クレドのにっき

クレドのにっき

聞け、天の声、聞け、賛美歌を。

聞け、天の声、聞け、賛美歌を。


 リリーナが殺された。
それは、彼女のいたコロニーの生命維持装置が壊れ、結果、人類はリリーナ・ドーリアンを失う。
コロニー市民3千万人を道連れにして…。
誰もが気づかなかったのだ、空調システムが狂いはじめていることに。
酸素を作り出している筈が、一酸化炭素を排出していることに。
まず動力部の人間が死んだ。
そこで連絡は完全に断たれる。次に、外部との連絡司令部の人間が死んだ。
ここで完全に外――つまりは他コロニー、地球――との連絡も断たれた。
 可哀想に。
空気が無くなって、真空でもがいて、アストロスーツを奪い合い、結局何処にも出れはしない――武器類は全てコロニーの外壁を破れる威力のものはなぜか置いていなかったし――リリーナの死骸は、外部連絡司令部で発見された。最期まで、無線とマイクを握っていた。
 ああ、かわいそぉに。
でもねお嬢さん、アンタが悪いんだよ。
アンタが…オレからヒイロをとるから。
ヒイロは、…戦争が終わるまでは一緒にいてくれるって云ってた。
だけど、…本当は優しいから、誰も殺したくないとも云ってた。
オレと、ヒイロは、違う、んだね。
だからこうやって、今、OZの残党を率いて戦争を起こしまくっている。
地球なんか滅びてしまえ。
コロニーも滅びてしまえ。
この宇宙に、ニンゲンなどという生き物はいなくていい!
いなくて、いい…。
「デュオ様」
廊下で声をかけてきたのは、副首のひとり、ゲイルだ。
はげた、いかにも軍人てツラしたおっさんだけど、一晩寝たらすぐおちた。
要は、オレにゾッコン、てこと。
「何?ゲイル」
全然年も違うし、背丈だってオレの方が頭二つ分くらい小さい。それに頭を下げるのは、端からみれば随分滑稽だろう。
「次の攻撃目標は如何いたしますか」
次の、ねえ…
オレは口端を吊り上げた。
「オレはねえ、待ってるんだよ。たったひとりで、ここへ乗りこんでくるような、無謀なやつをね。」
「…デュオ様方に勝てるような者がいるのですか?」
「うん、まあいるんじゃないかな?爆発に巻き込まれてなきゃ、3人ほど心当たりがあるねえ」
攻撃目標といって声明を出したりはしないし、うん、そうオレはある日突然降りかかる不幸ってのがダイスキなんだ。
だから、その日の気分とか、デューと話してて、あの街ムカついたよね、なんてので決める。
…ウィナー家の当主が死んだと云う話は聞いていないから、まだカトルは生きているだろう。そうしたら、多分マグナアック隊と一緒にここを割り出してくるんじゃないかな?
尤も――三日前にマグナアックの街は吹っ飛んだけど。地下までちゃんと焼いたから、生存者もいないし。念の為、こっちも出て行ってサーモサーチで探して片端から斬りまくった。
その時見知った顔――ラシードとか云った?――に何故、と云われたけど、さぁ、アンタはなんでだと思う?と返して永遠に黙らせた。
サーカスの興行のルートというのもある程度決まっているから、どっかの街でもうトロワは死んでるかも知れない。
サーカスは終わりかけが好きだ。客が段々席を立っていって、自分だけぽつんと残されるあの感覚。
あれがどうしようもなく好き。
「兄貴、どうするー?ねえ、こないだとおった街でさ、オレらに幾ら?って聞いて来た奴らいたじゃん。」
たたた、とデューが走ってきた。あの事件以来、デューは完全におかしくなってしまった。精神年齢が後退し、…五飛のことを憶えていない。ただ、その頭蓋骨だけは、大切にいつも抱えているが。
「うん?あの街…か。いいね。にぎやかでいっぱいいた。あそこならいい花火が見られそうだ!」
 夜になって、デューと二人でベッドに入る。
「薬、飲んだ?」
「のんだ」
どちらからともなく問い。
灯りを落とした寝室は、薄暗い。
視界の端に、動くものを見つけて、咄嗟にベッドから転げる。
今までオレがいた所に、硝煙を上げる焦げた穴。
オレが銃を構えると、後ろからデューのナイフが飛んだ。一マイクロミリの穴すらも外さないそのダガーは、有り得ない曲線を描いて、左右から曲者を狙った。
ぱちん!と指を鳴らすと、室内が明るくなった。
照らし出されたのは、緑のタンクトップ。ジージャン。白いジーパン。
黒味の強い髪に、海の色の瞳。すっと通った鼻筋に、きつめの眦。
「まさか…お前が総帥だったとはな」
久しぶり。ようやっと追ってきてくれた?
「あはは☆パソはスタンドアロンにしといたんだけどねん?よくここがわかったじゃん」
「ヒイロ、お久しぶりーねえねえ、ナイフ刺さってるけど、いたくないの?じゃあ、何本まで刺せるかやっていい?いい?」
口の端を吊り上げる、死神の笑みと、無邪気な子供の笑み。
「…リリーナを、何故殺した。」
ヒイロが撃つ前に、オレが撃っていた。左腿を撃たれて、片ひざをつく、
「何故?何故?もしかして、わかってないのヒイロ?」

