クレドのにっき

クレドのにっき

クレド版102のお題 60~last

60栄光
 OZが勝利を収める未来。
そんな、馬鹿な未来があろうか。
否、ある。
あるんだと――こないだ、オレたちは思い知らされた。
「ねえヒイロ、ヒイロ」
しがみついてくる手。
「オレが悪いの?オレが悪いの?ねえ…」
混乱した心は、何もわからない。
抱きしめて、キスをする。
「…お前はなんにも、わるくない。」
「…ちがうよ、ちがう…オレが…」
何でも自分の所為にする悲しい死神。
栄光なんて、…あったなら、それはこの悲しい死神にこそ、相応しいものだ。

61眼帯
 医務室からデュオが出てきた。
「どうだ?」
右目は、包帯と眼帯で覆われている。
そのほかにも、服に隠されて見えないが、包帯だらけだろう。
彼は暢気に伸びをして、
「うー…ん。別にどってことないねえ。ダイジョブ。片目だって、どうってこた無いよ」
向けられた笑顔は、だから、気にしなくていいんだと。
そう、云われているようで…。

 照準が、合わなかった。
多分。
片目で、遠近感が掴めなかったのだろう。
それでも咄嗟に身をずらして、――眼帯は一生、取れなくなった。
「三つ編みに眼帯、てなんか海賊みたいだよな、なあヒイロ」
冗談でも――ない。
デュオはくすりと笑った。
「人形は、顔が命。…顔に傷がついたら、ヒイロ、お前、棄てる?」

62海
 波打ち際で裸足で走った。
地球の海は綺麗だ。夜の海は大好きだ。
たった一人の子供に戻って、はしゃげるから。
余り泳ぎは得意な方ではないけど(とは云っても常人のそれを遥かに上回る)、この海に身を浸すのも好き。
ざばざばと入っていって、胸のあたりまでつかった。
そして、空を見上げた。
「ああ、群青。ヒイロ、どうしてる?」

63ケータイ
RRRRRRRRRRRR
かれこれ、5コールはした。
RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR。
20コールを数える。
好い加減出ろよ。
RRRRRRRRR…『電源が入っていないか、電波の届かない…』
悪かったよ、謝る。だから、出てくれ、デュオ。

64バンドエイド
 バンドエイドってさあ、引っぺがすとき痛いじゃん?
産毛が一緒にべりーって抜けるから。あれ、痛くって、あんまし貼りたくない。
でも、今回は特別。
ヒイロの傷には、バンドエイドを散々貼ってやった!
アレははがす時、かーなーり、痛いぞぉ♪
ざまぁみろだっ。

65祈り
 誰だって死にたくはないんだろ?
でも、死にたいやつもいる、始終死にたいと思ってる馬鹿野郎もたまには、いる。
誰々が事故で死んだ、誰々が殺された。
代わりにオレが死にたいな。
と、祈ってみる、俄クリスチャンのオレ。

66瞳
 大きな瞳は結構困る。
例えば――そう、コンタクト。
眼鏡とおんなじで、色々サイズってものがあるらしい。
だから、大きなのは結構困るんだ。金がかかるわけじゃないけどね。
ねえ、ヒイロ?と聞いたら、
「俺は視力はいい」
素っ気ない返事。わるぅございましたねー、実は目、結構悪いんです。
なんて嘘で、変装する時にカラーコンタクトを入れるから。
色々な色をどうせだから、集めてみる。
おっ、こんなのはどうだ?
「…何故、白なんだ?死人みたいだ」

67お昼寝
 一仕事終えて、大欠伸。
はぁ~あ、今日もよくはたらきましたー。
川辺の涼しげな木陰。
ちょっと寝てもいいかな。
木の幹に背を預けると、睡魔がやってきた。
うん、いい気持ち。
……………目覚めると。
何故か隣にヒイロがいて。
更に、寝ていたりして。
ええ?!どうして?!とは思ったけど、靴についた泥を見て、ああ、こいつオレを捜していたんだ、なんてうぬぼれてみる。
しょーがねーなあ、もう。
わかったよヒイロ、もう少し、お昼寝しよう。

