月臣邸

2005.12.06
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
「ぃや…ぁ、あぁぁああ…ッ」


ボタ

  ボタ

         ビチャ


もげた右腕を必死に探した。
だけど右目は奪われ、左目も頭上から垂れてくる血で少しも機能していない。


「いや、やめて…っやだぁ…ッ」

黄泉は必死に叫び、ズルズルと肉と骨が剥き出しの足を引き摺り出口へと向かった。


狂った眼をしている男は、血だらけの包丁を黄泉へと向ける。




 左目も欲しいなぁ…その落ちてる右腕も欲しぃ。左腕も…両足も全部いぃなぁ


    全部僕に頂戴…?」









やだ。見ないで。

俺の大好きな人


俺を、見ないで

今俺汚いよ


右腕はもがれた


足の肉も削げて骨剥き出しだし

右目も 無い



汚いよ


もう瑠樺さんに触ってもらえないのかなあ




もう瑠樺さん、俺のこと見てくれないかな

だってこんなに 汚くて 惨めだもん



瑠樺さんが好きだった
可愛くて綺麗だった俺は

一瞬にして血に塗れて消えた



こんな

薄汚れた、生きてるか生きてないかもわかんない



汚い、俺なんか。





あぁ、俺

もう瑠樺さんに触ってもらえないのかなぁ
エッチしてくれないのかな

もう 「黄泉」って

愛してくれないのかなあ










「黄泉」





「黄泉」








「愛してる」








「愛してるから」












「こんなに綺麗なお前」





「嫌いになれるはずねーじゃん」












「大好きだよ」

「愛してる」










「だから、さっさと目ぇ覚ませ」













――ずっと変わらない、この気持ちは。

お前がどんな形になったって、いいよ。



愛してる















起きると、病室のベッドの上だった。
ふっと横を見ると、真っ白な窓から雪が見える。

俺はどうやら通り魔とやらに襲われたらしい。

右目が無い。

慣れない感覚に吐き気がした。


手元に置いてあった鏡を見ると、右目を隠すように顔に包帯が覆われていた。


左目は健在。
キョロキョロと辺りを見回す左目を、鏡越しに見つめた。


もう無い右腕の付け根にも包帯が巻いてあり、掛け布団を捲ると足の節々にも包帯が巻かれてあった。

この包帯を取ればどんな光景なんだろうと、
いともたやすく想像がついて嫌気が差した。



…なんで?







なんで、俺が。

なんで俺が襲われたんだろう。





涙が出てきて、痛む左腕を顔まで持ってきて拭った。

あー、もうヤだ。
誰にも見られたくない、こんな姿。

だって気持ち悪いし。なんかグロイし、こんな体。


もういいよ 死にたい

こんな姿 大好きな貴方に見せるくらいなら



「…ぁ」


ふと声を出すと、声も張りがないけど健在で。

声だけは、失いたくなかった。
いつもの俺の声を、取り戻したい。


唄った。




唄いながら、脳裏に掠めたのは愛しい人の声だった。

「黄泉」って
「愛してる」って

言ってくれた声が、頭の中で繰り返される。


ついさっきまで、あの人がまるですぐ傍にいてくれたような感覚。
すぐ傍で囁いてくれてたんじゃないか、と甘い期待が過ぎる。







唄いながら歌詞を考えてた。
こんな唄は誰も知らない。
今、自分で作りながら唄ってる。



この唄を

届けたい






汚いよね
ごめんね
綺麗なままでいたかったよ

こんな姿になりたくなかったよ


右目はもうついたりしない
右腕はもう生えてこない
削げた肉だって もう


でも



…うぅん、もういいよ






ずっと貴方を愛してる。

ただ、それだけ。












ドアの向こうには愛しい貴方がいた
何も言わずに、俺の歌を聴いていた
それに気付かずに、俺は歌い続けた
貴方を見たら、きっと俺は泣くから

この距離のままで


俺の声を胸に刻んで








お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2005.12.06 18:26:13
コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: