表情に変わる。
「誰が、カナシーって?」
声音も、無表情で低い声だった。
ヒイロは、もう一度。今度はその瞳を見つめて、正面から見つめて、云った。
「悲しいなら、泣けばいい。…我慢しているから、笑うなんて、辛い」
衝撃が、腹部を襲った。
「わかったような事云うな。お前が思ってるほど、世界もオレも兄貴も、簡単じゃないんだ。…勿論ヒイロ、」
そこで、笑みを浮かべないまま、無表情のデューが云う。
「お前も、そんなに簡単に出来ちゃ、いないだろ?」
夜が明ける。
「そうだ。誰も彼もこの戦争が早く終わって欲しいなんて思っちゃいないのさ。思っちゃ、いない。…寧ろ長く続けばいいとさえ、思っている。平和の為にと言いながら引き金を引き、殺し合い、その数を競い、屍の多さで栄光を手に入れる。さぁ任務だ。殺しに行こう。殺しに行こう。」
死神デュオ・マックスウェルに成って。
TO BE...
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