68ツーリング
 「なーなーツーリングいかね?」
ええ、なんでそうなる?と云う風にヒイロが見てきた。
ガンダムの下で、丁度任務完了した直後のことで、まだスーツすら脱いでいないのに。
「がーっと、どっか行きたい!なあ、ヒイロ、お前勿論バイク乗れるだろ?!」
ヒイロは黙った。
黙った。
だまっ…。
「………まさか、のれ、ないの…?ひーろさん」
ヒイロは遠い目をして云った。
「…曲がれない」

69うさぎ
 かーわいーいうーさぎ。
オレのうーさぎ。
黒くて、目が青いうーさぎ。
寂しいと死んじゃう、うーさぎ。
「誰がウサギだ馬鹿!」
風呂場で歌っていたら、ボディーソープがタンクごと飛んできた。
ああ、ごっめん。間違ってた。
寂しくて死んじゃうのは、オレの方だ。
「茶色くて目の青い、うーさぎ。死神のうーさぎ………」

 馬鹿な歌を、と思いながら、また歌い直しているデュオの声を、ヒイロは聞いていた。
さみしくて、死んでしまうのは、きっとお前の方だろう、デュオ?
「だから、お前がうさぎなら、俺がずっと眺めていてやる。撫でていてやる。ずっとずっと。」

70灰皿
 吸い殻がそのままの灰皿。
三角コーナーに捨てて、ヒイロはため息。
いつ出ていったんだろう。
あいつに荷物は無いから、帰ってくるのかどうかも分からない。
あいつにとって、俺は番にならないのか。
吸い殻は、20本以上――

71ハサミ
 切れ味のいいハサミを買った。
 これで、なにを、きろう?
部屋の中、探し回る。
うろうろ。
 これで、なにを、…だれを、きろう?
誰もいない、自分しかいない。
じゃ、オレをきろうか。

72雑誌
 ヒイロが雑誌を見ていた。
結構珍しいことだ。
だから、覗いてみた。
「…なんで、女物の下着のページ見てんの?」

73アクトレス
 彼女は完璧な女優。
 彼も完璧な俳優。
オレだけが、テレビの前でハラハラしている。
「ねえヒイロ、こっち向いて。」
テレビの向こうの彼に話しかける。
女優の方はあえて、見ない。
見てしまったら…だけどいいんだ、彼女は完璧だから。
オレには、ヒイロが完璧な俳優でずっといられるかどうかがわからないんだ。
だから云うよ。
こっち、向いて?ヒイロ。

74ペットボトル
 例えばさ、ここになんにも入ってないペットボトルがあるとするよ。
「…いきなり、なんの話だ?」
いやね、だから。例えば、の話。そのペットボトル、お前ならどうする?
ヒイロは少し考えて、
「……使用済みか、そうでないかによるな」
オレは腹を抱えて笑い転げた。

75アクセス
 深い帳の中で、ふれる。
 眠るまつげに。
 お前の眠りに――
「愛してる。…愛してる」
 心に、アクセスできるように。

76モルモット
 要は、そう。
 人生全て実験てやつなわけね。
 うん、だからオレたちはみんなカミサマのモルモットなわけ。
 どんな働きしたかとか、どんな人生送ったかとか。
でもサ、モルモットはいずれ檻を出るんだよ。
ねえ、ヒイロ?
羽根持つお前は既にモルモットなんかじゃない。
神にも届く力を持ってる。
少なくとも…
「デュオ。」
死神を惚れさせるくらいの、力は。

78ユメ

 紅い液体を透明な湯におとしていく。
ひろがる液体。
それをオレはぼうっと見ている。
…これはゲンジツ?
…ううん、ユメだ。
「デュオ、何してる」
…おさけ。つくってるの…。
 その声が胡乱げだったので、ヒイロはデュオの顔を覗き込んだ。
何処か焦点の合わない瞳。
きろっ、とコバルトブルーの瞳はヒイロを認めて、
「ああ、…現実?これ?なんだ、そうか…」
と呟いた。
ヒイロは内心ため息をついて、デュオの周りを見た。
散乱している紙袋とシート。
薬らしき錠剤も転がっている。
両腕にはまた新しい傷が出来ていた。
「……デュオ、もう寝よう。」
答えが無い代わりに、広がった紅い液体を飲み干す。
飲みきれなかった雫を手の甲で拭いて、デュオはまた云う。
「さっきまでねてた。ユメみて起きたんだもん。…また寝たら、寝過ぎだよオレ」
嘘だ。
お前は俺が仕事に行ってから、どのくらい寝てないんだ?
それとも――デュオにとっては、「現実」が「ユメ」で、「ユメ」が「現実」なのか。
ヒイロはデュオを抱き締める。こわれもののように。
「………いい。それでも。一緒に、ユメを見よう」

