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島田荘司『伊根の龍神』~原書房、2025年~ 御手洗潔シリーズの最新長編です。 久々に石岡さんの一人称で語られます。そして舞台は2020年…作中に明記されていませんが、二人のご年齢を思うと感慨深くなります。 さて、それでは簡単に内容紹介と感想を。―――「大学院」という喫茶店で知り合った藤浪麗羅に紹介された「龍神」という童話集には、原発を襲う怪物が描かれていた。 ネッシー研究会所属という麗羅から、京都府の伊根でも、龍神の目撃情報があり、ぜひ同行して欲しいと依頼を受けた石岡は、同じく麗羅からの依頼で、御手洗に状況を説明するため連絡をとる。すると、御手洗は決して伊根には近づかないように言う。 しかし、御手洗の言葉を伝えても、ほぼ無理矢理麗羅によって伊根に連れていかれることになった石岡は、現地で思いもよらない経験をすることになる。現地には多くの自衛隊員が配置され、二人が宿をとった民宿の奥さんは翌日に失踪、そして謎の怪物の目撃談…。また、宿の主人もなんらかのトラブルに巻き込まれているようで…。 果たして伊根の龍神の真相とは。――― 2023年刊行の『ローズマリーのあまき香り』から、2年ぶりとなる御手洗シリーズ。そして、冒頭にも書きましたが、久々に石岡さんが語り手ということで、それだけでも嬉しい1冊。 ミステリとしては、龍神により屋根に乗せられたという車や、怪物の目撃情報、船乗りたちが経験した奇妙な出来事など、不可解現象が主な謎で、関係者の失踪などはそこまで大きな謎ではないような印象です(とはいえ、前者の謎の提示自体、いつものように魅力的です)。 以下余談ですが、本作の予告はすでに『21世紀本格宣言』(文庫版2007年。単行本は2003年刊行)所収の「石岡先生の執筆メモから」にあります。こちら、犬坊里美さんが1999年9月に記したメモという体で、この時点では里美さんが石岡さんと伊根に行ったと書かれていますが、諸般の事情で同行者が変更されたものと思われます。ただ、「車を民家の上に乗っけ」るなどの謎の提示は示されていて、骨格は今から20年以上も前にできていたようですね。このあたりの事情も想像しながら読んだ次第です。 あらためて、御手洗シリーズファンには嬉しい1冊です。(2025.03.21読了)・さ行の作家一覧へ
2025.03.29
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京極夏彦『ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔』~講談社ノベルス、2011年~ 『ルー=ガルー 忌避すべき狼』の続編。章番号も続きの032から始まっています。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― あの事件から3箇月。被害者になりかけた来生律子が、ワークスペースで、今や世の中には存在しないバイクの組み立てを中断し外に出ると、同じく被害者になりかけた佐倉雛子と出会う。話の流れで、律子は雛子から「毒」が入っているという壜を受け取った。「死ねない」という雛子の気持ちに思いをはせる一方、「毒」の処分にも困った律子は、天才少女・都築美緒に「毒」の解析を依頼するが…。 * 前回の事件をきっかけに刑事を辞めた橡は、神埜歩未やカウンセラーの不破静江と会い、自身が刑事になるきっかけとなった、30年前に友達―霧島が起こした事件の再調査を進める。その中で、今は歩未が持っているナイフが一般には流通していないことを知り、さらに霧島が実は真犯人ではなかったのではないか、という思いに至る。 *「毒」をめぐる律子たちの動き、そして霧島事件の再考を進める橡たちだが、C地区では「未登録住民」の暴動が起き、さらに不可思議な事件が発生する。美緒の住まいの爆破、前回の事件関係者の監視の強化など、「敵」や全容が見えないままに、事件は進展し…。――― 第1弾も再読して、とても面白かったのですが、続けて読んだこちらの続編も存分に楽しめました。 前作が葉月さん・不破さんの視点で交互に語られたのに対して、今回は律子さん・橡さんの視点で交互に語られます。橡さんのキャラが良いですね。「弱い」のに大活躍です。 美緒さんも相変わらずの暴走っぷりで、わくわくしながら読み進めました。 今回は、まず「敵」が誰なのかなかなか見えてこないだけでなく、歩未さんの立ち位置もかなり謎めいていて、こちらも読みどころです。 思い立って『ルー=ガルー』シリーズを一気に読みましたが、良い読書体験でした。(2025.01.03読了)・か行の作家一覧へ
2025.03.23
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京極夏彦『ルー=ガルー 忌避すべき狼』~講談社ノベルス、2009年~ 京極夏彦さんによる未来を舞台にした長編小説。読者から公募した近未来社会の設定を活かすという、実験的な作品でもあるようです。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 学校という制度もなくなり、児童たちはモニタを通じて学習する時代。時折、リアルのコミュニケーションを経験するためのコミュニケーション研修を受ける。 ある日、牧野葉月が研修の帰りに寄り道をすると、同じクラスの歩未がいた。そこに、天才少女の美緒も現れる。なんとなく解散したのち、美緒の忘れ物があり、葉月と歩未はそのディスクを届けることにした。 * その頃、葉月たちの住む町の近隣で連続殺人事件が起こっていた。カウンセラーの不破は、無駄な会議・決定に抵抗するも、子どもたちの個人データの提供という不本意な業務にあたることとなる。 監視役として、あまり有能ではなさそうな警察官、橡が作業に立ち会っていた。橡は、不破の考えに共感するところもあるようで、不破の担当児童が行方不明になったことが分かったとき、職務権限を越えて不破の手助けをすることとなり…。 * 歩未が、殺人犯と目される人々にクラスメートが襲われているところに居合わせたこと。そこに、美緒の友達、麗猫が現れて少女を助けたことなどが明らかになっていく。葉月たちは、行方不明になった少女・矢部を助けようとするが、大きな陰謀に巻き込まれていき…。――― 2001年に徳間書店から刊行された単行本で一度読んでいて、当時もわくわくしながら読んだのを覚えていましたが、20年以上ぶりの再読の今回も面白く読みました。 背表紙には「ミステリ」という言葉もあり、たしかにそういった要素もありますが、少女たちが巨大な陰謀に(ときにとんでもない手段で)挑む姿が印象的な物語です。 上でも少し触れましたが、物語は葉月さんの視点と不破さんの視点で交互に語られます。 有能ではなさそうな橡さんですが、かっこよいですし、次第に不破さんが彼に心を開いていく様子も素敵でした。 葉月さん、歩未さん、美緒さん、麗猫さんの4人も素敵です(美緒さんのぶっとんだ感じが特に良いですね)。 あらためて、久々の再読でしたが、良い読書体験でした。(2024.12.25読了)・か行の作家一覧へ
2025.03.22
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ギー・テスタス/ジャン・テスタス(安斎和雄訳)『異端審問』~白水社文庫クセジュ、1974年~(Guy Testas et Jean Testas, L’inquisition, Press Universitaires de France, 1966) 訳者まえがきによれば、著者はおそらくスペインのカトリック系の兄弟で、文庫クセジュに『闘牛』(邦訳未刊)という著作もあるそうです。 本書は、過酷な拷問のイメージの強い異端審問について、その概要を提示し、またイメージされるほど過酷なものばかりではなかったと、その残酷性を相対化する点に特徴があると思われます。 本書の構成は次のとおりです。―――訳者まえがきはしがき第1章 異端審問所の起源第2章 ヨーロッパの異端審問所第3章 宗教裁判のやり方第4章 宗教改革以前の異端審問第5章 スペインの異端審問第6章 ラテン・アメリカの異端審問結語訳注――― 第1章は、特に12世紀から盛んになった異端活動に対する教会の対応を論じます。ここでは、1231年2月に公布された「異端者取締法規」の中で、査察人を意味していたinquisitorの語が、おそらくはじめて「異端審問官」の意味で用いられたという指摘が勉強になりました(18頁)。 第2章は、イタリア、フランス、スペイン、ドイツと国別に異端審問所の状況を概観。 第3章は、異端者をあぶりだし、その自白を得る方法や、その後の刑罰など、諸々の手続きについて概観します。冒頭にも書きましたが、本章でも、「その方法、その過酷さは、われわれにはとてつもなく恐ろしく残忍に思われる。しかし、この描写には多少の手心を加えたほうがよかろう。なぜなら、……その蔭でなされた手加減は分からないからである。