クレドのにっき

クレドのにっき

イチニ あちこさん102のお題


 ぜんぶ、まいてしまうと。
 急にむなしくなった。
 両手の中を見てみる。何も無い。
あっははは、なにもない!
「どこへ、やっちゃったのかなあ!」
ねえ、夜明け前の海、きみが望んだその色に、オレはいるよ。

002 届かない

結局オレはどーしても、そーしたくって仕方ないのに、あいつときたら全然なしのつぶて、とりつくしまもなし、うん疫病神だってとりつけやしないんだ。
「…なんだこれは」
見せられた封筒に、オレは目を上げずに答えた。
「ラブレター」
「………」
誰に?
という目線の痛さにまけず、「お前に。」
数分後、オレは教室の天井からさかさまにつるされていた。

003 カミ

 カミサマ、カミサマ。
 かえしてください。
 カミサマ。ねえカミサマ。
 かえしてください。かえして…
「…ヒイロ、やつは眠ったんだ。…お前が…責任を感じることは、ない」
それでも祈る。
 どうしてひとりで先に眠った?
 なんでひとりで先に逝った?
 戦死ならまだいい。
 どうして自殺なんだ。
 どうして、…その髪を残して、爆死なんかしたんだ。
 俺の手元にはこの三つ編みしかないじゃないか。
 チョコレートブラウンの…お前の髪。
 梳いてやることももうデキナイ。
 カミサマ。
 俺のあいつを、かえして…。

004 助手席

「いっやぁたまには、お前とドライブーっつうのも、いいねえ」
ぎゅうううんん。
「うん、まあ…いい、ねえ」
ぶるるるるるんぎゅがっ!
「OH MY GOOOOOOOOOD!!Please help me―――っ!!」

005 向けられた銃口

 鏡あわせのスタイル。
少し銃口を傾けて。
「なあ。撃つ?」
「撃つさ」
ふうん、と気の無い返事。
「オレのこと嫌い?」
「好きだ」
「そ。オレは、嫌い」
――何を?
銃口が火を吹いた。
答えは、無い。

006 切なさ

 こういうときなんだ。
不意に泣きたくなって、涙が止まらない。
「…薬。飲んだっけ…」
ああ、もう何もしたくない。
膝を抱えて、座り込んだ。
時計は4時をさしていた。
涙、とまんない。
こういうのをせつないっていうのかなあ?
時計は6時を廻った。
「迎えにきてよ…ヒイロ」
6時にいつものところで、泣いているから。

007 手を繋ごう

歩いていると、不意に温もりが左手に触った。
振りかえると、満面の笑顔。
抱き付くようにして、腕を抱えている。
「なっ、こーすると恋人同士に見えるかなっ」
ヒイロはちょっと考えた後、
「……変態…かな」
「なんで?」
コバルトブルーの瞳が心底不思議そうに聞いてくる。
「…今時、手を繋いで歩くなんて――」
周りを見渡して、ヒイロは固まった。
「みんな手ぇ繋いでるよ?」
…人間の考えることは、いつの世も同じである。

008 バカップル

 普段はつけない香水を少量とって、耳の後ろにこすりつけた。
甘くない、さっぱりしたオレ向きの香り。
でも名前は――教えない。これはヒイロがきいてくれないとね。
夜の駅でヒイロを待ち構えた。
時間より少し遅く、目立つヒイロの姿が改札を出る。
「よっ。迎えにきたよん」

 「…?珍しいな。お前が香水をつけるなんて」
白いベッドに、髪が乱れて広がっている。お互いのシャツとシャツが重なって床で鎮座していた。
「…うん」
お互いの仕事上、匂いの残るものは一切つけない。だから、ヒイロにとってはかなり興味をひくはずだ。
オレの耳朶をかんで、云う。「…お前向きだな。…甘くもないし、辛くもない」
キスをした後、吐息といっしょに吐き出した言葉。
「…名前をきいてほしいんだろう?」
ぺろりと舌。
「うん。…Envy。…オレを捨てないで。ヒイロ」
嫉妬、羨望――甘くなんかない、オレの感情、でも、こうして重ね合うからだが、一番甘えている。

009 カード

気付けばポイントがいっぱい貯まっていた。
寝転んで電灯にかざす。
曰く――

電話が鳴った。
「なあヒイロ、お前なんか欲しいもんある?」
ヒイロは少し考えた後、
「…パソコン」
電話の向うでため息。
「お前ねぇ、もう少しなんていうか、色気のあるもん考えて?」
「じゃあ今夜お前をもらう」
「あのねっ。……まあ、いい、けど」
電話を切ったら、カードはゴミ箱へぽい。
さっさとシャワーに向かった。

010 指先

 見えない指が、硝子の向うで笑っていた。
セリフも忘れてしまった。
なんていってた?
お前。
見えない指が。硝子の向うで。
『ねえヒイロ、逢いにきて。』
見えない指が、いざなう。
夜の街――

011 歌

 その歌を歌う時。
 ひとはふと振りかえる。
 誰のうた?
「オレがつくったのさ」
それは本当。
初めてひとを殺した日、作った歌さ。
♪Kill you、I'm kill you now…
ねえ、こっから先が聞きたい?
ああ残念、そう。
じゃ、死んで。
ぱん! くるくると銃を回して、硝煙もいっしょに廻る。
♪――Solly,I'm solly you,I love now…

