クレドのにっき

クレドのにっき

I wish dead in myself...1

 べりっ、と音がした。
「あいてて」
失敗した。そこから、赤いものが滲んでくる。
「雑巾は~っと」
歌うように云って、デュオはキッチンへ向かった。

I wish dead in myself...


 もう、思い出す事も無いと思っていたのに。
夜中に目が醒めて、ウィスキーをロックで呑んだ。
 あれは3年も前になるか――
「よおデュオ。」
金髪を肩口までで三つ編みにした、美青年。纏う衣も白一色で、なんとなく神々しい感じがする。
「クリア!ひっさー!」
抱き付くのは、栗毛の髪を長く三つ編みにした、少年。こちらは普通の白いティーシャツとジーパン。
クリアはデュオを抱きとめると、軽くキスをした。

 クリア。オレの初めての恋人。
同じスイーパーグループで知り合って、兄貴みたいだと思ってたら、告白された。
「ごめん、俺、なんかお前のこと好きみたいだ」
「……は?」
最初はなんかヘンな気持ちだったけど、クリアは優しくて、他のやつらみたいにオレを扱ったりしなかったから、すぐに好きになった。
ウィスキーの氷が音を立てた。
それをぼんやり見ながら――脳裏に甦る声。
――「じゃあ、今日は泊まって行けるんだ」
頭一つ分も背が違うから、デュオはクリアを見上げて嬉しげに声をあげる、クリアは微笑んで、「…なんだ、期待してんの?今夜は眠らせてやんないぞ~」
少年は顔を真っ赤にした。「期待なんかしてねーよっスケベ!」
クリアは少しかがんで、キスをした。
「うそつけ。どうせ夜になれば俺のベッドにもぐりこんでくるくせに」

 「…デュオ?」
余り長い間オレが戻らないから、ヒイロが見に来た。
オレは笑う。
「ごめん。ちょっと酒呑んでるだけ。これ、呑んだら寝るから」
オレはウィスキーのタンブラーを掲げて見せる。
今日、任務を散々こなして疲れているだろうに。ごめんな、ヒイロ。
ヒイロは強い目線だけを残して、寝室に戻っていった。
深く吐いた息といっしょに、掲げたタンブラーを膝のあたり――ティーシャツから見えるのは、血の染みた包帯。
左手首。
キッチンで立ったまま呑んでるというのも、なんかヘンだ。
でも、いい。
夜の吐息がウィスキーをとかす。
「もう、おもいださないと、おもってたのに。」

夜のクリアは、別人のよう。
「やぁああっもぉはいんないッ…」
跨る格好にさせられて、いつもより奥まで入って来て――
「なに?だめ、まだ入るだろ、」
両手で腰をおさえられて、ぐっと下へ。
「ひぅうっ!」
「ああ、可愛い。そんな声だされて、止まるかよ、デュオ!」
そのままベッドに押し倒されて、痛みと、背中を駆けあがる快楽。
「あ――ッ!」
涙が溢れた。それを舐めとって、クリアは耳元でいつもこうきくのだ。
「いたい…?天国へいきたい?」
その、声音が。
いつも怖くて…、いつも怖くて。
「いきたい!いかせて!クリアっ」
薄暗いベッドサイドの明かりに照らされる、ライトブルーの瞳が、満足そうに笑うのを見て。

 ウィスキーの氷が小さくなったので、足した。
何だか、水割りみたいな味。
ちょっと不味い。
キッチンの頼りない灯りで、窓から外を見ても、今は何も見えない。
ぱちん、と音。
シンクに流す。
ゆっくり廻ってながれていく紅い水。
「…呑んだら、寝るって云ったろう」
ナイフをもう一度手首に当てた所で、寝室からヒイロが出てきた。
オレは所在なげに目を泳がせた。
「うん――」
ヒイロは持ってきたガーゼでデュオの左手首の傷から溢れる血を拭いた。
それから、丁寧に消毒をして、真っ白い包帯を巻いた。
ヒイロはデュオがこうして何度も自分を傷つけても、文句ひとつ云わない。
ただ、優しく、話をきいてくれたり、抱きしめてくれたり、する。
諦めているのかもしれない。
「デュオ」という、闇に。その闇の深さに。

