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クレドのにっき
零~YES~玖
わ た し が…
し ね ば いい
そ し た ら全てが終わる。
お兄ちゃんも苦しまなくて済む。
深紅は差し出された刀をじっと見ていた。緋室家の家紋の入った柄。
綺麗に巻かれた絹糸。
彼女はそれをとった。
顔を上げた。
「…
わかったわ。氷室邸に行く
」
「えっ?!深紅?!何いってんのよ!」
当主である、冷は再度、大輪の華がひらくように笑った。
「ありがとう」
…気がつくと、そこはぼろぼろの廃墟、今までいた緋室邸ではなく、氷室邸であった。
何も変わらぬ。
ただ、朽ち果てゆく、その寂しさだけが、静寂を満たしていた。
深紅は月読堂の扉を開けた。
中は暗く、ライトで照らすとあの時と寸分変わらぬ堂があり、そして闇へと続く深い穴が口を開けるのみであった。
『…深紅』
声に。彼女は頷き返した。「来たわ。霧絵」
深紅は自分のベルトに村正を佩いた。それから、縄梯子を伝って3人はその暗い闇を深みへと進んでいった。
降りきれば、月の井戸。祀られた巫女の遺骸はなかった。『風化したのよ』
そう、霧絵が云ってきた。
「…風化」
すぐそこの扉を開ければ、奈落橋。既に引き返す事はできない。
深紅は、紺碧に自分の持っていた、冷からもらった呪符を渡す。
「…何かの護りになるわ」
「深紅。アンタは?!」
「もう…わたしは」
つと、彼女は奈落橋を視る。
「ソレが無くても、視える」
そして、彼ら雑霊は村正を持つ彼女らに触れはしない。
深紅は歩き出した。
縄殿への道を。
家紋扉の前では、司が待っていた。
「…冷様。これより先、お通しするわけにはいきません」
「そーかい」
云うと同時に、司の視界から冷の姿が消えた。
「?!」
ふ、と危険を感じたのは本能だった。しかし回避は出来ず。至近距離からの足刀は、扉ごと彼を吹っ飛ばした。
「遅ぇんだよ。お前ら4人かかっても俺にゃかなわねぇ。忘れたか。しかも、御縛りの為なら幾らでも命を湯水みたいに使いやがって。」
腹部をしたたかに蹴られ、彼は嘔吐した。その彼を、顎から蹴り上げる。恐るべき威力のその蹴りは、天井まで司を吊り上げた。
「殺しはしねぇ。だが、そこで少し寝てろ」
こうして、難なく彼は鬼の口へと向かった。
暗闇の道。きしきしと軋む床。一歩進むごとに、傍らに無い愛刀のことをおもう。
なあ、村正。お前は…霧絵を救うことが出来るかな。
なあ、…俺は、春を救うことが出来るかな…。
思いながら、第二の家紋扉を抜け、二階から飛び降りる。
篝火の焚かれる、昏い場所。鬼の口。朽ちかける縄がたるんでいる。彼の影を、篝火が幾つもに分断する。
「春…」
彼は走った。
縄殿へと。
禊の道を抜け、頭上から垂れ下がる鍾乳石はまるで、鬼の口の中。
『深紅…』
「…霧絵」
崩れてはいたが、彼女はそこにいた。前に見たままの姿で。門を縛り続けていた。
『…ありがとう』
「いえ。その言葉は――冷さんへいうべきだわ、霧絵。」
村正を彼女が抜く。それはまるで、巫女が鏡を見るような、自然な仕草だった。
「深紅…」
「大丈夫」
不思議と、恐怖は無かった。
深紅は、抜いた刀を霧絵ごと、黄泉の門に突き刺した!
「
彷徨える亡霊たちよ!二度といずることなきよう、この村正が全てを断ち切る!
」
おおう、おおう、と鳴くような声がする。霧絵の縄がとける。
座り込むような霧絵。
「深紅!」
「くうう…!」
めりこんだ刀を、黄泉の門が押し返そうとしている。
「押し戻される!」
「まけ…るかああっ!」
深紅は一喝とともに、刀を押し込んだ。鍔元まで。
黄泉の門――緋室邸。
「冷よ」
「…なんだばば」
「来てしもうたか」
「お前ら何考えてんだ」
ばばの横には、白い着物を着た少女が座っていた。
ばばは振り返らない。少女がいるのは、黄泉の門の目の前。
冷の武器は小刀ひとつ。
「おにいちゃん」
ふと、振り返った。
首には縄が巻いてあった。黄泉の門の両横に位置する岩に、もし、少しでも彼女が動いたなら、その首は――
「
ダメだ!春ッ振り向くな…
」
縄が急速にしまり、苦しいだろうに、春はわらった。
春は、しあわせでございました…
どさっ。ばちゃあっ。
春の首が、落ちた。胴体の無い身体が、倒れた。縄に染みる血が、黄泉の門を縛る。
何故。
踏み出した。
「春は縄の巫女。おぬしさえ、余計なことをせねば、あと2ヶ月。生きられたものを…」
白い着物を、血が染めていく。
膝ががくがく、笑っている。無様な俺を笑っている。
がくん、と両膝をついて、
「…なぜ、春…俺は…」
ばばはつと彼から目を離した。
「おぬしは当主じゃ。連綿とこの歴史を紡げ。それが、緋室家に生まれたものの宿命じゃ」
握り締めた剥き出しの小刀は、彼の手を傷付けた。
「何が…何が宿命だ。何が…縄の巫女だ。永遠に封じる方法を、やっと見つけたのにッ…」
ばばは、冷たい目をして言う。
「それが永遠と言い切れるのか。いつか誰もいなくなったときに、禍時が起こったらどうする」
ぎり、と食いしばる歯。
「俺が…保証してやるよ」
小刀が、空を切ってそして彼の喉を貫通した。
「!」
深紅の手が一瞬緩みかけた、真冬がそれを後ろから援護する。
「な…なんだ、これ」
村正の刀身は、赤く染まっていく、それは、血のようだった。
「な、何も刺してないのに…なんで」
霧絵が後ろで、見えない空を見上げたのが見えた。
『冷…』
貫通した喉から溢れた血で、黄泉の門を映す鏡に、彼は己の血で最期の家紋を書いた。それは、五茫星。
「さあ…食らうがいい。
俺の命の全てで、全てを縛れ!
」
ばばが――何か叫んでいる。
迫り来る光の中、彼は笑った。寂しく。
ごめんな。春。
た と え ば――
死者の妄執というものが ほ ん と うにあるとして。
俺は縄に縛られ
春を開放した。
さあ春、いきなさい。
お ま え はもう、自由なんだ。
END IS
BAD
分岐はもうひとつ。NO→拾
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