M17星雲の光と影

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2006.02.01
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カテゴリ: SELECTION
私は通勤電車の中でドアのそばに立つことが多いのだが、最近居心地が悪くて困っている。ドアのすぐ脇の窓ガラスに貼ってある小さなポスターが原因である。それは写真と大きな文字のコピーからなっており、そのコピーの文面が私をおちつかなくさせるのである。 

「言葉は感情的で、残酷で、ときに無力だ。それでも私たちは信じている、言葉のチカラを。ジャーナリスト宣言。朝日新聞」

どうです。おちつかない気分になるでしょう。なんだか胸のあたりがもやもやむかむかしてきませんか。おもわず赤ペンをもって添削したくなってくる。

添削例その1

「朝日新聞」は頭にもってきたほうがいいのではないだろうか。

「(朝日新聞の)言葉は感情的で、残酷で、ときに無力だ。(おお、ぴったりだ)それでも私たちは信じている、言葉のチカラを。(そりゃ、無謀だ)。ジャーナリスト宣言。朝日新聞」
う~ん、かなりリアリティがでてきた。でもこれではあまりにも自虐的すぎるし、どうみても落書きレベルを脱していない。

では以下、難癖の羅列。あるいは不快をもたらす要因の分析を。

1 そもそもこのコピーは第二句ですでに腰が折れている。「言葉は感情的で、」は明らかにおかしい。たしかに「感情的な言葉」は存在する。でもその言葉が感情的なのは「言葉」の責任ではない。その言葉の使い手の責任だ。言葉は断じて感情的ではない。感情的な言葉があるだけだ。



3 だいたいですね、感情的で、残酷で、ときに無力なものを簡単に信じちゃっていいんでしょうか。それに「ときに無力」なもののチカラを信じるって、いったいどういう意味なんだろう。逆説のつもりだろうか。でもこれでは単なる理路の混乱にしか見えない。

4 ジャーナリスト宣言をあらためて行うということは、いったい今まで自分たちを何だと思ってたんだろう。たしかに私は比較的高給のサラリーマンの所属組織としか思っていなかったけど。少なくとも今までジャーナリストとは思ってなかったということはたしかだ。「引退宣言」をする選手はそれ以前には「現役」だったはずだし、「勝利宣言」をすることは、その直前まで勝敗が決していなかったことを意味するから。そうか、いままで自分たちをジャーナリストとは思ってなかったわけだ。ふ~ん、でもなぜかこの部分だけは妙に納得してしまう。

5 「言葉のチカラ」ってなんだろう。「言葉のチカラ」って。う~、気色悪いこのカタカナの使い方。ここは言葉の原初的な力に戻ろうという意味合いで、「言葉」をひらがなに開いて、「ことばの力」というのならわかります。これがまともな言語感覚ではないでしょうか。いくらなんでも「言葉のチカラ」はないでしょう。視力の悪い私ははじめて見たとき「言葉のオカラ」かと思いました。

添削例その2

「言葉は感情的で、残酷で、ときに無力だ。それでも私たちは信じている、言葉のオカラを。ジャーナリスト宣言。朝日新聞」

う~ん、シュール。たった一文字でずいぶん印象が変わりますね。言葉の残りカスをひたすら信仰するジャーナリスト。こういうヒトいそうですね、たしかに。

さすがに赤ペン先生としては、ケチだけつけてそれで終わりというわけにもいきません。すこしはましなコピーにしておかないと。

添削例その3

ことばはときに感情的で、残酷で、人を傷つける。
でもその世界の惨状を伝えるのもまた「ことば」だ。
ジャーナリスト宣言。朝日新聞



でも、おそらく今頃は朝日新聞の広報担当者の中に巧妙な手段で侵入し、山手線の車内を使った大々的なネガティブ・キャンペーンを行って、朝日の権威失墜を企んだ(あるいは権威失墜にとどめをさそうとした)のは誰かということを一部の良心的な記者が徹底的に追求し、社長室に押しかけて猛烈な抗議行動を行っていることでしょう。そして明日の朝にはあの意味不明のコピーは山手線の車内から一掃されている。そう願いたいものです。

