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世界中のファッションに欠かせない素材であるコットン。その生産現場では、貧困・労働搾取・環境破壊など深刻な問題が存在しています。この記事では、インド・パキスタン・バングラデシュ・ウズベキスタンなどの主要生産国をめぐる実態と、フェアトレードが果たす希望の役割について詳しく解説します。
世界のコットン生産は、発展途上国を中心に行われています。
インド、中国、アメリカが上位を占める中、パキスタンやバングラデシュも重要な生産国です。これらの国々では、コットンがGDPや輸出収入の大きな割合を占めており、経済を支える屋台骨となっています。
とくに農村部では、コットン栽培が主な生計手段となっている家庭が多く、数百万人の生活がこの一作物に依存しているのが現実です。
このような依存構造は経済の脆弱性を生み出します。
たとえば天候不順による不作や市場価格の下落が直撃すれば、家計は一気に破綻しやすく、借金の連鎖に陥る農家も少なくありません。
コットンは現金収入をもたらす反面、価格の変動リスクを常に内包しているのです。
インドでは、農業従事者のうち相当数がコットン栽培に関わっています。
多くは小規模な自作農であり、種子の購入や農薬代をローンに頼るケースが一般的です。収穫量が見込めなければ返済は困難となり、農民自殺が社会問題化しています。
インド農業研究機関の調査によると、近年では年間1万人以上の農民が自殺に追い込まれていると報告されています。
パキスタンにおいても状況は酷似しています。
灌漑施設の不足により水資源の確保が困難で、生産性は気候に左右されやすいです。また、女性や子どもの労働力に依存している側面が強く、教育の機会を奪う労働が日常化しています。
労働賃金は極めて低く、法的保護の及ばない非公式な契約も多いため、搾取の構造が温存されています。
バングラデシュは自国でのコットン栽培が限定的であるにもかかわらず、世界有数の衣料品輸出国です。
主にインドやパキスタンなどからコットンを輸入し、国内で縫製・加工された製品を欧米市場へ輸出しています。
この構造により、国内には400万人以上の縫製労働者が存在し、GDPの8割近くを繊維関連産業が占めています。
縫製産業は女性の雇用の受け皿ともなっており、農村部の女性が都市へ出稼ぎに出ることで家庭の収入が向上するという効果もあります。
加えて、国際市場での評価を維持するために、一部工場では労働環境の改善が進み、ILO(国際労働機関)基準への対応も進められています。
しかし、最低賃金の水準はなお低く、労働組合の権利保護も道半ばです。
ウズベキスタンは旧ソ連時代から国策としてコットンの栽培を推進してきました。
国家が栽培と流通を管理しており、そのために「国家動員」として学生や公務員が収穫に動員されるという体制が長く続いてきました。
国際NGOや人権団体はこれを強制労働と位置づけ、長年にわたり非難してきました。
国際的な批判を受けて、政府は2017年以降、強制労働の根絶に向けた改革を進めています。
ILOと協力したモニタリング体制が整備され、一部の強制労働は減少したとされますが、現場ではなお制度の形骸化や違法行為が残存していると報告されています。
人権と経済発展のバランスをどう取るかが、ウズベキスタンのコットン産業にとって重要な課題です。
フェアトレードは、生産者に対して適正な価格と取引条件を保証し、生活の安定と自立を支援する仕組みです。とくにフェアトレード・インターナショナル(FLO)によって制定された基準では、最低価格制度やプレミアム(奨励金)の支払いが義務づけられており、価格の急落による生活の破綻を防ぐセーフティネットとなっています。
コットン生産者にとって、この制度は生活を変える力を持っています。
フェアトレード認証を受けた農家は、組合を形成して交渉力を持ち、農薬の使用や労働条件についても国際基準に沿った改善が求められます。また、子どもの就学や地域の医療施設の整備など、コミュニティ全体に還元される仕組みが用意されています。
こうした支援は、短期的な援助ではなく、持続可能な発展を目指す視点から設計されています。
フェアトレードが成功するかどうかは、消費者の選択にかかっています。
私たちが「どの製品を選ぶか」は、直接的に生産現場に影響を与えます。
フェアトレード認証のあるトートバッグや衣類を購入することは、搾取のない労働を支える意思表示であり、小さな行動の連続が大きな変化につながります。
最近では、ファッションブランドでもフェアトレード素材を使用する動きが増えています。
たとえばパタゴニアやピープルツリーなどは、環境配慮と社会的公正を両立させた製品開発に取り組み、多くの支持を集めています。
サステナブルな暮らしは「我慢」ではなく、「選ぶ楽しさ」によって広がっていくのです。
コットンは水を大量に必要とする作物です。
1kgのコットンを育てるのに約1万リットルの水が必要とされるほどで、乾燥地帯での生産は水資源の枯渇を招きやすくなります。有名な例が「アラル海の縮小」です。
旧ソ連時代にウズベキスタンでコットン栽培を推進するため、河川の水を灌漑用に大量に引いた結果、内陸湖であるアラル海は半分以下にまで干上がってしまいました。
また、化学肥料や農薬の過剰使用により、土壌の劣化や生物多様性の損失も問題視されています。コットン畑で使われる農薬は、世界全体の農薬使用量の約16%に達するともいわれ、農家自身の健康被害も報告されています。
こうした課題への解決策として、有機農法やIPM(総合的病害虫管理)といったサステナブルな農業技術が注目されています。フェアトレード認証を受ける農家の多くは、農薬の使用を抑え、環境に配慮した生産方法を採用することで、長期的に安定した土地利用を目指しています。
さらに、フェアトレードによって得たプレミアムは、灌漑システムの改善や土壌改良、雨水貯留施設の設置など、環境保全にも使われています。このように、フェアトレードは人権の問題だけでなく、地球環境に対するアプローチとしても有効な手段なのです。
フェアトレードによってもたらされる恩恵は、単なる収入の増加にとどまりません。
たとえば、コットン農家の子どもが学校に通えるようになったり、診療所が建設されたりといった社会インフラの整備が進むことで、地域全体の生活の質が向上します。
教育を受けた子どもたちは、次世代の担い手として地域に新たな価値をもたらし、貧困の連鎖を断ち切る希望となります。
さらに、女性の経済参加を支援するプロジェクトも多く、フェアトレードによって自立する女性たちが増えています。これは、ジェンダー平等の実現や、地域経済の多様化にもつながり、持続可能な社会の実現に向けた大きな一歩となるのです。
私たちが毎日使うトートバッグやTシャツ。
その素材に目を向けるだけで、社会貢献の第一歩を踏み出すことができます。値段やデザインだけでなく、「どこで、だれが、どんな風に作ったのか」を考えてみる。
そんな意識の変化が、フェアトレードの理念を支える土台となります。
フェアトレード商品を選ぶことは、特別なことではありません。スーパーやネットショップでも手に入る時代だからこそ、より多くの人が「やさしい選択」を重ねていくことが、未来を変える原動力となります。
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