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クレドのにっき
あるディセンダーの記憶。7
呼び声がする。
……ィ…
誰かの、否これは、識っているこえ。
「リーリィ?おい、何寝ぼけてんだ?」
見慣れた相棒が、見下ろしていた。
ああ、
「…ゲーデ?」
淡い紫の髪をサイドだけ伸ばし、左右違う色の瞳に、
黒い詰め襟を緩く開け、…彼だ。
世界樹の中で双りでいる…ここは…いつ?
光が、…
ああ、ひかりが。
「行くのか。大変だな。リーリィ」
苦笑して、頭を撫でてくれる手のひら。
「やだ…!行きたくない!やだよぅ、世界なんて、」
そこで、ゲーデの人さし指が唇に当てられる。
「それは云っちゃだめ。リーリィは二代目ディセンダー
なんだから。」
優しい、否定。
だって、世界へ出れば、ゲーデは悪にされる。
オレは、何度お前を殺せばいいの?!
「お前だけだ…!オレをリーリィと、呼んでいいのは、
お前だけだよ、ゲーデ…!!」
光に飲み込まれる直前、微笑みとーー
「 」
「何寝ぼけてやがるッセリィ!」
飛んできた怒号に、双剣を構え、防御の姿勢を取る。
重い一撃に、身体ごと後ろに押された。
「ゲーデ…!」
異形の右手は交差させた剣の隙間から、左肩をえぐった。
間近で見た双眸は、狂気。
「渇くんだ…『リーリィ』…お、ま、えの…血が、
欲しい」
「!」
狂気の隙間から、覗く正気。
傷つけたい、傷つけたくない。
助けて、リーリィ、
それは声なき慟哭。
「…いいよ。オレの血を飲め、ゲーデ」
からんからん、と双剣が投げ捨てられた。
代わりに、抱きしめる。
「それでお前の渇きが癒せるのなら。幾らでも
飲むがいい。」
アッシュが何か叫んでる。
ルークが泣いてる。
ミントも泣いてる。
ごめんーーみんな。
でも、オレをリーリィ、と呼んだゲーデは、やっぱり
オレの知ってるゲーデだから。
優し過ぎて穢れを背負った黒い光だから。
「あ…ああ、オレは、何をッ…?!」
ぐったりとした、…リーリィ?
なんで?
リーリィ、右腕が、ないよ?
オレの口の中、鉄の味でいっぱいだ。
なんで?
ゲーデは、リーリィを抱き起こした。
「リーリィ…?なあ、リーリィ」
その緋の瞳は閉じられ、顔色は紙のように白い。
「セリィを、離せ!」
剣を杖に、朱金の髪を短髪にした青年が叫んだ。
「……」
ゲーデは、先程までの狂気が嘘のように、そっと
セリィの身体を床に横たえた。
「…リ…いや、セリィを…頼む」
いずこかへ去ろうとした、その服の袖を掴んだのは、
「…ぃで…」
ゲーデは振り返る。
「…か、な、いで、」
「リーリィ…。」
伸ばそう、とした手。しかし、ゲーデはその手を見、
ぐッ、と握り締めた。
「だめだ。また、お前を…傷つけてしまう」
そして、今度こそ去った。
満身創痍のパーティは、何とか船へ帰還する。
医務室から出てきたジェイドは珍しく難しい顔をしていた。
「厄介ですね。身体中傷だらけの上に、右腕は…まるで食べ掛け
の肉のような有様ですから。ゲーデはあなた達には『食肉』という
行為を全くしなかった。そうですね?」
回復した3人は、疲労の色濃く残る表情で、
それぞれに考えこんでいた。
「…俺達にはほぼ見向きもしなかったし、恥ずかしいが、その…」
アッシュは俯く。
「あいつの速さに付いていけたのは、セリィだけだった。攻撃も、
防御も…あ、」
とルークはミントとアッシュを見た。
「セリィさ、なんか途中から動きが急に鈍くなったよな?」
「…そういえば、交戦が進むごとにどんどん鈍くなって、アッシュさんが
一喝しなければ、即死していましたね」
さりげに毒を吐いたミントだが、事実なので誰もつっこまない。
「交戦が進むごとに…?」
「あと、ゲーデは、セリィの事を知ってるみたいだった」
ジェイドはルークとミントの言葉に黙考しているようだ。
「そういや、ゲーデはあいつを確か…リーリィ、と呼んで
いたな」
「なんでリーリィなんだ?セリィって名前じゃないのか?」
あら、とミントが口をおさえた。
「お二人は知らなかったんですか?セリィ、はセルネシウス
の愛称です。だから、リーリィというのもセルネシウスから
考えれば愛称でしょう」
「愛称にしては穿った呼び方ですね。余程親しくなければ呼ばないような」
と、ジェイドが口をはさんだ。
オレは…なんてことを。
いいや、ゲーデ。
お前はいつも望んでいたじゃないか。
リーリィを殺すことを。
ちが…ディセンダーとしての役目から解放してやりたくて
だが一度斃れたお前には務まらないと世界樹はお前の望みを
突っぱねたな。
…。でも、リーリィを…。
「喰い尽くしたい。存在ごと、愛してるから」
リーリィ、リーリィ、リーリィ。
おいで、愛してあげる。
肌を穿ち、髪を梳き、喉を噛んで。
「この爪で…お前を愛してあげる。」
狂気に涙しながら、ゲーデは哄笑を歌った。
助けて リーリィ。
今いくよ。
今度こそ助けるから。
もっと強くなって。
「あなたのマナを使います。そうすればディセンダー同士、
共鳴によって上手くすればセリィの右腕も
万全の状態に戻るでしょう」
カノンノは、自発呼吸すらままならず、呼吸機を
付けられて仰臥しているセリィの横のベッドに
寝かせられながら、その横顔を見た。
唇が、何かつぶやいている。
カノンノは、それを口に出した。
「い、か、な、い、で、げ、ー、で」
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