 きょとん、とした顔で本当に不思議そうにデュオはきいてきた。
俺にはわからない、何を考えているんだ?平和になることを望んで、お前は戦ってきたんじゃないのか?違うのか?
「だってサ、お嬢さんは戦争おわらしちゃったでしょ」
「だからそれは、お前も望んでいたことだろう!何故、今また戦争を起こしている?!」
あははははははははははっ、と歪んだ笑い声。
「簡単さァ。戦争がスキだから。ニンゲンなんてみんな滅んじまえばいいんだ。滅んじまえばいーんだ。だから、殺して回ってる。戦争?違うよ、 虐殺 だよ」
銃口を構えなおした。だが、揺らいだ銃口は撃てず、デューからのナイフを受け、銃は床に転がった。
巧みというか。そのまま転がった銃はベッドの下に。
別段他の手段がないわけではない。だが――
「お前は、狂ってる。…トールはどうした」
「ん?いるよー。センセーは協力してくれてるんだ」
協力?!
ヒイロの中で混乱が始まる。
だから、いつのまにかデュオが近づいていたことにも気づいていなかった。
「…ずっといていいって、云ったのに。お嬢さんを選んで、オレを棄てたのは、ヒイロじゃないか」
「――!」
目を眇める、死神の…
「でもそんな繰言を云う為に待ってたんじゃないんだぜ?これからヒイロはお客様として扱ってあげる。そして、最後のひとりになるまで、見せ続けてあげる」
デューが手枷を持ってきた。
「手枷はつくけど、三食昼寝付き、なんならオレたちが夜伽してもいいんだよー」
あははははっ。
二人は声をそろえて笑う。
「…!」
咄嗟に舌を噛もうとしたのに、それは叶わなかった。デュオが舌を絡めてきた。
「自殺とか自爆とか。そんなことしちゃっていいの?ねえ。生きていれば、復讐の機会だってあるかもしれないよー?…お嬢さんの復讐、したいんでしょ?」
なら、オレをコロシナヨ。
耳元で囁かれて、眩暈を憶えた。
ベッドへ押し倒されて、キスをされる。
「…やめろ」
「やぁだ」
デュオはヒイロの上に跨って、既に勃ちあがっているヒイロのものを、自分の中へ埋め込んだ。
「く…うん、あ、ヒイロだ…ずっとまって…た、この…感じ。ねええ、突いて、突いて、もっと奥へ埋め込んで!」
恍惚と瞳を濡らして、…ヒイロにも限界と云うものがある。狭く熱い、柔らかなデュオの中は、確かに最高だ。
突き上げる度、悲鳴のような嬌声が上がる。
「ひゃああっ!ああっ!あ、あっ!あーっ!」
理性のたがが外れた。しなやかにのけぞるデュオを、手枷のまま首に絡めて、キスをする。一層深く埋め込まれた楔に、
「んんん…!んううぅう!」
蚊帳の外となってしまったデューが、指をくわえてみていた。
「いいなー、きもちよさそーで」
「ううん…だめ、もう、ヒイロ、出して…!奥に!」

