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サンガンピュールの物語(お菓子の国)8話



 解放された職人は帰還後すぐ、サンガンピュールに地図を渡した。彼女、K、世良田、青木、北条等、お菓子の国の主要メンバーほぼ全員がそれを見た。なぜチクロンBはわざわざ地図を渡し、アジトの場所を教えたのか。親切心からか?いや、そんなものはあの集団には一かけらも無い。サンガンピュールに勝てること、そして「お菓子の国」を開催断念に追い込めるという絶対的な自信があるから、解放された人質に地図を渡したのだろう。「俺たちに戦いを挑んでも無駄だ」という隠れたメッセージをサンガンピュールは何となく感じ取った。特に脳裏に焼き付いていたのは、ムエタイ選手のような熊田だった。ライトセイバーを武器にしても相手にされなかったほど強かった彼。そいつに勝てる自信が今の彼女には無かった。しかも地図にはご丁寧に手紙がついていた。

 「昨年からの恩を仇で返すとは実に卑怯だぜ。サンガンピュールを同情させて誘ったのか?実に哀れなお菓子職人どもだ。明日の午後、お菓子の国をまた襲撃するから首を洗って待っていろ。
 チクロンB代表 熊田吾郎」

 サンガンピュールにとっては日曜までに事を済ませる必要性が出てきた。スーパーヒロインとして終日まともに動けるのは土日だけ。平日は学校だ。そう考えると、出てきた結論は自然なことだった。だがチクロンBが予告通り日曜の昼に再びやってくるとは限らないと考えていることでサンガンピュール、K、世良田らは共通していた。そこでKは考えた。その晩はサンガンピュールを土浦に帰宅させず、北千住で一晩泊まることにした。これだと臨機応変さが高まる。
 その夜、一般人であるKは一人で土浦の自宅に帰った。その際、ついいつもの癖で家に入る時に「ただいま」と言ってしまった。ロンドンでの初顔合わせから2年以上が経過し、サンガンピュールとの生活が当たり前となったKにとって、一人自宅にいるというのは久しぶりだった。彼の同級生や仕事仲間には結婚して子供を持っている人が多い。特に同級生と同窓会で再会する度にKは寂しい気持ちになっていた。その心境を吹き飛ばしてくれたのが、他でもないサンガンピュールだった。それ故、寝る直前に思わず「寂しい・・・」と声に出して言ってしまった。

 ( 第9話 に続く)

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