79香水

 うん、なんでもいいんだ。
  香りのつくもの。
え?なに。
…ううん、それは困るなあ。
「あ、焼き魚の匂い」
デュオは裏路地から出て、居酒屋へ入った。

80ハンガー

 そっとクローゼットを開ける。
中を捜すと、おおあったあった。
目当てのものを取りだし、少し右手に力を入れた。
家庭的なその形が、凶器に変わる。
「まぁこんなんでも、刺されりゃひとは死にますからねぇ」
少し嬉しそうに呟いて、デュオは懐にその(元)針金ハンガーを仕舞った。
「何故、嬉しそうなんだ?最近思うが、お前殺人マニアみたいだぞ」
ぅわおっ!!
恐る恐る後ろを振り向くと、腕を組んでドアの横にヒイロ。
むすっ、とした表情で。
「あら~…ひーろさん。いつのまにいらして?」
なんて茶化すと、ずかずかとヒイロはデュオの懐に手を突っ込んだ。
「きゃー犯されるぅ!」
「本当にやるぞ」
先刻形を変えたハンガーを取り上げられて、ちっ、とデュオは舌打ちした。
「寝てたんじゃなかったのかよ」
「…いきなり隣から居なくなれば、お前のことだ。ロクな企みをしないだろうと思ってな」
「…なんだよ、気づいてたんだったら」
「どうしていちいちお前は寝こみを襲おうとするんだ」
言葉は重なって、2人の目線もばちばちと火花を散らした。
デュオは頬を膨らました。
「――~」
ヒイロは嘆息。
「この前は紐、その前はシーツカバー、その前はペン…どうして日用品ばかり使うんだ」
一種のじゃれあい?いやいや、命の危険を感じるじゃれあいというのは、もう好い加減にして欲しいものだ。
「だってヒイロ、ちゃんと寝てくんないんだもん」
一瞬ヒイロは目を点にした後、彼らしくもなく、
刺されたり絞められたりして寝ていられるかッッ!!

81パイプ
 雫が滴ってコンクリートの一部になった。
もう、何時間だろう。
ここで待っている。
 ずる、と手が滑った。
或る都会の裏路地の一角での、話。

82ゲーム
 ――みたいなもん。
銃撃戦、白兵戦、電脳戦、お手の物。
さぁ、やろうぜ!生き残った方が、勝ち、だ!

83ドライフラワー
 人間て残酷。
 押し花も、ドライフラワーも、植物という名の生き物の死骸じゃん。
 ましてやそれを飾るなんて、悪趣味の極み!
でもオレは、押し花作りが結構好き。
実は飾るのも好き。
要はオレ、結構残酷。
「じゃあ、世の中の主婦の皆様はさぞ残酷なんだろうな」
うん。
 デュオは押し花を作った。
珍しい花を買ってきたり、山に入って採ってきたりして。
ああ、でも、
ああ、でも、
ああ、でも!

ここに、最高の華が在る!

 今日最高のドライフラワーを造った。
 嬉しくて嬉しくて、オレは部屋に飾った。

84時計

 あと、五分。
「…ねえ、ヒイロ、」
「ダメだ」
答えはにべもなく。
オレは時計を戻す。
「ねえ、まだ。」
「戻しただろう」
すぐ見ぬかれた。
それでも、オレは云う。
「ねえ、あと、五分でいいから、一緒にいて。」

85ベランダ

 あそこのね、廃屋にいつもそらをみてるひとがいるのよ。
 …ちがうわ、見間違いなんかじゃないわ。
 きれいなひとよ。
 …でもちょっとこわいの。
 だって、いっつも服があかいの。
「お嬢ちゃんダメだよ…こんなところきちゃあ」
ほら、今日も赤いでしょ?
「お友達?」
そうよ。シェリーっていうの。
「そう、可愛いね。…なんでお嬢ちゃんはここにきたんだい?」
あたし?あたしはね…
……。
どうしてだっけ?忘れちゃったわ。
「そう…きみ、どうしていつも服が赤いんだい?」

86歯ブラシ

 オレとお前の歯ブラシ。
赤いのがお前の。青いのがオレの。
お前は普通が好きで、オレは固めが好き。
オレはホントはオレンジのが欲しかったけど、奥の方にあって取れなかったからお前がやめろって云ったんだっけ。
あいてて、最近親知らずに当たって歯ブラシが痛いから、液体のやつ使ってるけど、ヒイロは歯医者へ行けって云うんだ。
確かに、歯ブラシで磨く方がオレも好きなんだけど、…親知らずを抜くのは痛いって云うじゃん?
それに…ちょっとアレなんだけど、オレ、歯医者大嫌いなんだよね。
だから我慢して歯ブラシで磨く。
親知らずを避けて…
「あ。歯ブラシ真っ赤だ」
ヒイロは無言でデュオの襟首を引っつかんだ。
「歯医者だ。」
「いやー!やだやだやだやだ歯医者やだ―――――っ!!!!」

87手料理

 空が青い日。
あんまりよくできたので、みんなを呼ぶことにした。
「デュオが手料理?へぇ、珍しいね」
カトル、トロワ、五飛。
白ワインの酒蒸しはレタスで彩られ、照り焼きはタルタルソースが控えめにアクセントをつけている。そして、色鮮やかなミネストローネ。
肉と野菜のハーモニーが何とも絶妙。
デュオにこんな特技があったのかと、みな感嘆した。
「美味いな」
「ほんと!特にこのミネストローネなんか、お肉がとろとろに煮込んであって、凄く美味しい!」
デュオはと云えば、先刻からその様子をテーブルの上で頬杖をついて嬉しそうに見ているだけ。
「そう?良かった。」
キッチンではまだ鍋がぐつぐつと音を立てている。
「ちょっと待って。もう少ししたら、春巻きが出来るから」
「お前、中華も作れるのか」
五飛の言葉に、にっこりと笑う。「レシピがあったから、やってみた。初めてだから、あんまり上手じゃないかも」
デュオは椅子を立ち、キッチンへと向かった。
 出てきた春巻きは、珍しく鮮やかな緑の紫蘇が細かく刻んでふりかけてあり、食欲をそそる。
見た目だけでも、十分美味しそうだ。
五飛は厳しい顔で春巻きに箸をつけた。
「……満点だ」
「美味しいっ!本当に初めて作ったの?!」
嬉しそうに、デュオは笑う。
「美味しいでしょ。材料がよかったのかな?ふふ…」
「まだミネストローネはあるか?」
トロワがおかわりを申し出たので、デュオは席を立って深鍋からミネストローネをすくった。
「はい。…トロワも、美味しい?」
しっかり、ミネストローネをほおばりつつ、トロワは飲み込んでから答えた。
「ああ。シェフとしてやっていけるんじゃないか?」

 やがて、全て食べ終わり、みな満腹になった頃、ふとカトルが思い出したように云った。
「あれ?ヒイロはどうしたの?呼ばなかったの?」
残念だねえ、と云うカトルに、デュオは笑って答えた。
「何云ってるの?ずっといたじゃない。」
「――え?」
デュオが笑った。
狂った笑顔。
「みんな、美味しいって云ってくれたじゃない。」

88災

 どんなに愚鈍なものでも、数に勝る戦法は無い。
「畜生!マガジンもうねーぞ!」
「ナイフはどうした!」
「先刻折れたよっ!」
仕事先で、まさかこんなゲームの中みたいな事に出くわすとは思いませんでした。
「ああ!道端に転がってる栄養ドリンクなんか飲みたくねー!」
でも飲む。
「…血まみれの鍵は開けづらいな…」
でも開ける。
「暗いと地図みえなーい!」
でも消す。
「ここ、先刻も通らなかったか?」
迷う。
サイレント○ル&バイオハ○ード?これで零も入ったら最凶なんですが。
「あっ…」
「なんだ!」
デュオが引きつった笑いとともに拾い上げたのは…
「しゃ、射影機…?」
「ヒイロ、後ろ!!」
ヒイロが射影機を構えて、後ろを向くと…
トレーズ?!
2人はあたふたと操作説明書を見、それからトレーズ(霊)のゲージを見、
「こいつボスだよ!ボスっ!ヒイロ、フィルム…」
ヒイロは青ざめた顔で、
「…七式…」
「オンリー?!」
注※七式とは浮遊霊などを撮るためにある、忽然と出てくる無限フィルムで、除霊能力はなきに等しいです。
『きみたち…エレガントに運ばないといけないね…』
「即死攻撃あるよ!!ヒイロ、逃げよう!!」
近づくトレーズ(霊)!!逃げる二人はまるで澪と繭!!
「お…おねえちゃん!!」
デュオのセリフに、ヒイロは容赦なくツッコミを入れた。
誰がおねえちゃんだ!
射影機のカドで。
それでも何とか他の部屋にたどり着けば、今度は甘い匂いというか…
「あ~!!いやあああゾンビー!」
「馬鹿!横を見ろ!パペットナースが来るぞ!」
2人は鉄パイプと工業用ハンマーを構えて、早くこの悪夢から出たいと切に願った。

「…大変だったよねえ…」
焼け跡に、2人は首だけ出して地面に埋まっていた。
「…もう金輪際、差出人不明の仕事は受けるなよ…」
ぷはっ、とデュオは口から煙を吐き出した。
「…ねえヒイロ、気づいてる?」
けほっ、とヒイロも口から煙を吐き出した。
「なにが。」
デュオはこちらを穴があくほど――否、こちらの「後ろ」を、見ている。
トレーズ、いるよ
悪夢は、おわりそうも、なかった………。

89凱歌

 何処からか凱歌が聞こえてくる。
歌声辿って歩きつき
がけ裏ひとり歌いいる。
侵略の声聞こえし街々に
燃ゆる炎の鮮やかさ
嗚呼、ひとよ、何ゆえ同族殺し
その首掲げ歌う?
嗚呼、燃ゆる炎の禍禍しさよ。
凱歌よ、月の下へ消えん。

90月蝕

 空き缶を放り投げた。
綺麗な放物線をえがいて飛んでいく。
泥川に沈んだ。
コンクリートの橋。
何の変哲もない街。
デュオは煙草をふかしながら、そらを見上げた。
「…ああ、」
夜が月を喰ってやがる。

91日蝕

 ベッドから手が伸びて、肌掛けを拾いあげた。
もぞもぞと肌掛けにくるまろうとする手の主を、別の手が引っ張る。
「やだぁ…もうねるー」
「まだ、真昼間だ。」
数拾秒の格闘の後、肌掛けを剥ぎとられたデュオは、頬を膨らませて、ヒイロを見上げた。
「じゃあーその真昼間から、ヤってんのはなんなんですかぁ。ねてもいーでしょー」
首筋にキスをして、ヒイロは呟いた。
「空が太陽を蝕んでいるから、いいんだ」

92核シェルター

 ちょっと前に、流行った。
家庭用核シェルターとか云うやつ。
庭に設置とか、地下室改造とか。
でもアレでしょ、ほら、核ってもっと深い所までやけちゃうんでしょ?
あはは、意味ねー。
でも、今役に立ってるけどねん。
「…いつまで、こんな所に閉じ込めておくつもりだ」
怒っちゃやーんvだってこうでもしないとお前、何処でも行っちゃうもん。
「…行かない。約束しただろう?」
ヒイロは少し眉根を寄せた。
ドーム型の核シェルターは、存外丈夫で、結構値の張るものだと知れた。
「NO!…永遠にオレといて!パンと水と愛をあげるから。」

93Puppet Talk

 オレがGを動かしているのか。それとも、オレがGに動かされているのか。
時々、そんな変な感覚に陥る。
強大過ぎる力を持った者はそれに振り回されないよう気をつけなければならない。
うーん、オレはどっちでもいいんだけど。
要はさ、本体がどっちか、ってことでしょ?
うーん、そうすっと、…Gの方が貴重?
「パイロットの方が貴重だろう。育てるのに時間がかかる」
そうなの?
オレはデスサイズの方が大切だねえ…。

94体操

「いっちに、にーにっさんしっ」
今日は朝だからねー。
「はいー次ぃ!」
かかってくる黒服の男たちを投げ飛ばす。
「背筋のトレーニングぅ!」
巴投げ。「足をよーく伸ばしてーえ、はいおわりー!」
ウェストをひねりながら、デュオは胸前にきた三つ編みを後ろへはねあげた。
「朝の体操はいいねえ」
「お前の体操は相手を殺してウォーミングアップするのか…」
別のブロックで任務をこなしていたヒイロが呆れた声で云った。
「何云ってんの?」
と、デュオは屈託なく笑って見せた。
「ただ死ぬより、相手の為に死んだ方がカッコイイじゃん」

