クレドのにっき

クレドのにっき

零~NO~拾

 そ ち ら と
 こ ち ら の
 境 界 線 とはなんだろう?
 ボーダーラインはどこなんだろう?

深紅は、差し出された刀を押し戻した。
「いいえ。…春さんを助け出してからにするわ」
何か云いたそうに口を開きかけた彼を押し留めて、
「霧絵と約束したの。… 絶対に春さんを助ける って。」

鬼の口にて。
縄の朽ちるにおいが立ち込めている。
篝火の燃える油のにおいがする。
門は開いていた。
「…いいのか。深紅さん」
冷が振り返る。
「…いいわ」
そして、鳥居をくぐる。

 た と え ば――
 死者の 妄執 と いうものが
 あった として――
 縄に縛られ 続ける わたしを――
 解放して くれると いった
 彼女を信じている。
 わ た しの――
 ち か ら は
 きっと もう 保たないけど
 … だい じょうぶ、 よね。

 縄が朽ちる。
 彼女の身体も干からび、右手が落ちる。
 次に左手が落ちて。右足が千切れた。
 冷たい地に身体を転がしながら、彼女はただ干からびる己を思った。
 転
 生
  さえゆるされない
 …でも、あえて…いきられて、よかった。
ごろり、と長い黒髪をつけた首が、門の前で止まった。

 縄殿には、白い着物を着た少女が縄をつけられて寝かされていた。
「春!」
駆け寄ろうとした冷が、何かに弾かれて、ドアまで飛ばされた。(因みに誰も受け止めず逃げた。)「お、お前らァあ…」
「忘れたか冷この世のありとあらゆるものの全てには霊が宿る。ならば神官の霊をよみがえらせればこの縄もひける」
「おに…い…」
頭の後ろの縄の所為で苦しみを和らげることさえ出来ない。息がツマル。キモチワルイ。クルシイ。
「っの…ばばあ!死者を蘇らせ、それに縄を曳かせ、また悲劇を作り出すというのか!この呆け婆あめ!」
冷の抜刀は早かった。それが、霊を狙うかと思いきや、縄をひく機械の方を狙った。一瞬でそれは斜めに断たれ、倒れた。
瞬時、冷を弾き返したその見えないバリアも消えた、「この機械自体が結界だろう?!ならば礎壊せば簡単!」
真冬がリュックの中から小型のナイフを取り出した。それで、手際よく春の縄を切っていく。
だが、頭の機械の所にはばばがいた。
鞘に一度収め、抜刀の構えを取ると、冷は
「ばばよ。そう易々と殺させてたまるかよ」
一速。
春の首をしめていた機械が両断される。その縄も、そしてばばの胸をも浅くその剣は傷付けた。
「大丈夫?!春さん!」
「…あなたたち、だれ?」
尤もな春の問いに、彼女は答えた。「深紅。雛咲深紅よ。こっちは兄の真冬。こっちは、親友の紺碧。」
「おにいちゃん…本当にきてくれたんだ」
赤い石の台座の上で、再度抜刀の構えで彼はばばを見据えていた。
「どうするよ。さっさと黄泉の門へ連れて行け。そうしたら俺が代わりになってやるよ」
「お前はおのこ…」
遮って、
「 誰が決めた!俺が今から決めるんだよ!門が求めてるのは純粋なる「力」! …だから俺にも出来るんだよ」
ばばはただ一度、大きく息を吐き出した。

 ただ――
 す こ し
 ひととは ちがう いえに うまれて。
 家族の温もりを
 手放すことを義務付けられて
「…冷よ。既に霧絵は「居」ない。向こうの門も開く。…保険は利かないんだ。春を今、この場で殺せ。そしてその血で縄を染めよ。そうすれば」
「云っただろ!門が欲しいのは純粋な力だ!男女の別なぞない!」
「!」
風が深紅たちの足下を吹きぬけ、瞼を閉じ、また開けるとそこには黄泉の門。
「なんだかんだ云うより、実践してやるよッ!」






「お兄ちゃん、ここが、とうきょう?」
膝までの赤いチェックのスカートに、ベージュのトレーナー。黒髪は肩までに切って、幼い童女のような少女がいる。
「そうだ。東京だよ」
あのとき――
あのとき、と冷はふと思い出していた。
――「おぬしは…全てを縛れる術をみつけたのだな。…ならばいい。お前はもう、当主ではない」
黄泉の門から吹き始めた瘴気の風が、彼らの足下をなびかせ、その足に絡みつく雑霊、
「当主なんざこっちから願い下げだよっ!」
霊刀を振るうと、その瘴気の風ごと二つに分けられた。ばばの頬を掠るその風はしわびた頬に傷をつける。
「冷さん!」
深紅の言葉。声。
「おにいちゃん…ねぇおばあちゃん、何かわるいことしたの?」
「春」
振り返るその瞳の鮮やかさ。
「だってわたしがしぬのは あたり まえの ことだ もの?」
おにいちゃんは かんちがい を しているわ。
「春!何いってんだ!そんなのはもうおわりなんだよ!」
春の細い肩をつかみ、彼は声を荒げた。
「お前が死んで、俺だけ生き残るなんて、そんなの許せない!」
「…おわりじゃ、春。いいのだよ。もう――」
はと見ると、門の前でぼんやりと佇む老女の首から、血が滴っているのが見えた。
「!ばば!あんた一体何を――」
「…前の縄の巫女は儂の双子の妹じゃ。…姿も顔も一緒じゃった。ただ、妹は要領が悪く、目隠し鬼から最後まで隠れるすべを見つけてしまったんだ」
そして、縄の巫女は決まった。
「儂はわが身を呪った。身代わりを出来もしない、臆病な自分を呪った。妹が死んでから、儂は心を失い、人形と同じくなった。…しかし、儂の力は妹と同等。死んでは困ると、手篭め同然に嫁にされた…」
そこで、ばばは――息を吸った。
「儂はもう充分生きた。お前たちの両親、お前たちに出会えたこと…。もういい。妹がきっと呼んでいる」
さあ、とばばは手を広げた――
「さぁ。冷。全てを縛れ。」
その、ちからと意志で――


残されたのは、広大な土地と屋敷、膨大な財産。
これからを生きていくのに十分過ぎる程だった。
これで、
これで、よかったんだろうか。
よかったんだろうか?
彼は時々自問する。
そして、自答する。
だって、
「 結局俺も誰かを犠牲にしたんだ… 」
深紅と、紺碧、そして春がアイスを片手に戻ってきた。
「お兄ちゃん!はい!」
差し出された手の温もり。
俺は――
彼は笑った。
「ありがとう」

 古来――いにしえより
 死者の 妄執 と いうもの は
 科学 では 判明 できない 何かというのは
 必ず あって 其処に在る ものが 「何」なのか
 というのは どうしても どうしても 解せず
 誰も其処に 到達できない。

 しかし 生きている人間の妄執というものが 在るのならば
 然らば 死んだ人間の 妄執というものも 当然 存在する。

手を繋いで家へ帰るその道すがら、彼は後ろを振り向いた。
まだ、彷徨う手の行き先を待つ 今日も、彷徨うものを、彼は一瞥し、
家へと帰る。


 あ る い は
 ほ ん と う に
 死 者 の 妄 執 と
 い う も の が 在 る
 の な ら ば …


これ以降氷室の縄の巫女は廃れる。黄泉の門は二度とは開かず、外界と接触する術を持たないからだ。
しかして、知っている。
生者ある限り、死者も増え続け、いつかきっとまた、…。
だけど、冷は今は、と思った。
春が横で笑っている。
この、一瞬一瞬を大切に、大切にフィルムに納めて持っていたい。
今を、大切に生きること。
それが、最大の――氷室や緋室の人間への供養になろう。
「どうしたのおにいちゃん!」
気付かないうちに、遅れていたようだ。
「あ、今いく!」
踏み出した、その時すれ違った女性が、耳元で云った。
『有難うね』
振り返った時に既に女性は後姿だった。
つややかな長い黒髪が、その背で揺れていた。
「おにーちゃーん!おいてくよーッ!」
ああ、そうか。
死んでも止まりはしない。
ずっと廻り廻り続けるんだ。

然るに…
縄に縛られるのはここまで。
然るに――
ここから先は、自分の力で意思で歩き始める。


零~名を継ぐる者~完結





さて。いかがでしたでしょうか。途中で色々とあって途切れてしまいましたが。書いてみました零。いやーこのゲーム好き。勿論2も買います(オイ)
小さい頃から視える人間だった私にとってこんな面白いもんはありません。まぁひとりでやってると、色々起こりますが(爆笑)。
今では式というか眷属みたいなものまで持っちゃってる始末で、私どうよ、ってカンジですね。真面目にカタギにやるか、一回ちゃんとした修行でもいった方がいいのか(笑)
さて。
BGMは主に天野月子アルバム、シャロン、メグ、そしてシングル「蝶」でした。


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