 通されたのは、立派な客間だった。
客人扱いするというデュオ兄弟の言葉は嘘ではないらしい。
ただ、窓の代わりに大きなモニター(かなり頑丈)があって、そこで戦争のことが一日中流れている。
アナウンサーの女性が云う、「今日はユーラシア南部の中規模の街が標的にされました。地球連邦軍も向かっていますが、依然動機などは不明のままです。」
多分、その軍隊は戻らない。ただの60個の肉塊を生産したに過ぎない。
ヒイロは十分過ぎるほど、スプリングの効いたベッドに腰掛けて、モニターを見ていた。
本当はもう見たくなかったけれど、スイッチもリモコンも、見当たらない。
「既に、地球の40パーセントの都市が致命的な破壊を受けています。地球連邦軍は、組織的にこの破壊的な組織を壊滅するべく、行動をはじめました」
女性アナウンサーの声に、別の声がかぶった。
「あははっ。馬鹿みてー。オレらを殺す?ふぬけた軍のやつらが!元Gのパイロットを殺そうなんてね!笑っちまう」
振り向くと、ドアからデュオが覗いていた。
「デュオ…」
その、左手には、
「な――」
無造作に床に投げ捨てる。血しぶきが、ヒイロの頬にかかった。
「久方ぶりの再会、涙の再会ってわけ。ああ、血の――かな?ねえ、トロワ」
血まみれの、その青年は確かにトロワ。碧の瞳の奥に、静かな怒りをたたえて。
そのトロワを、足でけとばす。
「ああ、キャスリンとか云ったっけ、あのアマ。狼の群れに放り込んでおいたから。生きてるといいよね。あ、それとも死んでた方がいいか☆マワされたのなんか汚くて、抱けないもんネ」
トロワは何とか身を起こそうとした。しかし、その顎をデュオが容赦無く蹴り飛ばす。
「デュオ!もうやめろっ」
ヒイロはトロワをかばうように立ちはだかった。
しかし、それすらもデュオは笑みに顔を歪めると綺麗に一回転して、回し蹴りをお見舞いする。少し上からの蹴りは、皮肉にもトロワの上にヒイロがぶつかる形になった。
「あのアマの所為で思い出しちまったんだよ。」
――…、…、ママはちょっと買い物にいってくるわね。…いい子にしてまってるのよ
「オレたちの母親は娼婦だった。だから誰が父親かもわからない。いつもオレたち双子を疎んで、邪魔にして、泣けば叩き、腹が減ったと云えば突き飛ばされた!だからあの日、久しぶりに優しいあの女を信じちまったんだ!」
そして、女は二度と彼らの前に現れなかった。
二度と…。
デュオはヒイロごと、トロワを足蹴にした。
「デューが泣いてる。痛いって泣いてるんだ!あのアマの所為だ!みんなそうだ!オレはデューを護る。最期まで…最期まで。いいよなァトロワあ!護ってもらえるお前は!」

「にいちゃん、にいちゃん…さみしいよ、さみしいよ…どうしてママ、戻ってきてくれないの?いい子にしてるよ。なかないよ…お腹すいたなんていわないよ…ママの邪魔、しないから…おねがい、もどってきてよぅ…にいちゃん、こわいよう…」
寝室で、毛布にくるまって泣きつづける弟を、抱きしめるデュオの頬にも、雫が滴っていった。
「…うん。うん…きっともどってきてくれるよ…きっと…」
そして、二人とも泣き疲れていつのまにか眠る。

 ――「あの…」
市場で声をかけられたのは、別段珍しいことではない。
声をかけてきたのは、女。30代半ばくらいか。しかし、眼の下の隈が異様に目立って、ドラッグかなにかをやっているのじゃないか、とデュオに見当をつけさせた。
持ち前の明るい笑顔。
「なあに、オネエサン?」
レモンをもてあそびながら、振り向く。
「…ああ、やっぱり。…あなた、5歳の時に…私が棄てた、…双子の…片割れね」
「――どしたのオネエサン、ヤクのやりすぎかい?それとも…」
左右に目配せをすると、ぞろぞろと私服だけれど、一目で兵士とわかる男たちが出てきた。
デュオは目を眇め、死神の笑みを乗せた。
「地獄への招待状、持ってきたのかい?」
 車に乗せて、連れてくる。
「オレの名前はデュオ・マックスウェル。弟も同じ。但し弟はデュー、と呼ばれてるけどネ。…ああまあ今のアンタに何云っても無駄かな?」
女は台の上に両手両足を固定され、全裸で、恥部を全開にされている、その口に、次々と水が運ばれる。
「水責めってのもオツだね。ああ、オネエサン、おしっこしたかったらしちゃっていいよ。み~んな見てるからね!」
男たちの手で、口がこじ開けられ、水を流し込まれる。
膀胱のあたりが膨らんでくる。既に尿道から水滴が滴り始めている。
デュオは椅子に反対に座って、背もたれに肘を付きながら、笑う。
「あははー我慢は身体によくないねえ?ほらほら。だしちゃえよ。」
目配せにしたがって、男のひとりが女の膀胱のあたりを強く押した。
「ぐ、うっ」
下卑た笑い声。ひとりだけ笑わない少年。
「…デュー」
「…兄貴」
水を吐き出している女を指差して、ぽつり。
「ねえ、こいつがオレたちのママ?」
デュオの顔から笑みが消えた。それだけで、ぞっと男たちは背筋を震わせた。
「――自称」
「――ふうん」
感情の伴わない会話ほど、恐ろしいものは無い。デューは無造作に銃杷で女の腹を殴打した。
「げっ…」
女は今日食べたものと水を吐き出す。デューのそれは止まらない。女が何回吐き出しても、容赦無く殴打する。
「や、やめて、やめて…」
ぴたりと止めた。
そして、ぐぅっと女の顔を覗きこんだ。
「 どうして、迎えにきてくれなかったの? 」
デュオが、デューをそっと抱きしめた。「行こう。…ああ、そうそう」
振り向きざま、死神の笑み。
「殺さなければ、いいから。」
二人が出て行った後は、救いの手すら、差し伸べられない――