012 格納庫

 隠してある。
 ヒミツ。
 カクノウコって、遊び場でオレの庭。
 だからさ、何隠したってばれやしないんだ。
 何を隠したって?
 だから、ヒミツだってば。あはは。ヒミツ。
 ヒミツ…。

013 道化師の憂鬱
 は――っとため息。
「…なんだ?」
ヒイロの前では余り笑わないデュオは、紙袋を逆さにした。
「…薬無い」
「もらいにいけ」
ついでに高そうなウォレットも逆さにした。
「…金無い」
「売れ!」
首を傾げ。
「売れるかなあ…」
「身体じゃない!その財布だ!」
「もうしんじゃおうかなあ…」
「もうそのネタはいいっ!ほら!行くぞ病院!」
ずるずるとデュオはヒイロに引きずられて、病院への道を歩いた。

014 深夜番組

 ぼんやり見ていたら、もう12時を切った。
ヒイロはまだ帰ってこない、ひとりの夜。
つまんない。
深夜番組に出た女の子たちのどれくらいが、栄光を掴むんだろう?
それとも、今日明日のメシの為に出てんのかな。
つまんないことばっかかんがえる…
その作り笑いの笑顔が、胸に刺さる。
リモコンを画面に投げ付けた。

015 月

 新月。
見えない月に向かって、話しかける。
「何を、話してる?」
後ろから抱きすくめられて、それでも目は離さない。
「…月のコトバ」
「…そうか」
暗い夜、見えない月の光が、二人を抱きしめている。

016 アスファルト
 あ、また工事してる。
あっちでも。こっちでも。
一回、バイトしたことがある。
結構工事中に埋めると見つからないんだよね。
「…何の話しだ」
「ゴミ処理の話」
但し、――ニンゲンの、だけど。

017 狂気
 どこが正気のボーダーライン?
オレにゃわかんない。
ねえセンセイ答えて?
ねえヒイロ、答えて?
オレが狂ってるんなら答えて?
どこから狂ったの。
どうして泣くの。
ね。ヒイロ…
泣いたお前は綺麗だね。
見とれちゃうよ。
場違い?
あははは。
これが、狂ってるって証拠なの?

018 初恋
 恋というものはよくわからない。
――と、デュオに話したら、むくれられた。
「お前ねえ、…なんていうか、ベッドの上でする話じゃないでしょ?
それともなに、別れ話の前振り?」
「そんなんじゃない。…ただ、恋という感情がどういうものか知りたいだけだ」
まあたヘンな本でも読んだか。
「ふん――じゃ、何、この手は?オレの身体を触ってるこの手はなんなわけ?」
「……」
に、と笑う。
「好き。触りたい。こういうことしたい。それが恋ってやつだよ」
「そんな単純なのはお前だけだ」
「……お前ねえ……」
唇を重ねながら、瞳を合わせた。
「それでも…きっと俺の初恋はお前になるんだろうな」
「あらそりゃ嬉しい」
くすくす、笑う唇を唇でふさいで、二人は夜の遊びにふける。

019 視線
 あ、また見てる。
「どうした?」
立ち止まったデュオの目線の先。
「…また見てる」
「いない。何も」
手を引いて、歩き出す。
「また見てる」
「いないよ。何も」
「…見てる」
「…いない」
視線が怖い。
否、それは幻覚なのだと医師からきいた。
一途故に、今まで殺した者の視線を――最期の視線を――憶えているんじゃないかと。
少しずつ狂っていくお前を、どうやって止める?
俺が見ててやるから。
俺の視線だけを、
「俺の視線だけを、見ていろ。」
「…うん。うん」

020 憎悪
 部屋がぼろぼろ。
 本人もぼろぼろ。
ああ、誰もが傷つきたくはないから、その憎悪は自分の身の内にしまう。
「…ご免…なさい」
誰に向かって?
血だらけの手が握る銃把。
最期の音が響いた後、その部屋は綺麗にリフォームされて、また賃貸される。

  021 教会

 雪が舞っている。
空を見上げる。
黒い灰色の空から、白い――結晶が見えるような気がした。
教会のドアを開けると、誰もいない。
ああ、こんな雪の日に教会にくるやつなんざいない。
祭壇の前まで行くと、何か箱が置いてあった。
開けてみる。
「I LOVE YOU,DUO FROM Heero」
綺麗な、サファイアの指輪が入っていた。

022 鍵

 ホント云うと、鍵なんかひつよーない。
だってオレピッキング得意だし。
と、云うとヒイロに思い切りハリセンで殴られた。
「 だからって自分の部屋の鍵を忘れたからってピッキングして、それに失敗して壊す馬鹿が何処にいるッ!! 」
…はあ~い、すいませーん…。
ドアには、10分の格闘の後、銃でぶち壊された鍵がだらんと下がっていた…。

023 お揃い
 からからからから。
あれは何の音?
うん…歯車が廻る音。
包帯が絡んで、オレの車椅子は止まった。
左の袖がぶらんとしていた。
包帯も左半身を中心に巻かれている。
「…絡んだのか」
振り向くと、そこにたってはいるけど松葉杖をついているヒイロ。
「左手…あはは、おそろいだねえ」
むっとした顔でヒイロは、
「…お前とおそろい、なんて可愛いものか」
からからから…
遠くを車椅子が通る。
人々の行き交いも無い、入院病棟。
「ねえヒイロ、オレもやるから、この包帯、車椅子から取って?」

024 唇
 今は忘れた歌が、誰かの唇…そんな歌を口ずさみながら、ハンバーガーに齧り付いた。
 あんまり憶えていない。
ファーストキスって誰とだっけ?
ストローで――今日はジンジャーエール――飲んで、ふと青空を見た。
調整されたコロニーの空は今日も青い。
しかし、相手を思い出した瞬間、デュオは吐き出しそうになった。
→回想
『ぷろふぇっさー、だいすきー』
『まったく、デュオは…可愛いのう』
→回想終了
おじいちゃん子、みたいなもんである。
ああ。オレの…
「ふぁあすときす…」
認めたくないものだな、若さ故の過ちとは…(おいおい)

025 砂浜
 色々なものが漂着する。
 綺麗な瓶があった。
 中には、紙。
 なんて書いてあったかは知らない。
 ただ、その青い瓶が綺麗だったので、デュオは砂浜の砂を詰めた。
砂に、ゆっくりと紙が下へ押されていく、まるで
「海に沈むみたいだ…」
砂を詰め終わるとまた詮をした。
 その瓶は、今もデュオの部屋にある。

026 背中合わせ

 午前四時。
 寝息さえ静かな彼にちょっと腹を立てて、わざと背を向けて隣に寝た。
 「何、怒ってるんだ?」

027 子猫

 わがままで、気まぐれで、よく動く。
 ちびっちゃくて、何処にいるかもわからなくって、みゃあみゃあなく。
「お前にそっくりだ」
キッチンから声。
「あー?なんだって~?」
リビングで、拾ってきた仔猫を抱き上げて、ヒイロは滅多に見せない笑顔を見せた。
「お前の名前、何にしようか。」
キッチンでミルクを温めて、皿にあけると、仔猫はみゃ!と叫んでミルクを舐め始めた。
「動物の扱いって云ったら、トロワじゃないか?名前って…どうしよう」
真剣に悩むデュオに、ヒイロはいきなりキスをした。
「…!ひとが真面目に悩んでりゃ」
「そのかおが、いい」
気まぐれだから、このねこは。いつも首根っこを捕まえていないと。

028 自己犠牲

 難しいテーマだ。
…と、思う。
自己犠牲の精神なんて押しとおしてるわけじゃないけど。
こないだカトルに云われてしまったので、何だか…。
でもそれじゃ、あいつの自爆趣味はどうなるんだか。
「あれは趣味なんでしょう?じゃ、自己犠牲には入りません」
…。
カトル、実は性格悪いなお前。

029 告白

 ヒイロが鼻血を出した。
 同時に、冷蔵庫のチョコもなくなっていた。
「…ヒイロ。正直に云え。」
ヒイロは鼻つっぺ(!!!)をしたまま、そっぽをむいた。
「しらん」
「お前さんねー、鼻血出るまでチョコ食べる?フツー。」
ため息気味に言うと、ヒイロはにやりと笑った。
「……お前があんまり無防備だから昨夜仕掛けておいたビデオを見ていた」

030 封印

 井戸の中に落ちていく。
螺旋をえがいて。
樹脂で固めたこの想いを永遠に。
かつ――ん。
その後は、井戸を埋める。
ほら、これで…全部闇の中、だ。

031 ブラックコーヒー

 ――みたいだね、と云った。
「なんで?」
「デュオは、得体が知れない所があるし、それに 黒い からよ」
額を抑える。「ヒルデ…それじゃ黒いもんはみんな珈琲?」
違うわ、私が云いたいのは、それだけあなたが分からない、ってことよ。

032 秘密

 知ってる?
お前、寝る時って凄く可愛いの。
本性が出るのかねぇ?
「……永遠に眠らせてやろうか?」
いやあん銃なんてベッドに持ち込んじゃー。寝首かく気なんて無いからねん。
あんなに可愛い寝顔、撃てないよ。
「……うそつきだな、撃つクセに」
絡まる、髪が手に。重なる、唇と唇。
自分の下で笑う死神。「………まあそん時はちゃんと天国に連れてってやるから」
「お仕置きしてほしいみたいだな。まるで」
「うん…?」
だから、お前の身体で天国に連れていってくれ。
お前が、天国への鍵を握ってる、それが秘密。

033 夢にみた

 おまえをころすゆめをみた。
「――」
俺は、お前を殺したいのだろうか?
「――」
笑う歪んだ笑顔。
唇が蠱惑的にその単語。
「 K i l l M E! 」
おまえをころす、夢を…
ああ、この手に広がる紅いものはなんだ?
床に散らばる――
「これが。」
がちゃん、とナイフが落ちた。
ヒイロは自分の頭を抱えて顔をしかめた、
「これが、俺の、望んだ現実…?」
床には、茶色の長い髪が広がっていて、その中に白い血の気の無い首が転がっている。
 死に顔は、笑っていた。

034 コインロッカー

 「34、34。――ああ、ここね」
開けると、どさどさっと詰め込まれていた袋が落ちてきた。
ううん、ちょっと買いすぎたか?
用意してきたトランクに詰める。
これでまあ、一週間は困らない。
デュオは袋を詰め終わると、鼻歌混じりで家路を辿り出した。