95ハレーション

 お前の顔に光。
 いつも手でひさしを作るお前はハレーションを防いでいるみたい。
あれえ?
おかしいね。
いつのまにか光で、お前の顔、見えなくなった…

96スピーカー

 六角形の蜂の巣。
ああ、しくじった、ああしくじった!
オレは土の下で手を伸ばす、あのスピーカーに。
いかないでヒイロ、オレを忘れないで!
ああ、しくじった、しくじった…
「最期は蜂の巣なんて、…お前らしくもないな。デュオ――」

97ピアノ

 ぽん。
「♪」
ぽん、ぽん、ぽん、ぽん…
雨垂れ。
紡いだのは、聖者の行進。
…あれ?おかしいね、
「この続きは、どんなだっけ」

98亡霊

 この手を動かすのはお前?
 この手を動かすのはオレ?
 ああそれとも、あんた?
亡霊にとりつかれているよ。
あんたのその肩、後ろにほら、うらめしそうな顔をして、あんたの殺したあいつが、
あんたをジッと見てるんだ。
ほら、早くにげなきゃ。
ほら、早く。追ってくるよ。
 この手を動かすのはオレ。
あんたを楽にしてあげる。
くるしいでしょ?
もう亡霊に悩まされるのは厭なんでしょ?
じゃあ、自分が死んじゃえばいいんだよ!
あっはははははは…
「デュオ。何故、そいつを撃った?」
焦点の合わない瞳で、ぼんやりと雪の中立ち尽くしていたデュオは、きろっ、とコバルトブルーの瞳をプルシアンブルーのヒイロの瞳に合わせた。
「ぼうれいに悩まされてたから、たすけたげたの。」
ヒイロはデュオを抱きしめた。
くすくすと笑う、歪んだ笑い声が、雪の中抱き合った二人の間から――

99キノウ

 もう何日、もう何日、こうやって戦いつづけてる?
「畜生、好い加減にしやがれ。早く死ねよッ」
塹壕からスナイパーライフルを出して、照準をコンマ0,5で合わせる。
ちょっと斜めにそらせば、弾頭に切れ目を入れた炸裂弾の破片で二、三匹死ぬだろう。
と、耳の横をこん、
「しまっ…」
閃光が、目を焼いた。
そして、隣にいたヒイロが、

  100アシタ

 もう何日、…何日?
「早く殺してくれ。早くころして…」
誰も動かなくなった戦場で、肉片を抱えて泣いている。
デュオの髪は爆風で吹き飛ばされて斜めに肩口くらいまで切り取られていた、
それよりも、ああ、お前のいないこの日が…
「明日も続くのか。そんなのは、もう、厭だよ…!」

101終焉

 ああ、喉、乾いた…
腐臭が鼻をついた、なんて時期は過ぎた。
太陽はギラギラと屍を照らし、ハゲワシ達が我先にと死肉を喰う。
胸に抱えていたヒイロの身体だけは、ハゲワシなんかにやるものか。
でも――このまま…?
 舌の上を乾ききった硬い肉が転がって行く。
吐き気をこらえながら、飲みこむ。
少し、満腹感を覚えて横に丸まった。
「…。これって赦されるの…?オレは、お前を食べてまで、生きていくことなんかできないよ…」
 …眠い。眠い。
淋しさを紛らわすための三つ編みももう編めない。
オレの髪は…
ヒイロ…
思考が散乱・太陽が・雨・戦場に降る慈愛の雨・寒い・
「…おやすみなさい」
そうして最後のひとりも、土へと還るのだ。
終焉する、エンドレスワルツ。

102追憶

 砂浜に人影がふたつ。
打ち寄せる波に、素足をさらして。
2人はぼんやりと空を見ている。
「ねえ」
長い三つ編みの少年が喋った。
「オレたち、海に縁があるよな」
さざなみが、少年の足を濡らしていく。
もうひとりの少年は波を少し蹴って、
「そうだな」
「海は全ての母?」
穏やかなコバルトブルー。夜のいろの瞳。
「ああ。そうだ」
穏やかなプルシアンブルー。海のいろの瞳。
「じゃあ、オレたちゃ母親の所であってるわけだ」
「嫌いか?海」
「好き」
笑いあう。
ふたりで海に入っていく。
砂浜には、足跡。
それもすぐ、波に消されて…。

Endless→END→Endless,,,



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