クレドのにっき

クレドのにっき

番外編☆

氷がとけて血にかわるまで・番外編

 夜、目が覚めると、だらんと目の前に腕が下がっていた。
「……」
とりあえず五飛は状況を整理した、否、したかった。
目の前に下がっている腕は、何処かで見覚えのあるもので。あるもので。
ていうか、この血塗れで少しはれぼったい腕。
何処かで、と云うか、そう何処かで…ええと、何処だっけ?
『見えてる?ね~?うーちゃーん』
とりあえず、五飛は、状況…状況……?この状況が、普通なのか??
戦争中、色々見てきたが、とりあえず彼はこういう状況に陥ったことは一度も無く。
血塗れではれぼったい腕は、ひらひらと振られた。親しい者に対してのみの、その態度。
ああ、この振り方って。振り方って。
『やはり、見えないんじゃないのか?カトルは特殊だからな』
ぐうっと覗き込んできた、顔は、蒼白で、死人の顔。ていうか、これ……この顔。この声!
『おい、見えているのなら返事をしろ。…………あ。』
『あ。』
幽霊二人組は同じく間抜けな声を上げた。
『五飛が、気絶してる。』
『うーちゃん、見えてたんだねえ』

 昼間もサーカスの倉庫は薄暗くて。
『こっち。こっち』
何処か笑みを含んだその声に、年甲斐もなく、五人で遊んだ時の事を思い出す。
檻の影から、ひらひらと振られているその腕は、薄暗い灯りの中で黒かった。
トロワは目を細め、それからこすって、もう一度よく見た。
………黒いんじゃない、真っ赤なんだ。暗いから、黒く見えてるだけで。
『トロワ、おひさ~ねえ、鬼ごっこしよー』
もうひとつ、腕が差し出された。
『仕事の合間だろう?少し、遊ばないか?』
こちらも笑みを含んだ声で。
黒………違う、赤い………腕。
先の腕のあるじがひょい、と顔を出した。
『あれ、見えてないの?うーちゃんは見えてたし、カトルも見えてたよん☆』
蒼白な…死人の顔。でも、そこに乗せられているのはうきうきとした笑顔。
黒くなった長い三つ編みが揺れている。
『なら、お前だけ見えないと云う道理は無いだろう。なあ、デュオ』
『うんうん。ねえ、ヒイロ。で、どうなのトロワ?』
トロワはばたん、と倒れた。
『…………』
『…………』
幽霊二人組は、顔を見合わせて、笑った。

 仕事の合間のティータイム。
ひらひらと背を向けられている椅子から、腕が振られた。
その腕は真っ赤。
『ひっさー。カトル♪』
「デュオ!……ということは、ヒイロも?」
こちらはカーテンの隙間から顔を出した。
『お前だけか、まともに話が出来るのは。』
こちらも血塗れ。とりあえず、そんな幽霊二人組と、親しげ……否、親しいのだが、平気で話をするカトルは一番肝が据わっているのだろう。
「――じゃ、他の二人の所にも行って来たの?」
云うと、くつくつとデュオが笑った。
『うーちゃん、トロワ、両名気絶~。ダメじゃんね、そんなことでどーすんのっての』
『全く。根性が無い』
カトルは苦笑いした。
「………普通の反応だと思うなあ。自分たちの姿、知ってる?」
と云ってカトルは姿見を向けた。
その姿見を覗き込む幽霊二人組。鏡はきちんとこの世のものでない二人を映している。
『………ちょっと………』
デュオの引きつった笑顔。
『………壮絶、かも知れないな………』
ヒイロの固まった顔。
そりゃ、両腕血塗れで、服も血塗れ、生々しい血の痕が転々と移動した後に付くのだから、これを壮絶と云わずして、何と云うのだろうか?
カトルはにっこりと笑った。
つくづく、肝が据わっている。
「ね?」
ね、じゃない。ね、じゃない!

『カトル。笑わないで聞いてほしいのだが………』
と、五飛&トロワから通信が入ったのは、その日の夜。
カトルはさらりと云った。
「ああ、デュオとヒイロのことね。」
画面の向こうの二人は固まった。
『………まさか、お前の所にも………?』
「うん、ヒイロが死んだ時、デュオ見てるもの、僕。」
五飛が額を抑えた。多分、目眩でもしたのだろう。
トロワも、かなり頭痛でもしてそうだ。
「二人から聞いたよ、気絶しちゃったんだって?だめだよー、そんなの。差別だよぉ」
差別なのか?普通の反応だと思うが。
それでね、と笑顔のままカトルは後ろを手で示した。

『もう一回、ちゃんと挨拶したいって。ねえ、ほら』
カトルの代わりに画面が血塗れになった。
「「 ぎゃ――――ッッ!!! 」」
思わず、二人は抱き合って身も蓋も無く、悲鳴をあげてしまった。
『はあい。幽霊やってまーすデュオでーす☆』
ひらひら、血塗れの腕を振るたびに、血が飛んだ。
『同じく、幽霊をやっている。ヒイロだ』
無表情に腕を振る。血が…。
遠くからカトルの声、『ちょっと、あんまり手振らないでね、血を落とすの大変だから』
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏ッッ」
五飛、錯乱。
トロワ、気絶しそう。
『元気そうでよかったよ。ねー』
同意を求める。
『ああ。少なくとも死にそうにはない』
五飛とトロワは心に、地球と宇宙に向けて、誓った。
絶対に自殺などせん、と。

 とりあえず、カトルはともかく、五飛とトロワは慣れる事は一生無かったと云う。
この二人ときたら、忘れた頃に出てくるのだ。それも、ホラー映画なんか吹っ飛びそうなほど意外な方法で。
霊媒師などを頼ったが、その度に霊媒師の方が怖さに負けてリタイア、と云う事が毎度で、どうしようもなかった。
 ああ、神様、なんでこいつら死なせちゃったんですか。
 いい加減成仏させてください………。

FIN☆



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