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サンガンピュールの物語(お菓子の国)5話



 月曜日。もう平日なので学校に行かなければならない。土浦市立ひかり中学校。サンガンピュールが塩崎ゆうことして通っている学校だ。入学から半年以上が経過し、クラスメイトとは大分打ち解けて来た。しかしその日は、平日に入って気持ちを切り替えなければならないのに、サンガンピュールは学校でもお菓子の国のことばかり考えていた。果たしてイベントは上手く行くのか、チクロンBとはどう対決するのか、そして職人たちは仲直りできるのか。「勉強を疎かにするな」とKや担任教師から言われていることもあり、彼女はスーパーヒロインとしての自分と、中学生としての自分の両立に苦しみ、精神的疲労に悩まされていた。
 「塩崎!」
 気が付いたら、数学の授業で自分の学校での名前が呼ばれていた。
 「はっ、はい!」
 「このグラフは正比例か、反比例か、どっち?」
 ぼーっとしていたせいか、すぐに意味が分からなかった。
 「・・・?どういうことですか?」
 すると数学を担当する伊藤先生は苦笑いしながら言った。
 「『正比例か、反比例か、どっちだ』って言ってんだよ!大丈夫か?」
 クラスのみんなから失笑を買ってしまい、余計恥ずかしい思いをしてしまった。彼女はその後、給食の時間や午後の授業、部活動でもテンションが低いまま変わらなかった。
 その夜、「お菓子の国」についてまだ気になるところがあるのか、寝るべき時間に考え込んでしまった。それで全然眠れず、火曜日の朝はKに叩き起こされた。その日、彼女は午前中の休み時間だというのに珍しく寝ていた。その際、
 「お菓子の国が・・・危ない・・・ウウウ」
 との寝言を親友の岩本あずみ、さらに都合の悪いことに藤巻かれん、水山さゆりに見聞きされてしまった。あずみとは入学直後から仲良くしている関係で、彼女を自宅に招待したこともある。ところがかれんとさゆりは彼女にとって始末の悪い存在だった。高飛車な性格のかれんは地元の大豆食品メーカーの社長の娘であり、ひかり中学校1年生の間では一目置かれた存在だった。もっと言うと好き嫌いがはっきり分かれる少女だった。
 「お菓子の国なんていう夢みたいなこと言ってないで、自分のやるべきことをやりなさい!」
 「何よ、この大金持ちが!」
 「あらぁ、また始まった。ゆうこがまた怒った」
 かれんは待っていたかのようにニコニコしながら言った。これがゆうこの怒りの火に油を注いだ。
 「うっせぇんだよ、このクソ女!消えちまいな!!」
 さらに邪魔者がもう一人。
 「あらぁ、お菓子の国、お菓子の国!ゆうこは子どもっぽいな~」
 「いい加減にしなっ!」
 こうちょっかいを出したのはさゆりだった。モデルのような顔立ちの彼女は男子生徒から人気を集める。しかし彼女が一旦敵と判断した者に対してはいかなる手段を講じてでも蹴落とそうとする冷酷さも持っている。サンガンピュールもさゆりの嫌われ者リストの中の一人に入っており、さゆりは学校内で塩崎ゆうこと名乗るサンガンピュールを冷やかしの対象とした。陰口を叩いたり、言動をからかったりと、サンガンピュールにとっては印象の悪いクラスメイトだ。
 一方で親友のあずみはまずこう話しかけた。
 「・・・大変だね、ゆうこちゃん」
 「うん、もう大変だよ。いい加減にしろって感じ」
 「いいよ、あんなやつらは放っとこうよ。気にしないで」
 「いいや、気にせずにはいられない!何としてでも消してやる!」
 「落ち着いて、ゆうこちゃん!」
 暴走しようとするサンガンピュールに対し、あずみが止めにかかるシーンがこの教室では何度かあった。
 この日、サンガンピュールの卓球部は活動日ではなかったが、あずみの所属する美術部は活動日だった。放課後、あずみが話しかけた。
 「ねえ、ゆうこちゃん、ほんとにどうしたの?」
 「・・・何でもないよ」
 「何でもないわけないじゃん!ずっと疲れてるように見えるし!」
 「・・・・・・」
 「何か悩みとかあるの?」
 サンガンピュールはあずみが自分にとって信用に足るクラスメイトだと考えていたので、彼女に「お菓子の国」の概要を話してしまった。
 「そうなんだ、ゆうこちゃんってそういうのに興味あるんだ」
 「まあね」
 「悪いことじゃないよ。あたしも美術部の活動で絵を描く時のヒントのために、そういうのに行きたいな」
 「いや、それはやめた方がいいよ」
 「どうして?」
 「それは・・・、今、『お菓子の国』には悪者がはびこってるんだ」
 「悪者!?どういうこと?」
 「うっ・・・ごめん、これ以上言えない・・・」
 あずみを危険な目に遭わせたくないという思いからその言葉が出たのだが、結果として塩崎ゆうことサンガンピュールは同一人物ではないかという疑惑が深まることを、サンガンピュールは恐れていた。

 木曜日、Kは職場にいた。休憩時間にパソコンでネットサーフィンしていた時、気になる記事を発見した。そのタイトルは「『お菓子の国』開催中止の危機」というものだった。Kはとっさに先週末のことを思い出した。
 その夜、Kは夕食の際にサンガンピュールに言った。
 「ええっ、本当にやばいの!?」
 「前々からやばかったけどな。どうやら、チクロンBが本格的な逆襲を開始したらしい。新聞に記事が載るくらいにな。・・・くそっ、この前の日曜の時点で止めておけば・・・」
 Kは一種の後悔をにじませながら語った。
 「もう待ってらんないよ、明日にでも行こう!」
 「だめだ。明日は金曜だろ?お菓子の国に行くのは次の土曜だ!」
 「ええ~」
 「『ええ~』じゃない!とにかく今は明日の学校での勉強を心配しろ。お菓子の国のことはその後だ」

 ( 第6話 に続く)

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