035 コード

 ああああああ、どうしてこー、イヤフォンのコードってのは絡むんだろう!
「糞っ。聞きたい時にすぐきけにゃ、意味ないじゃん!」
かれこれ五分は格闘している。
苛々は募って、限界に達そうとしている。
メトロの中で雑音が邪魔で、………だからきこうと取り出したMP3プレーヤー。
なのに、これじゃ意味ない。余計いらだつ。ああ、雑音が邪魔。邪魔。邪魔。
全てこのコードが悪い。絡みやすい…否、絡みにくいって書いてあったから買ったのに!
目の前で何か喋ってきた男がいる。
コードが解けた。
男の首が飛んだのはその直後だった。
 メトロから降りたデュオはすっきりした顔をしていた。
両耳には、赤いイヤフォン。
聞いているのはプラスチックツリー。希薄なヴォーカルの声に反したドラムがちょっと五月蝿いけど、別にいい。
今は気分が最高にいい。
歩道橋の上で、手すりにのってくるくる回ってみる。
 誰もいない、深夜の歩道橋。
うち捨てられたコードが、じわりと地面に赤いシミを作っていった。

036 嬉し涙

 嬉し涙というのは、うん、毎晩流してる気がする。
「ヒイロっ、ちょ…うん、いきなり奥まではっ……痛い、」
ほら、こーゆーことしてるとき。
ヒイロの舌が涙をなめとる。
「嬉しいくせに。あまり嘘ばかり云ってると、やめるぞ」
「やだ、やだやだ、やめないでぇ!」
でも、ホントに嬉し涙なのかな…?とちょっと思った時もある。
「お前はよく泣くな。…いつもは笑ってばかりのくせに」
うん…もしかして反動?とか思うけど、もう言葉にならない。
ああ、ヒイロ、最高。もっと泣かせて!

037 雪の朝

 真っ黒な傘の葬列。
 真っ白い服で外へ出よう!
 馬鹿みたいに、くるくる回って、雪の上に足跡をつけよう!
 「風邪をひくぞ」
雪の上にねっころがっていると、ヒイロがいつのまにかいた。
お構いなしに、手を引いて引き倒す。
「冷たくてきもちいいよ。ねえヒイロ。」
「?」
デュオからのキスは、冷たかった。

038 枷
 物理的な枷はないとおもう。
オレたちの間に。
例えば――手錠とか。縄とか。そういったものは。
うん、それはわかっているんだけど。
あるとしたら、それはオレの心。
この病んで膿んだ心が、ヒイロの心を掴んで離さない。離してやらない。
ヒイロはオレのもんだもん。
誰にもあげないもん。

 物理的な枷などない。
俺たちの間に。
だからこそ不安になる。
デュオの病んで膿んだ心から出る、血と膿みが俺を掴んで離さない。
なんだかんだ云って、俺はあいつを見捨てられない。
それでも、何処か行って仕舞うんじゃないだろうか、という不安につきまとわれている。
あいつは、自由だ。
俺のことを好きというくせに、平気で自殺をしようとする。
理由を聞いてもいつも曖昧で、「めんどうくさくなっちゃった」とか、「なんとなく」とか。
そんなんじゃ、離れられるわけが無い。
ああ、仕舞った、あいつの罠にはまった。
これこそが枷。
あいつの心こそが、俺の心こそが、枷。

039 それぞれの道

 「非常に危険な状態ですね」
ヒイロが任務に失敗して、重傷を負って帰ってきた。
自爆しなかったのはオレの教育の賜物というところ?
でもヒイロ――脳死状態ってホント?
もう動いてくれないの?
ねえ…。

 目を開けると、そこに長い三つ編みが流れていた。
「デュオ?」
「…ヒイロ」
泣き腫らした目で、抱き付いてきた。
分かたれる筈の道などない。
俺たちは、死ぬまで一緒、死んでも一緒かも知れない。

040 嘘
 嘘ばっかついてのオレは、角を曲がるとひとにぶつかった。
「Solly♪」
少しして、後ろで悲鳴があがった。
振りかえりもせずに、また別の角を曲がる。
「にーんむ完了。あいあい、帰投しまっす」
ケータイが鳴った。
「Hi!ヒイロ?元気ー?今図書館行ってきたとこー。んー?あー、新刊探しに行ったんだけどさあ無くって。そのまんま帰ってきただけー」
嘘ばっかついてて、しまいにゃどれがホントなのかわかんなくなる。

 切れたケータイを眺めて、ヒイロはぽつりと呟いた。
「嘘吐きだな、お前は。」

041 花束

 花嫁からのブーケを受け取ってしまった。
女の子たちから、凄い目線で見られた。
お、オレは取りたくて取ったんじゃない!!押されて…押され?
「ヒイロッ!!てめー、わざと押したな?!」
胸倉を掴んで凄んだ途端、目の前に
「…これで、俺と結婚だな」
キスされました。
公衆の面前で。
左手にはブーケ。
右手にはヒイロのシャツ。
ああそーですか。
端から見たら立派なカップルですね。
にやりと(なんか嬉しそうに)笑うヒイロ。
引いている女の子たち。
「 …OH My GODS!! 」

