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サンガンピュールの物語(成長編)3話

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 12歳のサンガンピュールは、「塩崎ゆうこ」という偽名を使って中学校に通うことになった。本来の姿も何もかもを隠して、彼女の学校生活は始まった。
 2003年4月7日、月曜日。中学校生活最初の日。亀城公園では桜が満開になったという報道と正反対に、寒の戻りを感じさせる曇り空になった。Kの自宅を出てしばらくは土浦ニューウェイという高架道路に沿って歩く。足元が高架橋で暗く見えて尚更肌寒く感じた。しばらく土浦駅方面に向かって、千束町の交差点を北東に曲がる。国道354号線をしばらく歩くと、入学先である土浦市立ひかり中学校にたどり着いた。
 上級生「入学おめでとうございます」
 昇降口にある受付で上級生から花びらをかたどった入学祝いのバッジをつけてもらった。彼女は1年1組に配属された。昇降口から階段を上がって3階にある指定された教室で入学式への出席を待つ。同年代の子ども達との関わりが少なかったため、当然ながら彼女の周りは知らない人だらけであった。すると同じクラスに配属された女子生徒から声を掛けられた。
 少女「ねえ、あなたって、あのサンガンピュールに似てるね!」
 彼女は赤に近い黒い髪の色をしていた。この少女に対し、サンガンピュール…いや、塩崎ゆうこと嫌でも名乗らざるを得なくなった彼女は
 サンガンピュール「まさかあ。そんなの偶然だよ。あたしは単なるそっくりさんだよ」
 と必死に言い訳するだけだった。勿論自分のことだと分かっているのであるが、ここでは正体を隠し通した。すると声を掛けた少女が言った。

 少女「私、岩本あずみ!よろしくね!」

 元気が良くて、なおかつ感じの良い少女だった。
 そして体育館で入学式が始まり、そこで新入生の名前が一人ずつ呼ばれた。1年1組の男子の呼び上げが終わり、女子の番になった。サンガンピュールの番は女子7番目である。
 森先生「今田愛美(いまだ・まなみ)」
 少女「はい」
 1組担任である森先生の呼びかけと、新入生の緊張気味ながらも威勢の良い声がこだました。
 森先生「岩本あずみ」
 あずみ「はい!」
 森先生「梶本弥生(かじもと・やよい)」
 あずみ「はい」
 次々と女子の名前が呼ばれる中、彼女が偽名で呼ばれた。
 森先生「塩崎ゆうこ!」

 サンガンピュール「はい!」

 元気に答えた。自分自身が成長するために、サンガンピュールは新たな一歩を踏み出した。

 入学式の日は担任の森先生から注意事項を説明して終わりだった。出席番号は、男子は1番から、女子は31番から始まるように指定されていた。その翌日から、新たなクラスメイトとともに自己紹介することになったサンガンピュール。偽名で名前を呼ばれ、偽名で自己紹介をするというのは、彼女にとっては自己否定させられるようなものであったが、自分の正体を隠し通すためなので仕方がなかった。男女別で出席番号順で各自が自己紹介していった。女子の7人目、いよいよ出席番号37番である彼女の番になった。教壇に立った瞬間、彼女の緊張は最高潮に達した。だがここまで来たからにはしょうがなかった。ここで引き下がったら女が廃る。
 サンガンピュール「塩崎ゆうこです。東京・世田谷区の小学校を卒業し、今月になって土浦に引っ越してきました。友達をいっぱい作って、楽しい中学生活を送りたいと思います。よろしくお願いします」
 ちなみに世田谷区出身といううそのプロフィールを言ったものの、女子生徒はおろか、男子生徒からも「かわいい」と言われた彼女は若干照れていた。男勝りの彼女にとっては「かわいい」と言われるのは好きではなかった。女の子だけど、男手一つで自分を育てたKの影響もあって、ずっと男っぽくやってきた。それで「かわいい」という言葉が彼女の心に引っかかるのだった。しかし彼女は正体を隠すために、冷静さを装った。ひとまず変人扱いされずに、順調な出だしである。

サンガンピュールとゆうこ

 サンガンピュール(左)と塩崎ゆうこ(右)。同一人物であるが、便宜上2人分にしている。制服は標準的なセーラー服だ。

 ( 第4話 に続く)

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