上智大学中世思想研究所編『中世の歴史観と歴史記述(中世研究第3号)』
~創文社、 1986
年~
以前紹介した 上智大学中世思想研究所編『聖ベネディクトゥスと修道院文化』創文社、 1998
年
序言に続き、9編の論考が収録されています。
本書の構成は次のとおりです。
―――
序言(K・リーゼンフーバー)
1 K・リーゼンフーバー (
酒井一郎訳 )
「『神国論』におけるアウグスティヌスの歴史理解」
2 橋口倫介「中世の年代記―その著作意図をめぐって―」
3 出崎澄男「中世初期の民族史―歴史記述にあらわれたシュタム意識―」
4 池上俊一「十二世紀の歴史叙述と歴史意識」
5 今野國雄「修道院の歴史叙述― Exordium Magnum
について―」
6 森洋「聖者伝」
7 坂口昻吉「ヨアキムの歴史神学とスコラ学者―トマスとボナヴェントゥラ―」
8 J・フィルハウス (
酒井一郎訳 )
「ビザンティン帝国における歴史記述」
9 黒田寿郎「中世イスラームの歴史観と歴史記述」
文献表
索引
―――
第1論文は、アウグスティヌス『神の国』を中心に彼の歴史観を探る論考。やや神学的な議論で私には難解でした。
第2論文は、「年代記」の諸類型( annales=
年代記・編年記、 chronica=
編年史・年代記、 historia=
歴史)をあげ、ただしこれは便宜的な区分にすぎないことを指摘した上で、先行研究によりながら中世における歴史記述の構造を5つの時代に分けて論じる興味深い論考。
第3論文は、各種の民族史を史料として「シュタム(部族)」意識を探ります。
第4論文は、フライジングのオットー『年代記あるいは二つの国の歴史』がその代表である「世界年代記」と称されるジャンルを中心に取り上げ、「聖書解釈」の技法などを参照しながらその意義を論じます。
第5論文はシトー会の『大創立史』を史料とし、その成立背景をたどったのち、構造と内容を概観します。特に『小創立史』との比較から、両者の作成年代のあいだに歴史に関する認識上の変化が生じたことを指摘する点を興味深く読みました( 123
頁)。
第6章は聖者伝の類型や写本伝承の一例をあげるほか、歴史学においていかに用いられてきたかを論じます。
第7章はフィオーレのヨアキムの歴史観が、ドミニコ会士トマス・アクィナスとフランシスコ会士ボナヴェントゥラにいかに受容されたかを論じ、両者の相違点などを指摘します。
第8章はビザンティンの歴史記述について、 (1)
アッティカ方言による古典的な歴史記述、 (2)
コイネー(標準ギリシア語)による教会史、 (3)
庶民のギリシア語による年代記と、三層のギリシア語と歴史ジャンルの対応関係を上げ、それぞれについて概観します。
第9章は中世イスラームの歴史記述について、主観性を排除した叙述(客観性の追求)が重視されていたこと、そしてマスウーディーを例に情報の信ぴょう性を意識する事例がでてきたことを示した後、イブン・ハルドゥーンの『歴史序説』の位置づけを論じます。
約 30
年前の著作であるため、今ではアップデートされている内容もあるかもしれませんが、中世の歴史記述の基本的性格を把握することができる1冊だと思います。ビザンティン、イスラームにも目配りされていて、西欧の事情を相対的にみることもできるのが興味深いです。
(2025.07.31 読了 )
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