7)しっぺ返し?




小雨の降る成田に日本時間の18時少し前に着陸した。予定より30分ほど遅れ。でも雨の夕暮れとしては 上手なランディングだったと思う。
飛行機を下りるとすぐに乗り継ぎの搭乗口に急いだ。ローマから乗換えは20人ほど。なぜか国際線扱いの搭乗口に着いたのは出発時刻の18:15ちょうど。もう座席には、ほとんどのお客が乗っている。申し訳なさそうに乗り込むと、2階へ案内された。
「おぉっ!エグゼクティブシート(ビジネスクラス)じゃないですか!」
足元広いし収納は横にもあるしアテンダントはきれいだし、いやいやたった一時間弱のフライトではもったいないなあ・・・今思えば、こんなこと思うんじゃなかった。

シートに座って落ち着いてもなかなか離陸準備に入らない。最初のうちはシートを倒すと「すぐに離陸ですので・・・」といっていたアテンダントも、そのうち何も言わなくなった。どうやら僕らより遅れてくる便があるらしい。
19:00、機長より妙なアナウンス。
「当機は搭乗手続きした人数と実際に乗っている人数が合わない事がわかりました。その場合、航空法により乗っていない人間の荷物は降ろさなければなりません。15分ほどお待ちください」
後ろの席のおっさんが松本行きのバスについてアテンダントと何かを話してる。21時が終バスでそれに乗りたいんだけど・・・と聞こえた。遠くの人は大変だ。その時は他人ごとだった。

19:30になってもなかなか離陸準備に入らない。国際線扱いのエグゼクティブシートとはいえ、成田―名古屋の近距離が理由なのだろう、食事のサービスはもとより、映画や音楽もない。新聞とジュースだけなので そのうち あきてしまった。結局、離陸は20:15になった。遅れの影響で滑走路が混雑していたらしい。
やれやれこれで帰れる、そうホッとしたものの、飛び立ってもひまつぶしがなにもない。コレならエコノミーでも映画が見られる方がいいなあ。ほぼフラットになるエグゼクティブシートだけど、ここで寝ちゃったら時差ぼけ解消が難しくなるので寝ないで我慢する。アテンダントがジュースを配りながら謝っている。別にお姉さんが悪いわけじゃないからいいよ、と笑顔で返した。
ところが到着予定の21時少し前に機長からアナウンス。
「到着予定の中部国際空港が霧のため ただいま着陸が出来ません。ただし気象台によりますと30分ほどで晴れる予報ですので浜松上空で待機いたします」
まあこの際30分くらいどうでもいいよ、無事にさえ着いてくれたら。ほとんどが海外からの乗り継ぎの客だろう、みんなぐったりしている。後ろのおっさんはもう松本行きをあきらめたのだろう、ぐっすり寝ている。
僕も気がついたら すこしうとうとしてたみたいだ。
21時半を過ぎたころに再び 機長からアナウンス。
「中部国際空港の霧が晴れるのが予定より遅れています。日本時間の22時まで待っても晴れない場合は 関西国際空港に変更します」
さすがに少しどよめいた。22時過ぎに関空に着陸しても 名古屋には帰られそうもない。重い荷物を引きずって、ホテル探すのはつらいなあ、でも言葉が通じるだけまだなんとかなるか・・・そんな事を考えていた。しかし、45分を過ぎても50分を過ぎてもアナウンスはない。相変わらず浜松上空を旋回しているようだ。
あぁ、ホテルを探さなくちゃ。そもそも関空って大阪のどのへんにあるんだっけ?
もうあきらめていた21:57、アナウンスが入った。
「中部国際空港から着陸の許可が下りました。しかしギリギリの選択ですので 着陸不能と判断した場合は関西国際空港へ向かいます」

ギリギリかぁ・・・他人に自分の命を賭けるのはあんまり気分のいいもんじゃないけど、今さらどうこう出来るもんじゃないし。海外旅行保険って確か家に帰るまで有効だよな。じゃあ まあ いいか。着陸体勢に入るとどこかの夜景が見えた。なーんだ、霧なんてないじゃん。そう感じたのもつかぬ間、海上にでるとすぐにモヤって来た。音声のない、機体の前方を写す映像だけがスクリーンに光っている。モヤモヤした映像にはなかなか空港らしきものは写らない。ホントにギリギリの決断だったのが想像出来る。緊張感のある低空飛行を続けること約10分、ぼやけた光りの列が見えたかと思ったらどんどん高度を下がっていく。うわ~墜落する!と思った瞬間、目の前に滑走路が現れた・・・。

何ごともなかったかのように、飛行機は到着した。ベルト着用サインが消えると機長の遅延をわびるアナウンスがあったが誰も聞いていないようだった。みんなぐったり棚の荷物を取り出している。

ん?なんだか酸っぱい匂いがする。なんだ?と思ってたら、
「うわ~やっぱりダメだったわぁ!」
となりのおばちゃん、持ち込んだビンが割れたようだった。
「ピクルスなのよ~ピクルス!やっぱりビンはダメねぇ」
一体誰に弁解してるのだろう。誰も聞いていないのに。

飛行機を下りると 22時半少し前。4時間も機内にいたことになるのか・・・そんなことを考えながら荷物が出てくるコンベアをぼんやり見ていた。
「名古屋行きの終電が23:10です!荷物が出た人から急いで駅に向かって下さい!」
ツアーコンダクターらしいお姉さんが叫んでいる。ふ~む、思ったよりヤバイことになってるかもしれん。
そんな中、血だらけのトランクが出て来た。
「あーあ、ワインが割れちゃったよ」
ツイてない時はツイてないものである。僕は液体を買わなくて良かった。
そんな状況なので荷物検査は
「どこへ行きましたか?」「ひとり旅ですか?」「変なモノ持ち込んでないですよね?」
あっさりパス。こんな簡単ならエロ本買ってもよかったかな。

しかし、ゆっくり見学して、風呂入って(セントレアは銭湯があるのだ!)ご飯食べるつもりだったセントレアで、まさか小走りするハメになるとは・・・。でも駅とのつなぎは成田よりはるかにいい。到着ロビーからすぐに駅に着いた。切符を買ってホームに着くと22:50だった。セントレアから電車を二回乗り換えてアパートの最寄り駅まで向かうのだが、最後の電車はなかった。仕方なしに知立からタクシーに乗った。タクシー代\4500は痛い出費だったが、アパートに着いたのが24:30。かなりの疲労感で空腹のまま、横になった。

後で知ったのだが、霧の中、最初に着陸したのが僕らの飛行機だったらしい。他のは早々に関空や伊丹に回されたそうだ。さらに僕らより後に着陸した機も幾つかあり、電車のなくなった海上空港でタクシー待ちに1000人並んだり、ホテルも満室で毛布を借りてロビーで泊まった人も何人かいたようだ。

『うちに帰るまでが旅』とは、小学校の遠足の時に聞いた話だけど 今更ながら実感した旅行であった。
もしかして、順調だったイタリアのしっぺ返しだったのかもしれない。





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