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サンガンピュールの物語(恋愛編)1話



 ゆうこが通う中学ではクラブ活動が必修になっていて、彼女は卓球部に所属している。自分の動体視力を養うためだ。卓球部では体育館での練習を始める前に部員全員が学校の外を1周ランニングするのだが、体育館に帰る途中でサッカー部とばったり出会うと、いつも緊張する。
 「あっ、池田先輩!・・・いつ見てもルックスいいし・・・。あっ、あそこにいるのは野球部の吉村先輩!あの人もかっこいい・・・」
 こんなに胸がドキドキしたのはいつ以来だろうか。おそらくこの町に来てからは初めてだと思う。しかしいつまでもときめかせていると、
 「塩崎!何ぼーっとしてるんだ!練習始まるぞ!」
顧問の先生の叫び声が聞こえてきた。最近はずっとこんな調子だ。この様子を見かけたクラスメイトの女子は
 「なんかさ、ゆうこって最近男子に興味ない?恋でもしてるんじゃないの?」
 「どうだろう、あのまるっこい顔で。うける人いるのかな?ハハハハハ」
 小バカにしている様子だった。翌日、彼女らはゆうこに対してこの話題を振ってみた。


 「ねえ、ゆうこって好きな男子いるんじゃないの?」
 しかしゆうこは次のように答えた。
 「うん、クラブの先輩なら・・・。あと生徒会長もかっこよくない?」
 「へえー、そうなんだ。じゃあうちの男子にはいないの?」
 するとゆうこは急に落胆した表情を見せてこう言った。
 「それに比べてうちの男子は・・・、セクハラまがいのことをするやつはいるし、授業中に先生にちょっかいを出すやつはいるし、無愛想なやつばっかり・・・!」
 楽しいおしゃべりの場が凍りついてしまった。

 元々、女子にありがちな恋愛話にはちっとも興味を持たなかったサンガンピュール。夕食のときにKにこの話をしてみた。するとKは自分の思春期をなつかしながら笑い出した。
 「ハハハ、青春だねえ。懐かしいわ」
 「何がおかしいのさ、おじさん!じゃあおじさんはどんな恋愛をしてたの?」
 「う~ん、僕はもう恋をしないと決めてるんだ」
 「えええっ!どういうことなの!?」
 「大学生のときに決めたことなんだよ」
 「おじさんが大学にいたとき何があったの?」
 「話してあげよう。大学1年生だった僕はね、ガールフレンドを作ろうと必死だった。そして2年生になっても恋に情熱を燃やしてたんだ。何とかして彼女を作らなきゃ!という感じだったよ。でもなあ・・・、なかなか彼女ができなかったんだよ。女性の方からふられたよ」
 「おじさんのやり方に問題があったんじゃないの?」
 「まあ、結論としてはそうなんだけどね(笑)。そこで僕は大学3年生のときに、恋人になることを強制させるようなことはしない。単なる友達としてつきあった方が得策だ、と考えたんだよ。そしたら恋への情熱が急になくなったんだよ。それが今も続いていて、女性の友達はいるけど俺は未だに結婚していないんだよ」
 「・・・・・・」
 サンガンピュールは無言だった。
 「だからおじさんは結婚してないんだ・・・」
 と心の中で唖然とするしかなかった。Kは変わった恋愛観の持ち主だから、サンガンピュールの恋の相談をしても相手にされないだろう。彼女はそう思った。もう恋愛で人に頼るのやめようか、と考えた日だった。

 ( 第2話 に続く)

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