クレドのにっき

クレドのにっき

オレがのぞむせかい

オレが
のぞむ
せかい



 ナイフで皮膚の上をなぞると、ちょっと経った後、赤い線ができて、玉みたいに血が出てくる。
ちょっと痛いと、ちゃんと血管を切った証拠。
ぽと、ぽちぽとぼとっ。
床に座り込んで切っていたから、床に血が落ちた。
何回も横に切る。
その度に、血は床に堕ちて、黒い水溜りが出来る。
なんで切るかって?
わかんねえよ。そんなの。
たまった血を左手でかき混ぜる。
血まみれの手…
部屋の電気なんかつけない。
暗い方が落ち着く。
 時々思うんだ、オレののぞむせかいってなんだろうって。
オレが、オレで、いられるせかい?
なあに、それ?
すごく曖昧で、よくわかんない。

 部屋の電気が落ちていた。
鼻をつく、血の匂い。
「デュオ?!何してるの?!」
彼は、ぼんやりとベッドに背を預けて、天井を見て――否、焦点が定まらない瞳で――いた。
「…ヒルデ…?おかえり…」
電気をつけると、思わず吐き気がして口元を抑えた。
「な…」
「…でんき…けして。暗い方が、好きだから…」
ゆっくりと閉じた瞳。
「デュオ――あなた、どうして、泣いてるの…?」

 別に生きることを諦めたわけじゃない。
 でも、死にたいと思うことも、それを実行したことも、何回もある。
 だけども、その度に痛い思いだけして、オレは生き残っちゃってるんだ。
 要はオレ、この世界にいられない。
 じゃあオレ、どのせかいならいられるんだろう?

 闇を見ても、好きでいてくれる?
ねえ、ヒルデ。
オレはこんなに闇を抱えてる。
何処までも、自分を傷つけずにいられない。
心の弱さを露呈するオレは、嫌いでしょ?
あんま、カッコヨクないよね。

「…どうして、切ったの?」
天井がぐるぐると回る。
血が足りないんだ。
ヒルデは、咎めるでもなく、ただ訊いてきた。
「…わかんない。」
正直にそう、答えた。
ヒルデは少し、思案したようだった。
「…死ぬ、気だった?」
天井がゆがんだ。
「…わかん、ない」
前髪に、柔らかな手のひらの感触。
「いいよ。わかんないなら、それでも。わかってたら、そんなこと、しないもんね」
ふらふらする視界を閉じる。
「…サンキュ。」

 縫った傷が5箇所。
鎮痛剤を打ってもらったけど、夜中痛み始めた。
歯を食いしばって耐える。
だって自分で切ったんだもんね。ジゴウジトクってやつだ。
それでも、痛い。
これは、何処が痛いんだろう。
傷の痛みじゃないような気がする。
身体の傷なんて、すぐに治る。
オレが治したいのは、この心の傷――

 オレが、のぞむのは、どんな、せかい、だろう…?


FIN



© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: