クレドのにっき

クレドのにっき

血塗れの紫ー幕間ー

 町中が笑いにつつま…れてはいなかった。
快晴の下、ひとりの男が顔を真っ赤にしながら歩いている。つーか歩かされている。
集められた群衆は、笑っちゃいけない、しかし笑わずにはいられない、その二重苦に苦しめられていた。

「ぶわーはっはっはっはっはあはははははははは!!」

その中、第五連隊隊長のガラッドだけが、大爆笑を大通りに響かせた。
「ちくしょぉおおお!!笑うなあああああ!」
振り返ったのは、ルーファス。
ふんどし一丁 で、大通りをぐるりと回る、と云うのが、陛下直々の恐ろしい罰であった…

 時は2時間ほど前に戻る。
陛下の部屋にて。
陛下のベッドには、リンが寝ている。そのベッドに腰掛けて、
「…時にルーファス。リンの首の切り傷はどうしてできたのかとおもうかね?」
陛下はいつものよーににこやかだが、…にこやかだが、にこやかだが……
「え、ええっと…あの、尋問中に…その…」
「よくうなされてねぇ。…」
にこやかに、にこやかに。あくまでも。片膝をついて、騎士の礼を取っているルーファスの額からだらだらと冷や汗がでてきた。
「り、リンは…そ、その…は、反抗的ですから…ちょっと…い、行き過ぎた…か、かもしれませんが…」
「"もうやめて"とか…"いたい"とか…」
「じ、尋問ですし…」
と、ここで陛下の全身から不機嫌、いや、怒りオーラがぶわあああっと立ち上った。
「…リンのアレを縛っていた紐はねぇ…私がリンの誕生日に贈ったものなんだけどねぇええええ」
ひーーーーーーーーーーーーーーっ!!(心の中)
たすけてママン!!
「あ、あのそのあのその、あれはその、えええええとぉ、」
口ごもる、というか完全にパニックしているルーファスに、ベッドから陛下が立ち上がった。
鬼が来るぅううううううう――っ!!
「散々私のリンを辱めてくれたようだから…ねぇルーファス?本来なら死刑、否公開処刑にする所を、きみは貴重な戦力だから情状酌量してあげるよ」
そして、陛下は はさみ を取り出した。

「へいかぁ。」
にこにこと笑う様子は、平時のリン=ファイネルのものではなく、ただの幼子だった。
「なんだい、リン」
「へいかぁ、だいすき」
昏睡状態から目覚めたのはいいが、精神的ショックの所為か、リンは記憶を失い、心を病んでいた。
元々、少々うつの気があったのは知っていた。環境的にも、最悪の状況であることには変わりない。
リンはベッドから起き上がろうと左手を使おうとして、よろけた。抱き留める。
あの無茶な体勢の強姦は、リンの左腕の骨を折っていた。
「いたいよぅ、へいかぁ」
リンは泣き出してしまう。
「大丈夫だよ。リン。…ここには、お前の怖いものは、なんにもないからね。」
「こわいよ、へいか…こわいよぅ」
何が、怖いのか…それは、わからない。リンの心の中まで、…否、リンは自分を心配させまいとして、その心の傷を見せない。
…医者も云っていた。
リンは限界にあるのではないのかと。
抱き付いてくる右手を、引き寄せて、優しく、強く抱き締める。
「…どうして私はお前を護ってやれない?お前は…私を護ってくれるのに」
無邪気な紫の瞳が、見上げてくる。
「へいかぁ?へいかは、おれがまもるよ。だから、だいじょうぶ。」
「…」
記憶を取り戻すことは、この子にとってよいことなのだろうか――

 「ううううう」
なんだか滂沱の涙を流すルーファス(ようやっと街一周)。
「はっはっはっ…くくくくく。ざまぁみろ…だな、あはははは」
監視役のガラッドに大笑いされながら、ルーファスはまだふんどし一丁だった。
何故かと云えば、「ふんどしのまんま城まで帰ってこい、だもんなーくっははははは」
「笑うなぁあ~!!」
ああ、人生最大の汚点。誰かなんとか…いや、自業自得??でも、リンが~
「お前、リンを犯ったってホントか?」
「…」
にらみつけると、ガラッドは真剣な濃いブルーの瞳で見据えてきた。
「お前がリンにどんな感情を持ってるにせよ、あれはやりすぎだ。…お前、カルアのことはどうした」
ルーファスはいたずらを見付かった子供のように、目を伏せた。
「~~お前には、関係ないだろ」
「関係あるさ。…リンの…あんな様を見せられたらな」
雨が降りそうな天気になってきた。

 よどんだ空気が鼻をつく。
血にまみれたシャツ。胸元についた火傷。閉じかけた瞳から溢れている涙。
何かを呟いている唇――
「そこに立ってるなら、てつだわんか、ガラッド」
軍医に声を掛けられて、彼ははっと気付く。首枷が取れない、と医師たちが慌てている。
「お前さんの剣技なら、あの首枷切れるんじゃないのかい」
首枷が取れないままだと、リンはこのまま窒息死する。ガラッドは剣を抜いた。
1ミリたりとも間違う(まごう)ことは出来ない。躊躇は一瞬。
闇に銀糸が閃いた。
 カシン……と、首枷はただの鉄屑となって石の床に落ちた。医師たちが駆け寄る。
『…て…いたい…たすけて…へいか…』
ちいさく。ちいさく、呟いた声。
「…リン?」
虚ろな紫の瞳が、ガラッドを認めた途端、強い怯えを宿した。まだ鎖で絡められている両手で、――左手は動かない、おれているのか――必死にガラッドの身体をのけようとする。
『やだ、やだぁ…やめて、へいか…からの…リボン…きらないで…!』

城の――前に着いた時、雨は降り始めていた。
「リンは…怯えて、泣いてた…。あの、リンを、あそこまで怯えさせるなんて。お前は一体なにをしたんだ」
ルーファスは黙って服をきた。
それから、ぼそりと云った。
「…あいつを…見ると、可笑しくなるんだ。どきどきして…、めちゃくちゃにしたくなるんだ。」
「――…破壊欲、か?」
完全に軍服を着込むと、ルーファスはガラッドから目を逸らした。
「…わからない。…わからないんだ。リンを…見ると、…見ると…どうしても抑えが効かない。効かないんだ…!」
自分の襟元を掴んで――、十字架のように、――歯を握り締めた。
「紫の…瞳を見ると、…身体の奥が…変になって…。」

 「や…やぁ…!リボン、ちぎらないでよー!それは、陛下が…陛下が…!」
髪を無理矢理ひき、リボンを引きちぎる。首枷を鎖で引っ張れば、
「かはっ…う、やぁ…!痛い!いたい!やめてぇー!」
無理矢理後ろを向かせて、鎖を絡め、秘部に自分のものをねじこむ。
「ひっぁっ!ぃぅううっ!」
鎖を抜けたのか、左手で腰を抱くルーファスの手をどかそうとしてくる。
「やだぁ、痛い!痛い!ぬいてっ…」
「この手、邪魔だな。大人しくしろよ…?」
左手を後ろに捻りあげる。そのまま、思い切り力をこめた。
「うああああああっ!!」
ごきり、と音がして、左手はだらりと垂れ下がる。
「大人しくしてれば、キモチイイのに。なぁリン?ほら…こんなに締め付けて、お前は凄く淫乱だ」
「いたい、いたいよーっ、やー!へいかぁ!たすけてぇ」
思い切り、首枷の鎖を、締めた。
「がっ…ぁ、は…!か、は、あ…、う、あ…」
ルーファスのものを、痛いほどに締め付ける。
紫の瞳が見開かれ、右手が鎖の中を掻いた。
「イきそうな声、だすなよ…!」
限界まで、鎖を締める。
「………!!」
双眸から、涙が溢れた――

 一ヶ月後――
「ごめん」
風がそよいでいた。
リンの髪がなびいている。長い三つ編み。長衣。
バルコニーで、中庭を眺めていた。
中庭では、一平卒たちが訓練に励んでいる。
リンは振り返ると。
「――なんのこと?」
と。
微笑った。
ルーファスは、赤面して、「この…間のこと…やりすぎたって…」
リンは風になびく長い三つ編みを手で抑えながら、バルコニーの柵に腰掛けて、軽やかに笑った。
「あははっ!へんなルーファス!別に謝ることないよ。オレ、気にしてないしぃ」
「なっ…」
柵からひょいと飛び降りると、リンはすれ違いざまにルーファスに囁いた。
「オレの身体なんか、どうでもいいんだよ」
「リンっ」
彼は振り返らず、手をひらひらと振った。「訓練見てやれよー」


いたいのは、どこ?
いたいのは、こころ。
いたいのは…血をながさない。
だからだいじょうぶ。
オレはまだだいじょうぶ。
ああでも、どうしてかな…
吐き気がする。
気持ち悪いの…
オレは、よごれて、る?


TO BE CONTINUED→拾



© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: