クレドのにっき

クレドのにっき

THE・じゅおん話☆


「おかあさーん。また僕なのー?」
一人息子、トシオが不満げだ。何せ、彼は先触れ役。まずは呪いを持ってっちゃった
相手にちろっと姿を見せ、不安を掻き立てる。
「うーん。そおねー。今日はあー。あー、女子高生かしら?大変ねこれ。あら他に
警察?マンション?とにもかくにも行く所多すぎよねー。」
カヤコ、あのう、四つんばいつうかその折れた首でつうかどう考えても上海雑技団的な
格好のままで暢気に茶をすすらないで。
「めんどくさいねー、くろー。」
トシオのそばには黒猫。
「にゃ?にゃー。」
「すいません」
と、そこに黒髪を少し長めにした、青年が割り込む。
「…一応、新しい入居者なんですけど、オレ。」
「…あ――。(例の声。)」
「湯飲みを置けっ!!怖いどころか何の漫才だ!?」
青年は頭をがしがしとかくと、カヤコの手から湯のみを取り上げる。
「ちょっとー。飲みかけー。」
「ぃやかましいっ!お前ら、オレが来てから一週間にもなるのに、何だこの家の有様は!!
片付けりゃ散らかし、片付けりゃ散らかし、勉強してりゃ沸いて出てくるし、平気で風呂にも来るし!!おまけにまだ連れてくる気か?!」
青年の名は、冴木リオ。近くの県立高校に通う、一年生である。
名があらわす通り、佐伯家の遠い親戚で生前の彼女らを知る、数少ない人物でもある。
(オリキャラです。)
カヤコはすっくと立つと、髪をかきあげ、
「まあまあ。私ら呪い専門だしー。ハリウッドだって行ったしー。ちょー有名、ってこないだの女子高生云ってたしい。」
「かぁやこぉおお!!語尾を延ばすなああああ!!」
→家と名字はハリウッド版を使用しています。
「だから!それはもういいじゃんよ!いい加減、ここで暮らすオレの安寧を考えてくれ!」
「安寧…?」
「そう、安寧。」
沈黙が満ちた。
「そう、安寧ね…。」
カヤコはうなだれる。
「誰しもが安寧を望む。生きている間も、或いは死んでからなら。けれど、私たちは輪廻の輪から外れてしまった。私たちが望んだわけでも無く、ただ、外れてしまった。
そうして行き場の無い苦しみが、私を突き動かす。私の血に流れる、怨みの流れ。
この家に残された私のおもい、他人のおもい。それが、永遠に安寧を阻む。」
「シリアスに云っても、騙されねーぞ。」
カヤコは――、せんべいの袋を開けていた。
「あら、ばれた?」
「それはお歳暮のせんべいだ!勝手に食うなぁ!」
「おかーさん。僕にもー」
「はいはい。」
「だぁあああハナシになんねぇ!シカゴ行ったのはこないだじゃん!しっかり土産買って
きてたじゃん!おまけに外人の女の子の身体乗っ取ってきたじゃん!」
(ザ・グラッジ3)
「若い身体っていいわー」
「おねーちゃーん?あたしのケータイしらなーい?」
二階から声が響いた。カヤコの妹、ナオコである。
「旦那が持ってたよーな」
「えー?何であたしの使うのよう。料金払うのあたしなのよー」
リオ、蚊帳の外。
「死んでるだろナオコぉおおお!!」
「あ。そーだった」
「…もおいいっ!!オレ、明日からテスト期間だから!!邪魔したら封じるからな!」
「あらあらあら?若造が知ったような口きいちゃって。ナオコにも出来なかった事を
そう容易く出来ると?」
ふふふ、とカヤコが怨霊の笑みを浮かべると、二階へあがりかけたリオは振り返らず云った。
「バッドでぶん殴って鉈で解体する」
「あ、そりゃ動けないわー」
物理的かよ。

 翌日。
学ランを着たリオは、校則違反の髪を、後ろでひとつにくくって、パンをかじっていた。
「物理がやべえ」
ダイニングは静かだ。カヤコ達の気配はしない。多分、また誰かの家へお邪魔しているのだろう。
単語帳を見ながら、パンを食べ終わり、苦めのコーヒーを飲む。少し苦すぎた。
…両親はリオが中学に上がる頃、死んだ。否、正しくは一家心中を図った。
彼の胸には、父親に刺された傷跡が残っている。
死にたくなかった。
冗談ではない。
自分は親の付属品ではない。
こんなのが親だというのなら、こっちから願い下げだ。
両親が意識のある自分にとどめを刺そうとしたのを、逆に突き飛ばし、滅茶苦茶に刺した。
そうして独り助かり――事実上、リオはひとりになった。