 死ぬな、とか
 切るな、とか
そんなことは云い尽くした。
だけどデュオは、デュオの病んだ心は、やっぱりそれだけの年月をかけて病んだものなのだから、一朝一夕、たかだか知り合って1,2年の自分がどうこうできるものではない、と知った。
 2ヶ月前のあの日に――

 空のウィスキー、酒、ドラッグのシート、向精神薬のシート、サバイバルナイフ、手首と首から溢れている真っ赤な鮮血、最後に銃を撃とうとして意識が途切れたのか、銃…、脈は無いに等しかった。
応急処置をした。
その時、朧げにひらいた瞳が何処かをみていた。
動くくちびる。
「なんだ?!デュオっデュオ!」
「…c…Clear…」
――名前?クリア?
救急車はすぐに来た。
 あれから、ずっと、その名前の意味を聞けずにいる。
デュオは、あんなに酷い状態だったというのに、何とか持ちなおし、三日間生死の境をさまよったが、一週間後には再チャレンジするという根性(?)を見せた。

 どうしていつも、ナイフなのかって?
そりゃあ、銃でぱあんってやっちまえば早いだろーね。でもさ、やっぱり死ぬんだから、死ぬ!っていう実感が無いとね。
それにさ、血は綺麗なんだぜ。
人間はルビーとかガーネットとか、赤、好きだろ。
それはさ、自分たちの血が一番綺麗だって知ってるからなんだよ。
血は甘いしね。
綺麗だから…どうしても、死ぬ前に見ておきたいじゃん?
 なんてことを医者に云ったら、かかりつけ(になってしまった)の医者は心底からため息をついたようだった。
「きみにつける薬は全く、ヒイロくんだけだね…。」
「ヒイロが薬?あはははっ、毒の間違いだろー!」
 でも実際オレの薬はヒイロひとり。
ヒイロがオレを棄てたら、多分間違い無く決定的に次の日この世からいなくなってると思う。
よくこんなのに付き合ってると思うよ、ホント。
 …ヒイロは、オレの何処が好きなんだろ?

「ねえねえひーろーオレの何処がすきなの?」
ヒイロは飲んでいた珈琲を吐き出した。
それを面白そうに眺めながら、布巾を差し出して、
「一回も云われたことありませんことよ~」
なんて云うと、ヒイロは恨めし気な目で見てきた。
「……何故、朝からそんなことをきかれなきゃならん」
「なんでって」
きょとん、とデュオは幼い動作で首を傾げた。
「思い付いただけ」
ああそうだった!こいつまだ朝の薬飲んでない!
「早く、朝の分の薬を飲め!!」
「やぁだ。答え聞くまで飲まないもん」
きた!幼児化攻撃!
ヒイロは、とりあえず対処法を考えるが、…この攻撃に対処するには…問いに答える事だけだ!
 …云えるか… ヒトメボレなんて!!
「ねーってばー…。あ、答えてくれないならオレ、銃でばんてやっちゃうからね」
「ヒトメボレです。はい。」
数十分の沈黙があったように思う。
赤面したデュオと、更に赤面したヒイロと。
朝の爽快な天気と、雀たちの鳴き声と。
「ひ、ひとめ…ぼれ?」

 抱きしめられて眠る。
あんなに激しく抱くくせに、まるでぬいぐるみを抱くみたいに、抱きしめて眠る。
 クリアの肌は冷たい。
体温が低いんだろうか。
何処をふれても、冷たい…
 朝、目覚めるといないことが多い。
クリアはオレを起こさずにベッドを抜け出せる。
温もりすら残さずに。
ううん、クリアの肌は冷たいから、きっと、ぬくもりなんて、残らない…。

TO.BE...



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