クレドのにっき

クレドのにっき

氷が溶けて血に変わる迄

氷が
溶けて
 血に
変わる迄


 もう夜だ。
目だけ上げた。
窓の外は昏い。
ヒイロは帰ってこない。
今日、ねこを埋めた。
轢かれて死んでいたねこを埋めた。
 もう夜だ。
ヒイロは帰ってこない。
ごろりと寝返り。
フローリングの床に自分の三つ編みが転がっている。
テレビをつけた。
雑音にしか聞こえない。
それでもいいや、なんかきいてたい。
 カーテンが揺れた。
開けっ放しだった。
いつから?いつからでも、いいや、
また寝返り。
テレビの画面は背中。
雑音にしか聞こえない。
オレの心は氷。
ヒイロは帰ってこない…

 もう朝。
開けっ放しの窓から、朝日。
うざったくて、空に向かって発砲。
甲高く、愛銃が鳴いた。
朝日になんか、届く筈ないのに。
ああ、うざったい。
ヒイロは帰ってこない。
点けっぱなしのテレビから、朝のニュース。
ああ、うざったい。めんどうくさい。死んじゃいたい。
もう一回寝返り。
テレビの画面が目に入って、無感動に見る。
誰も彼もなんでニュースなんか見るんだ?
いいじゃん、世界でなにが起こってようと。
少なくとも、戦争は終わっている。
なんで、いちいちどっかで殺人とかどっかで誘拐とか、めんどうくさいことばっか、放送すんの?
 もう朝。
また寝返り。
開けっ放しの窓に揺れていたカーテンが落ちていた。
金具に銃弾が当たったらしい。
オレの腕も落ちたもんだ。
あの、うざい太陽を狙ったのに。
届くわけ、ないけど。

 氷が溶けたら、水になる?
 ああ、違うな。
 オレの場合は、傷が凍っているんだから、きっと血に変わる。
 ヒイロは帰ってこない…
なんで?オレ、なんか悪いこと、した?
ききたくても、ヒイロは帰ってこない。
 もう夜。
今度はバラエティ番組。
今度こそうざったすぎて、笑い声が耳障りで、テレビの電源を落とした。
このテレビみたいに、一発で電源落ちちゃえばいいのに。ぽちっ、て。
 立ち上がって、ウィスキーをロックで。
氷が揺れている。
からん、からん。
一口のんで、テーブルに置いた。
この氷は溶けたらウィスキーになる。
否、一部になる。
オレの氷は溶けたら、何の一部になれるだろう?
この、地球の一部になれるのだろうか?
頭をテーブルにのせて、だらりと腕を床にたらす。目だけ上げる。
時計は深夜を切った。
ヒイロは帰ってこない。
自分の寝ていた所に赤黒いシミが広がっていて、何だか笑えた。
両腕からはまだ赤いものが流れている。
ようよう死なないなあ。
ヒイロが帰ってくるまでに、この氷が溶けて、血に変わる。全部。
 立ち上がって、テーブルの周りをまわってみる。
足跡と一緒に赤いシミが広がって、ちょっと面白い。
わざと、広げるように足でいじる。
水たまりを蹴るような感覚で。
ぱしゃっ、と赤い水たまりがテーブルにはねて、ウィスキーに交じった。
血の雫がゆっくり、涙のカタチにグラスへ沈んで行く。
机の一番上、右の引き出しには、鍵がかかっている。
鍵をポケットから出す。
あける。
そこには、色とりどりのシート。
銀色、緑、青、赤。
色々迷って、全部飲む事に決めた。
シートを全部持つと結構な量になる。
テーブルへ戻って、ぽちぽち、シートから薬を出す。
白い錠剤の山を造るのは楽しい。
からん、
ウィスキーがすっかり赤い。
ちょっと飲んだ。苦い。
でも、いいかと思った。
特別ブレンドってやつ?
…売れないだろうけど。
「よし、全部」
薬は大体、ボールに山盛り2杯(?)くらい。
適当に手にとって、口に放り込む。
ウィスキーで流し込むと、喉が熱くなった。
2回目。3回目。4回目。…10、11、
幾ら飲んでも減ってない気がする。
もしかして、テーブルから沸いてきたりしてない?
なんて馬鹿なことを考える。
先にウィスキーが効いてきた。
窓に自分が映っていた。
白いTシャツと青いジーパンはすっかり、赤黒くなっていた。
両腕は、散々ナイフで切ったので、なんか…そうだ、切れ目の入ったフランクフルト。あれみたいにりょっと腫れている。
生体反応ってやつ?
それでも動くんだから、人間ってなんてしぶとい☆
笑いがこみ上げてきた。
薬を両手ですくって、ざらざらっと飲み込む。噛んじゃった。
「うえ、にが」
急いでウィスキー。余計、苦くて熱かったのは計算外。
からん、かららん。
氷はまだ溶けていない。
結構大きいのをみっつも入れたからなあ、と思った。
薬をすくうと、もうそれで最後。
ウィスキーで飲む。
喉を、錠剤が行列を成して通っていく。あはは、お通りお通り~。
からん…
氷だけが残った。
……この氷は、いつ溶けるのだろう?
オレの氷はもう、溶けてしまったのに。



「デュオ?…おい、いるなら…」
乾ききっていない血溜まりがテーブルの周りを彩っている。
テーブルに突っ伏している。長い三つ編みが血溜まりを吸っている。
 ひとりに、するんじゃなかった。
目だけ上げて、にっこり。
「ああ、ヒイロ。おかえり。」
蒼白の顔なのに、その笑顔はいつもの笑顔だった。
笑っているから、わからない。
泣いてくれれば、わかるのに。
泣かないから、わからない。
苦しいって云って欲しい。

 そんなこと、云えるわけないじゃん。
だってヒイロに重荷せおわしたくないもん。
オレ以外の誰が、この氷を持ってられる?
いないよね、自分のだもの。
だから、これを抱えてても笑う。
でもヒイロ…お前がいれば大丈夫な、そんな気がしてたよ。
ちょっとさ、オレは弱いから、すぐ溶けちゃうんだけど。
うん、でも、まあ大丈夫だから。
案外、死神は自分では自分を狩れないんだ。知ってた?あはは。
他人の命は狩れるくせにね――図太いんだ。
ああ、グラスの氷、溶けた…
溶けて、血に、かわった………。

 もう朝だ、
起きて、窓を開けた。
眩しい太陽が部屋を照らす。
これから、デュオの永遠にいない生活が、…始まる。

氷が溶けて、血に変わる迄。
――――――――――――――――――――
ヒイロが三日ばかり部屋をあけてしまったばかりに(?)自殺完了しちゃったデュオのお話。
なんかオレも今すっげぇ死にたいので、自然と言葉が出てきた。
で、最後のは今度はヒイロが何処まで耐えられるか、ってこと。
うふふ。たのしいなあ。
でも人間は案外死ねません。薬も手首もやったけど、生きてるよオレ(爆笑)


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