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クレドのにっき
あるディセンダーの確信。3
カノンノは、目の前の少年を茫然として見ていた。
セカイヲ、ミステル?
少女の翠の瞳はゆらゆらと揺れていた。
確信。
す、と目を伏せる。
「あー…、ジョーダンだよ、ジョーダン!
だからそんなに深刻になんなって」
セリィはカラカラと笑って、カノンノの頭を撫でた。
そこから伝わる感情。
私は人間がすき。
この世界が、すき。
ーー目覚めていない状態で、これだけの感応力を
持つのか。
おかーさん、また分の悪いいくさになりそおです。
セリィは気取られないように嘆息して、カノンノから
離れた。
「ーー腹へらね?パニールになんかねだろうぜ」
んでだ。セリィは今、鎖をじゃらじゃらと巻き付けていた。
数分前、無言症かと思いもする女と、早とちりしまくりの
従者が、船を降りた、と聞いて、はあ、それは船長の意思か、
と確認したら、「いえ?調査の為ですから」などと食えない
笑顔で返してきた、礼儀のれの字も知らないと見える軍人を
完膚なきまでに叩きのめし、海に沈めるべく、鎖で巻、碇をつけて
いる所だ。
カノンノも流石にセリィの剣幕に手を出せず、今に至る…。
さて、甲板から放るか、と立ち上がったセリィに、慌ててカノンノは
待ったをかける。
「ま、待ってセリィ?それは人殺しよー!」
「は?何云ってんのカノンノ。この世はすべて
弱肉強食、ついでにこいつがどんだけ非常識だか
わかってて云ってんの?社会不適合者はさっさと
消えてもらわないと」
いい笑顔で云いきりました。…云いきりましたッ!
助けてパニール!私はどーすれば…。
と、そこに神は現れた!
「なんか、うるせ…
ああああ!?な、なんだそりゃ!?」
ルーク・フォン・ファブレそのひとである。
忘れてた、ここロビー。
なのに誰も通らないあたり、鎖巻の人徳の無さが
伺える。
「ルーク?ああ、これは鎖巻と云って、伝統的な
修行法なんだよ。」
セリィは毎回パーティを組んでいるルークに、悪い
感情を全く持っていない。寧ろ、好いているのだろう。
態度が柔らかい…。
ルークはカノンノから見ても素直で、とても好感が持てる
青年だ。王族にしてはだいぶん砕けているし、ーーまぁ周りがアレじゃ、
そうでもないとやってられないだろうが。
彼は目を輝かせた。
「修行法?すっげぇ、俺にもやらせてくれよ!」
信じてらっしゃる?
神よ、あなたまで…。
セリィは鎖巻を覗き込んで、キラキラしているルークに
「あはは、ルークはもうレベル81だろ。こんな初歩的な修行法、
やんなくても、十分強い強い。」
えー、と照れるルーク。
えー…、助けないっていうか、本当に信じてらっしゃる?
「あ、あの…、せ、セリィ…?それ、」
ぎん!と音が聞こえるかと思う程、睨まれました。
なにもゆーな。
未だ照れているルークに気付かれないよう、セリィは
唇だけで恐喝されました。
ゴメンなさいジョイダだかジュダだかってひと。
両手を胸の前で組み、バックに教会を背負って、
カノンノははらはらと涙を乙女チックに散らした。
私には、止めらんない…!
せめて、サメさんが集まるように、馬肉を撒いてあげるね…!
安らかに?
「じゃあ、ルーク。オレ、コレを処理…いや、修行させてくるから。」
碇の方(一体あれ何キロ?)を軽々と担ぎ、セリィこと悪魔は甲板へと向きを変えた。
「ああ。また一緒にクエストやろーなー♪」
数十分後、真逆本当に海に投げ込んだとは思わなかったチャットと
ルカ達が鎖巻を慌ててひきあげ、ライフボトルをぶっかけたのは
いうまでもない。
「あ…いたた」
寝巻きに着替えていたカノンノは、左胸に痛みを覚えてそこをおさえた。
鎖骨から20センチ程下、小さな膨らみのすぐ上に、その元凶はある。
菱形をさらに菱の線で囲み、くるりと反時計回りにそれを囲む線は、菱の真下で更に巻き上がる。
不可思議な痣だ。これは生まれた時から在る。
そして、時々痛むのだ。
一体、何なのだろうーー。
でも、この痣が痛む夜は夢の中であの声が聴こえるしるし。
…セリィには、笑われてしまったけど。
知らず、笑みが浮かぶ。
「早く眠ろ!」
濃い、夜は夢。
現は、夢。
世界は、負のチカラを利用しようとしている。
ゲーデからの接触は、まだ、無い。
「早く、おいで。」
渇いて仕方無いのなら、オレの血をやろう。
泣きたいなら、オレが抱きしめてやろう。
壊したいなら、オレを壊させてやろう。
ーー夢は、現。
肩で息をしていた。
淡い紫の髪が、床に…血に汚されて、どす黒くなっていく。
開いたままの双眸から、光が無くなっていく。
[ゴメンなさい、ゴメンなさいゴメンなさいごめんなさい]
それでも私、世界を見捨てるなんて出来無い!
[己の半身を殺して迄?]
声は、唐突に響いた。
[あ…?]
自分の胸から、何かが生えている、否これは、
片刃の、つるぎだ。
自分の、証を両断するように、刃が生えている。
それを確認するのを待っていたかのように、ぐりん、
とつるぎが90℃回された。
倒れる。つるぎを抜きざま、蹴飛ばされたのだと、冷たい床に
頬が当たって気がついた。
[そんなにお前はひとが大事か。ああそうか。
大局を見られぬディセンダーなど、要らぬ。
世界樹は最後の力でオレを生んだ。]
しっ…ている。
このこえ。
ぬる、と頬に…
[信じていたのに。すべてに裏切られたか。]
その人物は、紫の髪を撫で、見開いたままの双眸
をとじさせると自らの唇を溢れた涙に寄せた。
血だまりに膝をついたその姿。
海色の髪。
少し幼い顔立ち。
緋色の瞳。
[この世界をひとりで滅するとなると、随分
骨が折れるな。だが、その為にーー]
少年は無造作に着ていた赤い詰め襟をはいだ。
その、左胸。
[な、なん、で]
私の、証が…、
[お前は資格を剥奪されたんだよ。今、オレは
二人分のチカラを持っている。勿論、全てが終われば、新しい
お前へと返すがな]
段々薄暗くなっていく視界で、彼女は謝っていた。
ごめんなさい、そんな…つもりじゃなかったの。
ゲーデ……。
[ゲーデ……]
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