042 レモネード

 金が無いけど、腹が減ったので、近くにあったファーストフード店に入る。
「ご注文は如何いたしますか?」
メニューは見ない。食べたくなっちゃうから。
「ポテトひとつ。あ、水ちょーだい」
「かしこまりました」
ポテトと水と灰皿を持って席を取る。
水のグラスだけ持って、シロップ類が置いてある所へ行く。
「レモンコンクー」
ぽちゃん。
「がむしろ~っぷぅ」
にょろ~ん。
そして、デュオはそれをかきまぜた。
「…なんだ?それは。」
胡乱げな目で聞いてきたヒイロに、デュオはん?と振り向いた。
「れもねーど。えせえーどとも、ゆー。」
「…奢ってやるから、ちゃんとしたものを飲んでくれ。」

043 逃避

 「……オ、…オ、デュオ!」
「うああああっ!!厭だ厭だいやだいやだやだやだあ!さわるなっさわるなあ!」

 「――落ち着いたか。」
薬を飲んで、暖かいココアのマグカップを抱えて、こくんとデュオは頷いた。
ここのところ、毎晩だ。
ヒイロは知られないように息を吐いた。
現実から逃避したいから、デュオは眠るのに、その眠りにまで、現実であったことは侵食してくる。
誰が救えると云うのだ、彼を。
自分が救える…とでも?
「…ね」
俯いていたデュオの言葉は、か細く夜の帳に消えて行く、
「…現実逃避なんかしたって、ダメなのにね。あいつらは、いっつも夢の中にもくるのに」
幼い口調だった。
でも、老獪な口調だった。
諦めきった、子供。
「いいよ。ヒイロ。もう、いいよ。」
目を上げないまま、云う。
「――なにが。…いい、んだ」
理解っている、のだ。なにが、「もういい」のか。
「オレの…ことに、もう」
「云うな。云うな。云うな云うな云うな云うな云うな云うな云うな!聞きたくない、そんな言葉は聞きたくない!」
これも逃避。
俺も逃避しているんだ、真実から。
デュオは笑いもしない。
ただ、俯いて、俯いて、ココアを見つめている――ココアの向こうに映る自分を見つめている。
「もう厭なんだよ…逃げ続けるのは。」

044 天使と死神

 いいんだ、知ってる。
 天使はいないけど、死神はいるってことを。
 でも、と彼は云う、
「天使ならいるよ。」
僕はちょっと止まる。
その時の彼の顔が、余りにも嬉しそうで穏やかな顔だったから。
そして、僕の方をむいて云う、
「カトルもね。オレなんかと話してくれるみんなは、みんな天使だよ。」
…どうして、僕はきみだけの天使になれなかったのかな。
いいんだ、知ってる。
きみにとっての天使は、…ヒイロだけだってこと。

045 眼鏡

 眼鏡をかけると、世界とひとつ距離を置く。
だからオレがサングラスをかけるのはせかい、ってものと距離置いてんの。
 まあ、これかけると…
「人相が悪くなるな。」
と、ヒイロはデュオの黒いサングラスを手に持って自分の顔に当ててみた。
「…こんな黒い視界、俺には耐えられん」

046 お前がいなければ

 何しててもいーんだけど。
オレ以外と寝ないで、なんて云わないけど。
でもさ、思いっきり他の女と居るとことか見せつけるのってどう?
何それ、試してんの、とか思う。
お前なんかいなくなっちゃえ、と思った夜も、ある。
そうしたらオレは自由になれるんじゃないかって。
この煩わしい「デュオ・マックスウェル」と云う人物を演じずに済むんじゃないかと。

 何をしててもいいと云うわけじゃない。
お前は俺のものだから、俺以外を見てはいけない。
例え俺が他の誰かと寝ることになっても、お前は寝てはいけない。
お前がいなければダメなんだ。
こう云えばお前はすぐに困った顔をして、嬉しそうに笑う。
扱いやすいお前。
でも本当は、…

  047 三つの願い

 主よ、陽の出る頃、私の魂をお起こしください。
そして、私の過ごす一日を祝福してください。
ぱん!
 主よ、陽の高くなる頃、私の魂をお守りください。
そして、私の過ごす半日を見守ってください。
ぱん!
 主よ、陽の落ちた頃、私の魂を眠りへと導いてください。
そして、また明日、私の魂をお起こしください。
「GOOD NIGHT!」

048 72時間
 二時間眠った。
起きてまたシた。
…一緒に買い物に行った。
あれこれと見て回って、対のペンダントを買った。
五時間経って、風呂に入った。
ちょっと念入りに身体を洗って、髪も綺麗に整える。
鼻歌なんか歌いながら。
ヒイロはDVDを借りに行った。オレはホラーが見たいと云ったけど、どうだろ?
髪を乾かし終わった頃、ヒイロが帰ってきた。
二時間後、夕食にした。
2人で蕎麦を食った。
うーん、盛り蕎麦って面白い味。
その後、ヒイロに抱き着いて、やっぱりまた一緒にベッドにいった。
四時間後、起きて、シャワーを浴びた。
借りてきたDVDを見る。
ヒイロの借りてきてくれたホラーは意外に怖い。
ヒイロは平然としていたけど、オレは毛布にくるまって、時々思わず目をつぶってしまったり。
でも、よく見たらヒイロも震えていた。
怖いんなら怖いって云えばいいのに。
「…こ、怖かった…」
「そうか?」
ヒイロは颯爽と立ちあがると、つとああ怖い怖いと呟いているオレに云った、
「…所で、トイレ、行かないか?」

 アラームに起こされて、腕の中を見ると、デュオが丸まっていた。
起こさないように抜け出すと、服を着る。
今日は仕事だ。デュオは明日からだろう。
振り返ると、まだ眠っているその寝顔。
72時間一緒に過ごせた。
こんなに一緒にいたのは、初めてだ。
もっと一緒にいたいけれど、…お互いこんな身の上だから、きっと逢えるのはずっと先になる。
睫毛が震えた。
「…おはよ。」
「ああ。おはよう」
デュオはシーツを巻くと、袖を引っ張った。
「…これから、」
「違うよ。最後に、」
唇を軽く触れさせるキス。
そしてデュオは微笑んだ。
「いってらっしゃい、ヒイロ」

  049 夕暮れ

 同じ所を何度も切るから、もうそれは消えない傷跡になってしまった。
肌の上を、横に何本も走る白い線。
夕暮れがみたい。
夕暮れが見たい。
夕暮れ…
ああそうだ、ここにあるじゃないか。
ああそうだ、ここにあるじゃないか!
つといつもの赤い柄を持って白い線をなぞる。そこから、夕陽が滲み出てくるのを、デュオは目を細めてみていた。
「きれい…」
交差した蚯蚓腫れの上もなぞると、醜いミミズは消えて、綺麗な夕陽色がにじんで、一瞬ジーンズにしみを作って、消えた。
「きれい……」

 一瞬、そこは戦場かと思った。
「何やってる!!」
かみそりを持つ右手を掴むと、とろんとした目でこちらを…
「ゆう…ぐれ…」
「いいからっ、もうやめろ!」
しかし、自分を血溜りの中に浸しているような出血量の中、デュオは思いの外強い力でヒイロの手を振りほどいた。
思わずしりもちをついたヒイロに、デュオはまた左手首に夕暮れのいろを携える。
「きれい…でしょ?夕暮れ…見たかったの。ねえヒイロ、邪魔しないで…」
恍惚とした、瞳で。

   050 十字架

 殺した。
ああ沢山たっくさん殺した。殺されもした。
だって戦争だもんよ。
だってコロシアイだもんよ。
しょーがないじゃん?ねえ。
この首から下がる銀の十字架にゃ、きらきら光る光の数だけ、殺したやつの魂が宿ってやがる。
 「お前、こんなものまだ着けていたのか?」
あららら。
「脱がす時、毎回見てるでしょ。それとも何、全然違うとこしか見てないの?」
シンプルな銀の十字架は、窓からの光に照らされて鈍く光る。
白刃のように。
ヒイロはその十字架を掲げるように見て、
「…な」
ぽつり、と云った。
聞き返そうとしたら、唇をふさがれた。
 ねえ――
 なんて云ったの?

「哀れだな」


 聞こえてないフリ、した。
哀れって誰のこと?
死んだやつら?
それとも、死んだやつらをずっと忘れられないオレのこと?
どっち…。

 起きて、シャツを着る前に、十字架を首から下げる。
「おはよ」
右手で触れて、小さく十字を切る。
「Mommy,Daddey」
それは、幸せだった頃の記憶の名残。
 綺麗な朝なのに、頬を透明な雫が伝って行った。
そらには鳩が、そらには祈りが、…溢れている。そんな、朝。

051 玩具

 「YEAR!」
部屋を入るなり、喝采が聞こえてきた。ヒイロは何事かと…
そこには、なにやらよくわからないもの…木の、入り組んだ…ああ、確かジェンカとか云う…バランスゲーム?
その後ろで、ぴょこぴょこ跳ねている茶色の髪(三つ編み)は、多分、否、確実にデュオだろう。
「あ、ヒイロ?!だめっそこから動かないで!」
三歩目で止められた。こっちは重い食料を抱えているんだが。
「今、ようやっと212段目なんだから!」
にひゃ…?何やってるんだお前は。
ヒイロはため息をついた。
「それで?」
言葉とは裏腹に慎重な手つきは、確実に木の棒を抜き取っては積み重ね、抜き取っては積み重ねて行く。
「うん、 300段まで動かないでね! 」

052 イチゴ

 ショートケーキの上のいちごってあるじゃん? 銃撃戦のさなか、唐突に話し出したデュオに、俺はは?と思ったが、目の前に現れた敵をマシンガンで撃つ。
「なんのはなしだ?」
こちらも、マシンガンを活用しながら、半分怒鳴った。「だから!ショートケーキの上のいちごの話!」
…そんなことは聞いてない。そーじゃなくて、何故そんな話を銃撃戦のさなかに?という事が聞きたいのだが。
結局、それは叶わず、任務が済み、アパートに帰ると、そこにはどっさりと…
「WAO!」
いちごが届けられていた。差出人は、「Qutre・R・Winner」…
喜ぶデュオがダンボールと云うには豪華すぎる箱を部屋に運び込むのをみながら、ため息が知らず、出た。
「だから、ショートケーキの…話はどうなったんだ?」

053 パーティー

 小さな蝋燭を立てて、お決まりの文句。
 生きていれば、お前は今、どんなやつになっていたのか。
 写真の中で笑う少年は、もう一年も前にこの世から去った者だった。

054 愛しさ

 近くにいる時は見えない。
「じゃあな」
ひとこと告げて、立ち去る背中。
 ――次は、いつ、逢うのか。
 ――否、「次」が、…あるのか?