 学校は割りと偏差値が高いことで有名。坂を上った先にある。
「おーリオーはよ」
「おはよ」
「今日のテスト、どうよ?」
クラスメートがきいてくる。
「うーん、フィフティフィフティかなぁ」
「お前が?!マジで?やっべ、俺ら全然だめだー」
「いや、あのね?そういいながらひとのノートとんな」
予鈴が鳴る。
ああ、めんどくさい。

 さて、テストは嵐のようの過ぎ、昼で下校する。
リオはいつもつるんでいる級友二人と、下らない笑い話をしながら、教室を出た。
「…で、そこでそいつがねー、『都市伝説なんて絶対信じない!今から証明してやる!』
つって、いっちゃって」
「あーあー。お約束の展開だよな。そういうやつってホラーだと一番先に死ぬよな」
季節は、秋から冬へと変わろうとしていた。木の葉が落ちてくる。
「そうそう。ホラーのお約束はスクリームシリーズで紹介されるよな。曰く、『すぐ戻る』
『独りでいく』、『恋人とイチャつく』が、死ぬ順だっけ?」
リオはそう返して、校門の方を見た。
「…」
急に黙ったリオに、級友は訝しげに声をかける。
「いや…今、日本ていうかホラーって、なんだろうって…」
校門には、ある人物が立っていた。こちらに気づいて、手を振っている。
「あれ?リオ、お前って独り暮らしだろ?」
…一応。生きてる人間はオレだけ…。
「じゃ、あの美人さん、だれ?」
…今話題になってたホラーの親玉です。
「リオー。ついでだから、迎えにきたわよーっ」
あかるっ!
「…カノジョ?」
「んなわけあってたまるかぁあああ!!!!!!!!!」
リオは渾身の力で叫んだ。
「ちょっといいレストランいくから、リオもどう?」
…基準で云えば、カヤコは美人。の、部類に入るが…。いや、レストランて。
「あ、お友達?はじめまして、佐伯カヤコといいます。リオは遠縁の子なんです」
にっこり。
級友二人、ノックダウン。
「い、いえいえいえいえ~!!リオ、水くせぇなあ!こんな美人なおねーさんがいたなんて!」
いや、こいつ怨霊ですから。いつも軋んだドアみたいな声だして四つんばいで這ってきますから。
「やだ、美人だなんて。お世辞がうまいのね」
だからお前、…ああもう、突っ込む気力もねえ。
「?リオ?最近外食してないでしょ?」
なんでそこでいかにも不思議そうな顔をする?!
「えーとほら、看護士の…裕子ちゃん。あの子が行くっていうから」
(by黒い少女)
え?!彼女も死んでますよね?!
「細かい事は気にしなーい」
「…はー…」
こうして、リオの毎日は怨霊どもに邪魔されるのである。

 さて、ここで読者の皆さんは疑問を抱かれているだろう。それは、何故、
『冴木リオが生きていられるか』
呪怨のウリは、『誰でも死ぬ』である。実の母親、妹さえ取り殺す、つまりは無差別性。
これこれこうしたら助かる、という絶対防御策が全くないのである。
だから、怖い。
そして、死んだ後はカヤコと同じく、名を奪われ、生前関わった者を引き込む。
その、絶対的連鎖性。
だから、死んでもオワラナイ。
ただただ膨れ上がる。何処まで膨れ上がっても…
しかし、何事にも例外はある。
「カヤコー。まだあと一週間、あるんだけど。テスト」
レストランへの道にはただ二人。
もとい、これを道というのか…?
真っ黒な空間に、いろいろなモノ達が、うろうろ。
「まーいいじゃない。息抜きも大事よー、人生」
先を行くカヤコは何処と無く浮かれている。
「お前の人生、息抜きだらけじゃん。むしろ死んでるじゃん」
「ふふ、そうだったそうだった☆私死んでたー☆」
「ああもう。」
死に近い者。
多分それこそが、連鎖を断ち切る存在。
ただ、リオは何もしない。
首を突っ込んでくる輩を、助けるような労苦はしたくない。
特に――カヤコ達の悲惨な運命を、悪戯に覗くような輩は。
見てはいけない。
知ってはいけない。
…いってはいけない。
過去は人を殺さないという。しかし実際は違う。
現実を決めるのは、いつだって過去。
未来を決めるのは、いつだって現実。
だから、リオは今のところ、カヤコ達と普通に関わっていられるのだ。
…勿論。能力の高さと、豪胆さもそれを支援しているだろうが。
「あ、見えてきた。…ってあら?」
出たのは、雨の降る小道だった――

⇒つづく?

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