 ヒイロの部屋では、何十人もの男たちに輪姦されるキャスリンの映像がずっと流されていた。
悲鳴、哀願、懇願、…泣き声、嗚咽、うわごと。
キャスリンが意識を失う度に、水がかけられる。それか、容赦の無い殴打。
『もうやめて、もうやめて…たすけて、たすけて、トロワ…』
血まみれの跡が出来ていた。
「キャス…リン…」
モニターの前まで這っていって。ヒイロは、そのトロワを何とか自由になる手でシーツで止血をしてやり、手当てをする。
「頼むから…頼むから、もう動かないでくれ。お前が死ねば、キャスリンは本当に…」
トロワが振りかえる。
「こんなことをされているのを見て、ただ、ベッドで寝ていろというのか!!」
思いもかけない、トロワの激情に、ヒイロは少し呆然とした。
「なにも出来ない、ってゆーの、なかなかいいでしょ。ネ、トロワ」
ドアのところに腕を組んで、デュオが立っていた。
「デュオ!俺を客人として、扱うと云ったな?!」
「うん」
軽い返事。
「なら、トロワの手当てをさせてくれ!」
少しの静寂のあと、デュオは舌を出して、
「やぁだ☆」
ドアから入ってくると、キャスリンのモニターを一瞥し、それから、
「無力なトロワ。オレが撃ったんだけどさ。そん時も全然反応鈍かったよね、平和ボケしてんのもしかして?」
冷たい死神の笑みを浮かべて、見下ろした。
「~…っ」
笑みは消え、無表情に戻る。
「あっ、そ。いいんだよ?オレは生きてればいいとしか云ってないから――あ、早速やってるなあ」

「いやああ!いやいや!やめて――っ」
無理やり足を開かされ、血まみれになった膣に、ショットガンの銃身が突っ込まれた。
「ひぃあああっ」
「全部はいるか?」
「いれちまえ。生きてりゃいーんだからよ」
「おい、アマ。あんまり喚くと腹ン中でぶちかますぞ」
「ひっ…」
キャスリンの瞳が怯えでにごった。
「……」
がちがちと歯の根が合わない。恐怖。誰も助けには来てくれない。それでも、願わずにいられない。
トロワ、トロワ、お願い…!

「な…」
ヒイロが瞠目した。そして、その次の瞬間、トロワが全身のバネを利用して、デュオの眉間を狙った。貫手と云えども、的確なこの距離、それならば多分――が、彼はにっ、と笑っただけで半歩右にかわして代わりにトロワの右手の肘を軽く持ち、
ぼきり。
「!!」
「じゃね、トロワ」
ぱぁん!

男たちが引き上げた。
――トロワ だいじょうぶ かしら
段々と部屋から空気が抜かれているのに気づかなかった。
――また、 あえる、 わよ…ね。

 さて、善戦空しく、人類はたった二ヶ月で三人を残して死に絶えた。

ヒイロの部屋。
今日は白いカーテン。
真っ白な服を着た双子。
対峙するヒイロは、黒い服を着せられていた。
「さぁヒイロ」
デュオがヒイロの唇に自分の唇を重ねた。
離すと、デューもついばむようにキスをする。
「お前が最後のひとりになるんだ」
「オレたちはちょっと先に地獄へ行くから」
「――何故、死を選ぶ?」
双子は向かい合って、お互いのこめかみに銃を当てて、目線だけこちらへ向けて、云った。

「 だって、昔からの約束だもの。
みんな終わったら、二人で一緒に死のう、って。
」
二人は、そっくりで、そして、全く違う笑顔を見せた。
「さよなら、ヒイロ」
パァン…


銃声が木霊した。
二人は抱き合うように倒れた。
 ヒイロは、立って、デュオの持っていた銃を見た。
「…何故、死を選んだ。」
弾は一発しか入れられていなかった。
この上――何を見せようと言うのか。
手枷はとっくに外されていた。
モニターは窓に変わっていた。
死んだ街が、死んだ人間の屍が、累々と見えた。
振りかえると、二人の血が服を染めてあげて行った。
白は、綺麗な紅に変わる。
笑みを浮かべたまま死んだ双子。
どうして…。
「…どこへいこうか。俺は…」

A.C.200年
人類は滅ぶ。
たったふたりの少年によって。
しかしそのことすら、
この地球の歴史の中に
埋もれ、忘れられて行くのだ。


End…less?



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