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サンガンピュールの物語(成長編)



 これは当ブログの管理人が2007年12月に完成させた小説シリーズ「サンガンピュールの物語」の第2作です。文体から当時の私の若さや拙さが出てしまっており、読みづらい、分かりにくい箇所が多々あるかと思います。脱稿から9年が経過し、補足説明が必要な文章を追加・修正しました。
 原作とは異なりますので、ご了承の上で御覧いただければと思います。

 2016年3月27日 Nishiken

-作者の言葉-

 この物語は小説「サンガンピュールの物語」の第2作目です。雷に打たれた結果、特殊な能力を身に着けた少女・サンガンピュールの、茨城県での生活が始まりました。プロロ-グでは、かなり政治的色彩が強い彼女の言動がありますが、これは彼女の人格を描くための必要不可欠な部分なのです。

 では、少し長めのプロローグからどうぞ。

 2016年3月27日 加筆

-プロローグ-

 2001年8月、1人のフランス人の少女の人生が大きく変わった。フランス中部の中心都市・リヨンで生まれ育った、ごく普通の女子小学生だった彼女。だがロンドンで落雷を受けたことによって脳の仕組みが大きく変化した結果、超能力を獲得した。それと同時に副作用として容姿が大きく変わった。身長120センチ程の3頭身の体型という変わり果てた姿を見た瞬間、彼女の両親は嫌悪した。これまで両親からの愛を一身に浴びていたのに、一転して怯えられた。さらに特異能力に目覚めて強盗を残忍な方法で捕まえた結果、周囲の人々から怖がられて、居場所を失っていた。そんな絶望的な状況の中で、Kという日本人に引き取られた。そして「サンガンピュール(Sangimpur)」という新しい名前をもらって、茨城県土浦市に移住してきたのだった。それから1年数か月が経過した2003年1月、12歳になったサンガンピュールには、人間関係で大きな変化が見られた。まず、彼女にとって親同然の保護責任者だったKが彼女と養子縁組を組み、彼女はKの養子となったのである。実の親からの愛を失い、本来ならば見知らぬ者であるはずのKとは、もう家族同然の付き合いをしていた。サンガンピュールには、願ってもないことだった。
 それから間もない日のこと。養父となったKがこう言った。
 K「サンガンピュール、君を産んだ本当のお父さん、お母さんって今頃何しているのかな。まだ恋しいのかな?」
 そういえばそうだ。彼女は一瞬考えた。自分を捨てた実の親は今頃どうしているだろうか。彼女の故郷であるフランス・リヨンの町で細々と暮らしているのには違いない。しかし両親はロンドンで雷に打たれた私の醜い姿を見て以来、まるで戦時中に迫害されたユダヤ人のように自分の特長を認めようとしなかった。ロンドンのホテルで捨てられてからは手紙を一通も送っていない。彼女はKに拾われて以来、実の親が恋しくなったことは一度もない。彼女は言う。
 サンガンピュール「両親は自分を捨てたんだ。雷に打たれて以来、愛してくれなかった。そういうことから、おじさんはあたしの命の恩人だよ。あたしを産んでくれた本当の父さん、母さんなんて、もう恋しくないよ。だからずっとおじさんについていくよ」

 その証拠と言えるのか、来日後1年半という間に日本語を大幅に上達させ、普通の日本人とほぼ同レベルのコミュニケーションがとれるようになった。彼女はすっかりフランス人から日本人になっていた。そしてKが新聞を購読している影響か、自分も読むようになり、政治や社会のことを深く考えるようになった。
 Kは彼女がそういうことをするようになったこと自体はうれしかった。尋常ではない成り行きでフランス人の少女を拾い、2年余りでここまで育て上げた苦労が報われたというか、何というか。未婚で子育て経験のないKにとっては、十分やりがいのある子育てであった。しかし尋常じゃない出来事というのは拾ったときの経緯だけではなく、つい最近のことでも起きた。

 サンガンピュールの世界観を大きく変え、長年にわたりアメリカ嫌いとなった彼女を作った事件が起こった。2003年3月20日に勃発したイラク戦争である。これは核開発疑惑をもたれたイラクの政権に対し、当時の合衆国大統領がイラク大統領とその一家の国外退去を要求する最後通牒を発表したものの、イラク政権が拒否したために、アメリカを中心とする「有志連合軍」が国連決議を待たずに空爆に踏み切ったことがきっかけである。フランス、ドイツ、ロシアなど多くの主要国の反対を押し切っての派兵であった。だが彼女は
 サンガンピュール「イラクは何も悪いことをしていないと信じたい!何か理不尽さが残る」
 と考えていた。ワシントンでも、ロンドンでも、東京でも、世界中で米軍に対する抗議集会が開催された。彼女はこのイラク戦争を機に、アメリカに対して批判的な本やテレビ番組を見るようになり(ジャンル問わず)、急速にアメリカ嫌いとなっていき、逆に開戦に反対した生まれ故郷のフランス、ドイツといった、いわゆる「古いヨーロッパ」に対して好感を抱くようになる。現在まで続く、彼女のアメリカ嫌いはここから始まった。

 世界中を旅した経験のある旅人・Kは、彼女と同じく開戦には反対だった。しかし彼女と同じく痛烈な反米派かというとそうではない。アメリカという国は別に好きでも嫌いでもない。Kは、何年か前にアメリカに旅行に行ったときに作ったアメリカ人の友人も持っている。政治家と個人的な友人は別だ。悪いのはテキサスの大バカ野郎を始めとする、一部の人たちだけだ、と冷静に大人の態度を取っている。しかし内心では、
 K「そもそもフセイン政権は昔、クルド人を虐殺したことがあるのを、こいつは知ってんのだろうか・・・」
 非常に気難しい顔をせざるをえなかった。サンガンピュールと違い、政治自体には関心があるものの、普段の私生活では滅多に政治の話をしない(したくない?)Kである。Kは彼女の激しいアメリカ批判、反米精神には到底ついていけなかった。
 アメリカ人はみんな頭がおかしいというけれど、それは一部の人だけがやっている行為ではないか。一部の人たちのせいで…。やはりKは、戦争を始めた「一部の人たち」に対する怒りが収まらなかったようだ。


 ( 第1話 へ続く)

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