光の扉

出演者:二宮和也


第一章 真冬の夜の海


―――寒さの厳しい冬の夜の海で、俺たちは出逢った―――


今俺がいるのは病院だ。
夕方、病院から訃報を受けた。
亡くなったのは兄だ。
原因は交通事故。
助手席に女を乗せて飛ばしていたらしい。
カーブを曲がりきれず、対向車と正面衝突。
意識不明の重体のまま病院に運ばれたが、すぐに息を引き取ったそうだ。

ベッドに横たわっている兄を見て泣きだしている両親。
俺はと言えば、平然としていた。
悲しくない訳じゃない。
ただ、俺にとって彼は涙を流す程の存在ではなかったからだ。

両親から信頼されていた兄。
父親の病院を継ぐために医大に通っていた兄。
夜遅くまで女と遊び回っていた兄。
家では滅多に顔を合わすことはなかったが、俺はそんな兄が嫌いだった。


「どうして彰久が・・・」
父が嘆いた。
――自業自得だろ?――
俺は心の中でそう呟いた。
母は兄に縋り付いて泣いていた。
慰めの言葉でも掛けようと思っていた時、俺を地獄へ突き落とされるような言葉を聞いた。

「お前が死ねば・・・お前が死ねばよかったんだ!!」

父はものすごい顔で俺のことを睨み付けてきた。
そして、母も冷たい目で俺のことを見た。
俺は泣きそうになるのを堪え、部屋を飛び出した。


両親に愛されていないことぐらい分かっていた。
兄のように勉強の出来ない俺が自慢の子供じゃないことも分かっていた。
だから、授業参観に来てもらえなくても我慢した。
欲しい物があってもせがんだりしなかった。
我が儘なんて一度も言わなかった。
今までずっと我慢してきたのに・・・
それなのに――――


『お前が死ねばよかったんだ!!』


この言葉が頭から離れない。
この言葉が俺を壊していく。
俺の脆い心を引き裂いていく。


「俺だって・・・俺だって!!」
俺は悲しみと寂しさ、そして憎しみを込めて叫んだ。
そして、その場に崩れ落ちた。

それからは何を考えていたのか分からない。
走り過ぎて足が痛いのも気にせず、あの人たちから少しでも離れようという一心で
一歩ずつ前へ踏み出していった。

潮の香りがしてきた。
気がつくと俺は砂の上に立っていた。
顔を上げると、そこには海が見えた。

壊された心を癒やしてくれる碧。
こんな真夜中でも、月の光によって映し出された海の色ははっきりと分かった。
海に少しでも近づこうと、また歩き始めた。

少し進むと人影が見えた。
広い砂浜にポツンと座り込んでいる人。
光の加減で髪が長い人だということが窺えた。
俺はその人に惹かれるように歩いた。
そして、その人の隣に座った。
その人は俺の方を見て微笑み、また海の方に向き直った。
とても綺麗な人だった。
清楚な中にも華やかさがあり、魅力的な女性だった。
そんな彼女に月の光が照らされ、よりいっそう美しく輝いて見えた。
でもどこかもの悲しそうな表情だったのが気になった。


その夜はずっと一緒にいた。
何を話すでもなく、ただ黙って海を見ていた。
何も話さなくても苦にはならなかった。

朝になると彼女は黙って海を去っていった。
俺は黙って海を見ていた。
名前なんて聞かなくても、また逢える気がしたから――――




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