……慈悲を求めて訴えられた多くの請願を考慮に入れたことや、あまりに残忍な裁判官は免職されたこと、無罪放免というケースは一般に考えられているほど例外的ではなかったこと、などを忘れてはならないであろう」(55頁)と、残酷さを過度に強調する態度からは距離を置いていることがうかがえます。 第4章は、異端審問の対象とされたヴァルド派やユダヤ人、そして悪魔に関する議論についてみていきます。 第5章は主に15世紀以降のスペインにおける異端審問の状況を、第6章は16世紀以降のラテン・アメリカ世界での異端審問の状況を概観します。第6章では、ラテン・アメリカに渡った聖職者の中には金儲けを目当てにしていた人たちもいたと、そうした聖職者への批判も紹介されていて興味深かったです。 いわゆる中世ヨーロッパだけでなく、近世のアメリカ大陸の状況までも俯瞰した視野の広い論述で、個人的には専門領域以外の記述が多くなじみが薄かったこともありやや流し読みになりつつも、勉強になる点も多い1冊でした。(2024.12.18読了)・西洋史関連(邦訳書)一覧へ
2025.03.15
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麻耶雄嵩『木製の王子』~講談社ノベルス、2000年~ 名探偵・木更津悠也が探偵役をつとめる長編です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 如月烏有の後輩として配属された安城とともに、気難しいと有名な芸術家・白樫宗尚の自宅へ向かう。本来、白樫家を取材し、その後も安城の依頼を受けて同家の人々との交流を進めていた記者・倉田と安城が向かうはずが、倉田の体調不良のため、如月が代理をつとめることとなった。 奇妙な概観の家、噂ほどは気難しいと思われない宗尚との会話、そして宗尚が孫のために書いたという宗教的モチーフを感じる印象的な絵画と、めくるめく時間を過ごす如月たちだが、その夜、事件が起こる。 安城が倉田とともにコンサートなどで出会っていた晃佳の首が、音楽室のピアノの上に乗せられていた。またその体は、焼却炉で燃やされていたのだった…。 * 過去の事件の鍵が白樫家にあるとの思いを強めていく木更津は、如月が遭遇した事件を機に、今回の白樫家殺人事件の調査に乗り出す。「閉じられた一族」ともいえる、奇妙な家系図の白樫家・那須家の抱える秘密、そして晃佳殺害の際に関係者が持っていたアリバイを崩す方法とは。――― 冒頭に掲げられた白樫家・那須家の奇妙な家系図に違和感を持ち、また物語が進みにつれてさらに違和感を募らせながら読み進めていきました。 作中の時系列としては、『夏と冬の奏鳴曲』『痾』『翼ある闇』の次に位置すると思われます(刊行順は『翼ある闇』→『夏と冬の奏鳴曲』→『痾』)。 解決後もすっきりはしませんが、ウェブ上で詳細な解説を書いてくださっているサイトがあり、読後に参照させていただきました。 安城さんを翻弄する奇妙な運命も読みどころです。(2024.12.15読了)・ま行の作家一覧へ
2025.03.08
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浦賀和宏『殺人都市川崎』~ハルキ文庫、2020年~ 2020年、若くして亡くなった浦賀和宏さんによる、シリーズ化も予定されていたという長編にして、浦賀さんの最後の作品です。――― 中学校を卒業し、高校入学の目前。幼馴染の愛が川崎を離れた後、付き合い始めた七海とともに瀋秀園を訪れた赤星は、伝説の殺人鬼・奈良邦彦がそこで目撃されたという話を聞く。担任の後藤先生が目撃者であり、また先生は、奈良によるとされる「後藤家殺人事件」の唯一の生き残りというのだった。そんな中、赤星たちは鉈を持つ大男に襲われ…。 * 川崎を離れたものの、赤星に会いたい思いが募る愛は、思わぬ流れから、いとこの拓治とともに、奈良邦彦の事件を調べ始ることとなる。拓治が調べた奈良の壮絶な経験や事件の状況から、愛は事件の再解釈を試みるが…。――― またしてもやられました。 物語は、「俺」=赤星さんの一人称のパートと、愛さんが主人公のパートが交互に展開していきます。なんとなく怪しいと思いながらも、結局やられました。そして実に浦賀さんらしい展開もあり、楽しく読みました。 これで、刊行されている浦賀さんの作品は全て読みました(雑誌掲載のみで、単著になっていない短編などは除きますが)。 千街晶之さんによる解説も興味深いです。(2024.12.08読了)・あ行の作家一覧へ
2025.03.01
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