 歩き出した途端、抱きしめられた。
「なんだよ…」
「まだ、いくな」
滅多にそんなこと云わないくせに。
だからオレは、ちょっと仕返しをする。
「…やぁだ☆」
抱きしめた腕の強さに、何かよぎった。
 ああ、これが「愛しい」って感情だ――

  055 プリベンターの制服

  「ええ――ッッやだやだオレ、こんなに襟の開いた服、着れない!!」
戦後、一時的のようなものでプリベンダーに入ったヒイロとデュオだったが…、
「??お前、Tシャツはよく着ているだろう?」
だからこのプリベンダーの、
「 襟は丸首までなの!! 」
…プリベンダーの制服は、スラックスと…そう云われれば、まあ、普通のTシャツよりは襟が開いている(?)Tシャツと、ジャンパーだ。
ヒイロはと云えば、年がら年中タンクトップにスパッツで過ごしているよーなタチなので、(服装に頓着しない、とも云う)そうデュオが駄々をこねる理由がわからない。
制服を渡したノインも首を傾げている、と云うかもう呆れている。
「オレはハイネックで行く!ハイネックか、フツーのTシャツじゃなきゃ、やだ!」
「何故だ、デュオ?」

 オレのスタイルは、襟は詰襟なの!
それに…どっかの誰かさんが、首によくキスマークをつけてくれちゃうから、困ってんだけどね!(怒)
当の本人はそのことをすっかり忘れて呆れ顔。こっちが呆れたいわ!
今日だって、…風呂場で見て呆れたばっかりだ。こんな、鎖骨が見えるよーなシャツを着たら、盛大に恥ずかしい。
いや、NOだ。着られない。絶対に着られない。
ここは男、デュオ・マックスウェルの名誉と意地をかけて、ハイネックをとーさねば!!

「でも、制服だから。」
「…はい?」
サリィがにっこりと笑った。
「ヒイロ、ちょっと抑えててくれるかしら?」
「?いいが」
ヒイロ、問答無用でデュオを羽交い絞め。展開についていけず、あっさりと捕まったデュオ。
「はーいいいコねー ぬぎぬぎしましょうねー 」
「 女医さんモード?!やめてー!!本気でやめてー!!! 」
しかし、元軍医の手にかかれば、所詮デュオも子供なのである。
サリィの手が、デュオのハイネックを取っ払って止まった。
いや、その場の空気が凍りついた。
「…あらら~ちょっと不健全ねぇ」この数は…
「 じゃあああ服を返せ返して返してくれなさい!! 」
ノインに至っては、真っ赤になって硬直している。
ヒイロだけが、平然としていた。
「虫にでも刺されたんだろう。こいつ馬鹿だから」
「 お前がその虫だろッッ 」
大音声で叫んでから、デュオはしまったと思った。しかし、時既に遅し。
ノイン、倒れる。サリィ、固まる。
職場は大混乱v
きゃあきゃあ云って喜ぶ女性達と、ひく男性陣。
結局、デュオはTシャツを免除された。
しかし、すべては白日の下にさらされているのである。
「がっで~むぅ…」
これから毎日、その事実と向き合っていかなきゃなんないわけね。ああそう。
デュオ達がプリベンダーを辞めた理由は、どうもその辺にあるらしかった。

056 女の子

 ――だったらなぁ、と昔考えたことがある。
「もっと楽に暮らせたかなあ?」
うんにゃ、大変だっただろう。今より三倍くらい。
「どー思うよ?」
尋ねれば、平然と珈琲を啜りながら、
「どっちでもその性格はかわらんだろう。なら、どっちでもいい」
なんだそれは。ずいぶんとお気楽な物言いしてくれるじゃないの。
ヒイロのカップを取り上げて、飲み干してやった。
「うげ、お前が甘い珈琲飲んでるなんて邪道ー」
「喧しい。淹れなおせ」
これまた、当然と命令してくれるこいつを見て、そうかも知れない、とも思う。
「へいへい、わありましたよー珈琲ね、こーひー」
きっとオレは女の子でも、この性格と、そしてこいつと一緒にいる事に変わりない。

057 地雷

 「ヒイロってさー、何語がベースなわけ?」
返ってきたのは沈黙だった。
「…え?」
じろり。
睨む目に、怒気がこもっている。
「あ、いや、日系だからね、日本語話せるのかなあって…なに、オレなんかやばいこと云った?」
ヒイロは、無言で席を立った。
喫茶店の音楽が遠くなる。
 …なんか、オレ地雷ふんじゃった…?!
怒気を全身から噴き出して、ヒイロは去り間際、ぼそりと云った。
「日本語だけは、喋れない」

058 旅

 ぱらぱらとめくる。
「見るだけはー、タダですからねー」
際限なく、繰り返されるその行為は、ただの目だけで楽しむ旅だ。
「行く時間なんてー、無いですもんねー」
ベッドで寝転んで雑誌をめくっていたデュオに、トランクが投げつけられた。
「いってぇ!何すんだ!」
いつの間にかしっかり着込んだヒイロが仁王立ちしていた。
「行きたいのならそう云え。今すぐ何処にでも連れてってやる。」

059 ゼロ

 ああやべぇ…、マガジンも空だ。
 手榴弾…ももうねぇ。
 手駒は、ゼロになった。
 どうする…?
ぜぇぜぇと荒い息をついて、デュオは朦朧としてきた頭で考えた。
「…このまま依頼ほっぽり出して、逃げちまおうかな…」
いやいや、このままでは逃げることすら叶わない。
その前に自分の頭が西瓜になるだけだ。
さて、どうする?
 デュオはにやりと不敵な笑みを浮かべる。
「…やれる所まではぶっ殺して、進みましょうか」
手駒?ゼロなんかじゃない。
「何」もなくたって、「自分」が「ある」じゃないか。

060 ショットバー

 「なぁ、ショットバーってなんだっけ?」
たとえば、夜更けにかかってくる無遠慮な電話。
思わず出てしまった自分に嫌気がさす。
「酒場。強い酒を小さいグラスで出してくれる店」
電話の向こうでそうかそうか、と合点がいったような声。
「オレすっかり度忘れしてさー、お前なら知ってるかなって電話したんだよねー」
「で、俺は起こされたわけか。…お前、何処にいる?」
「うーん?…しょっとばー。」
「死ね馬鹿」
電話を切って、ヒイロは寝返りを打った。

061 残業

 この人生、残業みたいなもんだ。
そもそも、オレ達が生きてた理由ってのが理由なもんだから、それが終わっちゃって尚、職場にいるなら、それは残業と云うんだろう。
全くくだらない考え方だと思う。
もう少し明るい考え方が出来ないかとも思う。
けど、ショーガナイじゃん?
そういう、生き方しか、出来なかったんだし。
じゃあ、残業分、どうやって片付けようかってハナシになる。
「まともな生き方って云うのも、何だかなー…」
選択肢はいっぱいある。
選ぶのが、めんどうくさいだけなんだ。

062 血

「献血にご協力ねがいまーす」
街を歩いていたらそんな声が聞こえてきたので、珍しく仏心を出してみる。
「お幾つですか?」
腕にチューブを巻かれて、看護婦さんに聞かれた。
「17かなー、多分」
「あら…」
ぴゅー、と自分の赤い血が小さなボトルに収められるのを見ている。
看護婦さんがすまなそうに笑った。
「御免なさいね、向精神薬を飲んでいるひとは、献血できないの」
これ、代わりに、ともらったオレンジジュースを飲みながら、デュオは呟いた。
「結局、ジュースもらえたなあ。そうかあ、薬飲んでたら出来ないんだっけ、忘れてた忘れてた☆」

 後日、ヒイロを献血に連れて行ってジュースを二本せしめたことは、云うまでも無い。

063 かいだん

 「そして背後を振り向くと…そこには、誰もいなかったんだよ」
カトルは話し終わると、電気をつけた。
「ね、これくらいしかないんだけど、…デュオ?」
向かいに平然と座っているのは三人。全員が複雑な表情で部屋の隅を指差した。
「…えー…と?なにしてるの?」
「 ぴゃああああああああああああ!! やだやだやだやだ聞きたくないっ怖い怖い怖いオバケきらいーっ」
部屋の隅にねこよろしく、丸まっていたデュオは叫んで、今度はソファの後ろに隠れた。
「…あいつ、」
「みえるんだと。」
「ほう」
ヒイロはにやりと邪悪そのものの笑みを浮かべた。
「みえるのか。そうか。ふふ…」
トロワが親切に、
「そして、激烈に弱いんだと。」
「えー、デュオ、みえるのー?嘘ぉ、オバケなんているわけないじゃなーい」
とカトル。結構肝が据わっている。宇宙の心、なんて単語を出す割には、…。
「馬鹿やろー!お前ら、全員後ろみてみたことねーんだろう!!ホントはなー、こんなハナシオレ達がすべきじゃないんだ」
「後ろ?」
「別に何もいないよねえ」
「…」

 それから一週間ほど、デュオが雲隠れしたのは、全員からすれば謎となっている。

064 蜜

 蜂蜜、というかこういう甘いものを考えだしたのは誰だろう。
そもそも、虫が舐めているものを横取りするという考えが凄まじい。
じっとそんなことを考えていると、デュオが云った。
「なに、ヒイロ蜂蜜すきなの?」

065 お弁当

 「なーなー公園いこうよ、公園ー」
うららかな午後の昼下がり。
突然デュオが言い出した。
「何故?」
「んとねー、なんか行きたいから」
ヒイロはパソコンの画面に目を戻した。
「ねーねーねーねーいこー?オレ、お弁当作るからー」
「……お弁当…」
ヒイロの脳裏に浮かぶのは、ああ、お弁当と云えば、いっつもカロリー剤のカプセル…いや、そんなことはどうでもいいか、今は豪華な…
「朝食の残りだけど」
「行かん」

066 最新型

  「ねえ」
   夜に響く声。
   暗い夜空を見つめる瞳は茫洋として、何も見ていなかった。
  「せかいは、ごみだらけ」
   何を言い出すのかと思えば?
  「星…生物…ほら、みんなごみじゃん」
  「…だから、そんなものを造ったのか」
  「うん」
  夜空に浮かぶ。巨大な――
  「これで、全部、ごみに…かえる。
   オレも、お前も。最新型ガンダム」
  無邪気すぎるその、コバルトブルーに、…何も云えなくてただ、
  一緒に破滅へのボタンを押した。


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