クレドのにっき

クレドのにっき

最終章

 薄暗い道を歩いていく。
もう、振りかえれはしないんだと。
何処かで確信していた。

血まみれの紫 最終章


 ここは、何処なんだ?
 ――死神の来る所なんだから、地獄かな?
 どっちにしろ、オレは死んでる。それは間違いない。
 だけど、足はあるよな…。
 ぷらぷらと足を振ってみる。
 ただ、胸の辺りから、血でぐっしょりと服が濡れているのと、
 動く度に激痛が身体を走ることくらいだ。
 因みによく見てみれば、胸には自分が護身用に持っていた小さなナイフが突き刺さったまま。
 あららスプラッタ。
「陛下――どうしたかなあ」

 り、り、り、り
「陛下、お逃げください!殿は私が勤めます!」
崩れ行く城の大広間。玉座に座ったまま、あるじは懐中時計を眺めていた。
 り、り、り、り
「陛下ッ」
目を上げないまま、かのひとは云った。
「ルーファス。もういい。きみは逃げなさい」
「…な」
 り、り、り、り…
銀の文字盤にアメジストの秒針。あの子が死んだのに、あの子に贈ったこの時計はまだ、動いている。
不公平なのだ。
私ひとり、ここで…もう、あの子のいない人生を続けていく気はしない。
ようよう生きた。
ひとより長くひとをやった。
もういいだろう。
「ルーファス。生き続けろ。それがきみへの、最後の命令だ」
もういいだろう。
私は、『私』に還ろう。
本来の『私』に還ろう。
ひとでは無い、そのことを…誰にも知られないままこの生涯は終わるが。
ルーファスの出ていく後ろ姿を眺めて、目を閉じた。
――「さて、還ろう。…次に逢う時も、またお前を愛せるといい」

 西の国。
「さあ、次はどなた?」
女王自らが率いる女性ばかりの隊は、神速で敵を屠る。
白いドレスに、ルビィルージュの髪。紅いルージュの似合う唇を笑みの形に吊り上げて、女王自ら最前線へ出る。
白い閃光が走る。
なぎ倒され、引きちぎられる人間。
「今、引いてももう赦さないわ。みな、ここで死ぬのよ」
「女王陛下に続け!我らの国に立ち入った事を死んで尚後悔させよ!!」
返り血のひとつも浴びない女王は、笑みをふと無くして、そらを仰いだ。
「つまらないわ…リンちゃん程の使い手がいたならば、もう少し楽しめるのに」

 ここは
螺旋階段
おちていくのは
オレ?
ああ、ここは転生
様々な…
狂い始めたのは何処から?
わからない
でも、誰かが云う
「転生せよ。転生せよ。転生せよ。安寧の死を赦すまじ。安寧の死を赦すまじ。
 汝、罪の重さを背負い、転生し、生きよ。」
ああ?
またオレに生きろって?
ふざけんな、誰かしんねーけど、オレはもう死にたいんだよっ
だから死んだのに
「赦すまじ・赦されまじ・汝の罪重し・転生し償え」
…………つまり?オレは重すぎて、刑務所に収監デキマセン、てこと?
それってどゆことよ?
「やあリン」
……うっわあびっくりした!陛下?!
あー…あのー…
何?その黒い羽根?角?
「黙ってて悪かったね、私はこっち側の住人なのだよ」
………………。
…………………………………………………は?
「私がきみを愛し、きみも私を愛した。これだけで充分四桁相当の懲役なのだよ」
…もう厭……オレばっかり不幸な気が。
「それでね、更に殺人を繰り返しているので…」
もういいっ!ききたかない!わかったよ!転生すりゃいーんでしょ!はいはいやりますよ!
またずるずると生きればいいんでしょっ
「また逢える。……そう気にすることは無い」
………。
笑うしかないじゃん。
何それ。あははっ。
確信犯じゃんか。
陛下――未だ、名前も出てこないアンタ。
オレは、確かにアンタを好きだよ。
身体の無いその身でも、好きさ。
アンタがどういう身分なのか、オレにも計り知れないけど、好きだよ。
ならば、
「ああ。お前の魂を愛している。お前が人間だろうと動物だろうと、お前はお前、だ。転生する度に私はお前を追いかける。そして、逢うだろう。何処までも、愛するから」
――いいさ。追いかけてよ。オレはいつも先をゆこう。
何処までも走ろう。
ずるずると生きよう。
そんなオレをアンタが愛しきれるか、毎回見届けよう。
「何度死んでも、」
「お互いを愛する」
――ああ、わかったよ。
じゃあね、また。
…………次に逢うときは………オレは、何になっているだろうね――――――?

血まみれの紫・完



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