クレドのにっき

クレドのにっき

賛美歌で出来ること。

賛美歌

出来ること。


 今日は雨。
撃ったばかりの銃を、懐に仕舞って、デューはポケットに両手を突っ込んだ。
ふと、見たショーウィンドウに、目深にかぶった帽子の下、表情が無い自分。
 ああ、いけない。いけない。オレはデュオ・マックスウェルだ。もっと笑わなきゃなー。
唇の端を吊り上げる。
うまくいかない。
もうちょっとうまく笑えないかな。
無理して作った笑顔は、泣きそうな顔に見えた。
「…どうして、巧くいかないんだよ…!」
「…デュオか?」
声の響きに、余り覚えは無かった。でも、なんだかこの硬い口調、ヒイロのやつに似てる。
「…や、五飛。元気?」

 ショーウィンドウを見つめている長い三つ編み。黒尽くめの服。
それは、多分あのいつも喧しいデュオに違いなかった。
死にかける時だって、何してたって、いつも騒がしいやつで。
未成年のくせに酒好きで、何度取り上げたことか。
だが、今目の前にいる、…この少年は、本当にあの、デュオなのだろうか?
「…これから夕飯なんだが。行くか?」
五飛は自分の口からそんな言葉が出た事に、内心コロニーが落っこちそうな程、驚いていた。
デュオは、きょとん、としてから、笑顔を…ああ、あのいつもの笑顔。
「うん、いいね!何処にする?」
二人は並んで歩き出した。
「お前の奢りだ。」
「えっ、なんで?!」
五飛はぼそりと云った。
「先刻の任務、お前に取られた。」
 中華飯店に入って、ひとの奢りだからと散々注文してやる。デュオはカードを見ながら、ああ、とため息をついていた。その割には、よく自分も注文している。
ちょっと、心配になる。お前、そんなに金あるのか。カード破産…Gのパイロットがそんなことになったら、大笑いされるぞ。
見抜いたのか、デュオは炒飯をほおばりながら、
「ひゃいじょーぶ、…大丈夫。こう見えてオレ、堅実に貯金してっから。」
云って、にっと笑う。その笑顔も、やっぱりいつものデュオで、五飛は自然と口元を綻ばせる。
 あれは幻覚だったんだ。…泣きそうな笑顔のデュオ。
『どうして、うまくいかない…!』
泣きそうな声で、自分の顔を歪めた少年。
そんなわけは無い。あの笑顔を見せていてくれ。そうでないと、心配になるじゃないか。時々、信じられないほど、冷たい目をするお前を見たから、死神のデュオ・マックスウェルを見たから、撃った人間の死を悼み、静かにそらを仰いだお前の祈りを見てしまったから――。
「どしたの、五飛。食べないの?もらっちゃうよん?」
箸を持つ手が止まってしまっていた自分の顔を、デュオが覗きこんでいる。
覗きこんでいる、深い海の色、否夜の色。不思議そうな表情を乗せて。
「…何でも無い。というか貴様、何故ひとのものを取りたがる」
剥き海老を口に放り込んで、
「こみゅにけーしょん、と云ってもらいたいねえ!なんか――アレ。」
「アレ?」
首を傾げた五飛に、箸をくるくる回して、デュオは天井を見た。
「好きなもん、半分こするのっていいじゃん。相手のこと、好きってことさ。嫌いなやつのもんなら食いたくなんか無いし――そも、一緒に飯食ったりはしないじゃん?」
自分の顔に熱が集まったのを感じた。
なんて事云うんだろう、こいつは!
にひひ、とデュオの目が三日月型になる。
「どーしたん?五飛。なーんか顔赤いよ~?熱でもあんの?」
「な、ななんでもないっ!!早く食うぞ!」
こいつは、本当に死神だ、つまりは疫病神だ、全く、全く全く!気づいているのか?お前、自分のことを好きだって云わせたいんだろう?
にひにひとにやけながら、デュオははいはい、と素直に残りの皿に箸を伸ばした。
 帰り道。風が吹いている。夜も深夜を過ぎようとしていた。
タンクトップ一枚の五飛に、暖かい気配がかけられる。
見れば、黒い上着がかけられていた。
「五飛、それじゃ幾ら何でも寒いだろ。着ろよ」
また、何て恥ずかしいことをするんだ。突っ返してやろうかと思ったのに、さっさと袖を通させられてしまった。
「…お前、寒くないのか」
白いハイネックのトレーナーの袖を手首まで戻しながら、デュオは笑う。
「大丈夫だよ。寒いのにゃ、慣れてる。」
「――~」
云うべき言葉が浮かんでこない。
デュオが右の道を指差した。
「オレ、あっちだから。五飛、今日は楽しかった。ありがとな」
また今度、一緒にメシ食おうぜ、なんて云われて、…駆け出そうとした腕を掴んだ。
「五飛?」
よろけた身体を抱きとめて、唇を重ねた。
「――」
「――」
柔らかい感触と、柔らかな髪。
そっと、自分の背に手が回されて、なだめるようにたたかれた。
唇を離すと、目の前に、デュオの顔があった。
今更、恥ずかしくなった。
「…上着は、洗って返す。…それまで借りてて、いいか」
「…いいよ。」
五飛が去った後、自分の唇を人指し指でなぞった。
「…"オレ"も罪作りだねえ」
まだそこに、感触が残っているような、そんな気が、…した。

 寮に帰ると、びっくり。
「あら。あららら?あっら~」
わざとらしく、驚いて見せてやる。ヒイロがこちらを振り向く前に、 3キロのダンベルを投げた。
気配を察知したのに、傷の所為でだか何だかともかく、そのダンベルは 見事にヒイロの顔面にめりこんだ。
どたーん!がしゃがしゃがしゃ!
キーボードの線がヒイロの腕に引っかかって、パソコンが追い討ちをかける。
あっという間にヒイロは機械の中に埋もれた。
「あはははっ。そんな身体で何ができるってゆーの?まともに動けもしないくせに。怪我人は大人しくしてな」
足を伸ばして、機械の中に埋もれたヒイロに追い討ちの蹴り。
は、かわされた。
「ん」
ダンベルが返ってきた。ひょい、と避けると先日開いた穴の上のダンボールが破けて、隣の部屋の生徒がまた受難。
「先生ぇ――っ!!」
ばたん!とドアを開けて入ってきた教師は、眼鏡を直しながら、
「またですか!!デュオくん、ヒイロくん!…あら」
ヒイロが、デュオの上に乗っかっている。デュオのワイシャツは胸のあたりがはだけられている。
どー見ても、ロクな想像は出来ない。
「…先生、ひーろくんがオレを襲おうとしてるんですぅ」
まあそう云われたら、…疑う余地の無い姿勢であった。
この二人、出来てるんじゃないかって噂、本当だったのかしら――と教師は心中で呟く。
絵になるカップルだわ。宇宙一。
既に教師という職業を背負っているということは、彼女の頭の中には無かった。
やりなさいヒイロくん!!愛の前に障害はつきものだけど、先生応援するわ!!
ちょっと待てやこらぁ!止めろ馬鹿教師ぃいいい!
うう、馬鹿ばっかりだ。この学園は。
と、デューは思いつつ、目の前のヒイロを殲滅すべく、三つ編みの付け根にヒイロに掴まえられていない左手を差込む。
キスを迫るヒイロ。カプセルを口に含んだ。
教師と、集まってきた生徒たちは、見てしまった。
濃厚なディープキスを。
しかし、その後、ばったりとヒイロは床に倒れこんだ。
「へへー。どお?ヒイロ。いっちばんつおーい睡眠薬だよん。GOOOD NIIGHT!」
教師は、既に目をきらきらさせながら、そしてがっくりした。
「ヒイロくん…愛に障害は多いのね。でも、きっときっといつの日にか、実ると、先生思ってるわ…!!」
「先生ぇ。オレの意思は?」
デューが尋ねると、教師は、ばっと手を広げた。
「デュオくん!!ヒイロくんの、一途な思いをわかってあげて!!先生、…きみが恥ずかしくて受け入れられないのもわかるけど、ヒイロくんの一途な思いに負けたわ…だから、私は応援するの!」
あーもう、何云っても女はこうなったら無駄なのだ。
へいへい、とデューは頭をかいた。
「オレの意思は無視ってわけですかい。あーもう!見せモンじゃねーぞこらああっ!!」

 やっと皆が立ち去り、静かになった部屋で、デューはパソコンを直し、開いた。
「…ふん。一日でここまで復旧か。ようようやるね、こいつ。」
ヒイロの回線は虫食い状ではあるものの、かなり復旧されていた。メールくらいなら、受け取れるだろう。
デューはにやりと笑みを乗せた。
「んじゃこんなのはどう?」
新しいウィンドウを立ち上げて、プログラムを組む。ランさせた。あっという間に、ヒイロの回線は焼かれた。
「エンドレスウィルス。80パー、つまりさっきの所まで復旧したらまたウィルスが走る。んで、食う。それが延々続く。こいつには解除コマンドを撃ちこむしか無い。尤も、解除コマンド思いつくかな、あはは」
床で眠っているヒイロは何を考えていたのやら。
「全く…全く全く全く。でもまあ、興味は出てきたね。生かす価値くらいはあるのかもしんない。…兄貴は殺すなと云ってたけどね、オレは本当はあのまま殺す気だったんだ」
眠っているヒイロを、ベッドへ放り投げる。
その寝顔を見ながら、デューはくす、と笑みを浮かべた。
「…でも、さ。お前が…オレの気持ちを変えることが出来るなら、まあ少しは赦してやろうかな。兄貴に近づくこと…オレたちの秘密を知って尚、生きていられるなんて僥倖なんだぜ」
死神を見た者は死ぬ。否、殺される。
そう、それは、鏡を見た者は、と云う意味もある。
ヒイロも、…他の3人だって例外じゃない。誰か、他に気づいたら今度こそ自分は消すだろう。
ああ、そうだ。
「可哀想な五飛。…気づいてないと、いいんだけどね」

 デュオの上着。
「…なくしてしまったって云ってしまおうか」
返せそうに無い。
手放せそうに無い。
独り占めしているヒイロが羨ましい。
あの笑顔を、独り占めしているヒイロが。
「…殺したら、デュオは手に入るだろうか?」
否、と思う。ヒイロがいるから、彼は笑うのだろう。
自分にあの笑顔が向けられるのは、彼の等しい人間への愛だ。
 特別なひとりになりたい。
 どうしたら…なれる?
 思いつかない。

「お前が思っている程、デュオ・マックスウェルは、綺麗じゃないぜ?五飛…」

TO BE...



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