ひょっとしたらこの文章を読んだ朝日新聞関係者の方でお怒りの方もいらっしゃるかもしれません。でもいっておきますが、私は20年来朝日新聞を取り続けている購読者です。しかし最近のていたらくはどうでしょう。少なくとも「ことばの力」を信じる人間があんなコピーを許容することができるとは私には思えません。一刻も早く目を覚ましてください。そうしないと、

添削例その4

「言葉は感情的で、残酷で、ときに無力だ。それでも私たちは信じている、朝日のチカラを。非ジャーナリスト宣言。夕陽新聞。ちゃぽん(夕陽が沈む音)。」

ということになっちゃいますよ。黙祷。






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Last updated  2006.03.21 08:46:02
コメント(15) | コメントを書く


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そうなんですよ。  
acorn さん
私も今朝、山の手線のこのポスターの前で、もやもやしていました。
コピーについて、絶妙な添削ありがとうございます。「なるほど、そういう訳だったのね」と納得です。

私は、背景の『破壊された風景』の写真が、人目を引きつけるために軽く利用されているようで違和感を覚え
「これはいけない。恥ずかしい。」と思いながら眺めていました。
この感情は、このポスターを作った朝日に対してなのか、子供の頃からずーっと朝日を読んでいた自分に対してなのか…

うーん、明日も窓ガラスに貼り付いているのかなあ。 (2006.02.02 00:20:47)

Re:そうなんですよ。(02/01)  
acornさん そうですね、あの写真もひどいですね。子供の誕生を知らせるはがきの背景に近所のおじいさんの遺影をのせる人はいませんからね。今日も山の手の電車内では、「感情的で残酷で、力のない」ことばが飛び交うことでしょう。やれやれ。コメントありがとうございました。 (2006.02.02 07:06:50)

はじめまして  
shiba さん
shibaといいます。内田樹先生のブログからたどり着きました。朝日のコピー、なーんか引っかかっててイヤな感じがしてました。何かっていうと「それっていけないと思いま~す」っていう、始末の悪い正義感いっぱいなホームルームの主役みたいな。

記事にとても共感できたのでTBさせていただきました。これからも読ませていただきます。どうぞよろしくです。 (2006.02.04 14:23:17)

Re:はじめまして(02/01)  
shibaさん
こちらこそよろしくお願いします。「始末の悪い正義感いっぱいなホームルームの主役」ですか。わかりますね。社会に生きる上で正義に対する感覚は大事なものですが、それはその正義を相対化するしっかりとした鞘に収まることで初めて意味をもつと思います。むきだしの正義の刃はしばしば通りすがりの人間を無意識のうちに傷つけてしまいますよね。そんなことを思いました。コメント&TBありがとうございました。 (2006.02.04 19:55:02)

Re:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01)  
somewhere else not here さん
はじめまして 僕も朝日新聞の件で違和感を感じていて 検索していたら偶然ここに辿り着きました
添削形式が純粋に面白かったです
もし宜しければhttp://inframince.at.webry.info/の方にもお越しください
貴ブログをお気に入りに入れさせて頂きましたのでこれからもちょくちょく伺わせて頂きます (2006.02.11 05:03:32)

Re[1]:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01)  
something else not hereさん

お立ち寄りいただいてありがとうございます。こちらからも遊びにうかがうことにします。どうぞよろしくおねがいします。複数投稿の件お気になさらないでください。何度もほめられてうれしかったくらいですよ。重複するコメントと最後のお詫びコメントは削除させていただきますのでご容赦ください。
(2006.02.11 06:44:15)

有難うございました  
somthing else not here さん
ご迷惑おかけしました(汗)
有難うございました!! (2006.02.11 19:04:31)

改作してみました  
某報道被害者 さん
言葉は感情的で、残酷で、ときに無力だ。それでも私たちは信じている、【真実】のチカラを。
朝日新聞様へ。報道被害者一同。 (2006.02.22 23:24:14)

感想  
ころん さん
「非ジャーナリスト宣言 朝日新聞」おもしろく読ませてもらいました。
大筋にはまったく同意なのですが、一つ気になったところがありました。
「2 最初の3つのフレーズの重ね方がおかしい。」のところです。

M17星雲さんは、「・・・しかし3つめの「ときに無力だ」は脈絡が
おかしくはないか。たちの悪い友人を非難するときに「おまえはバカで、
暴力的で、ときに無力だ」というような言い方が考えられるだろうか。」
としていますが、この言い方が考えられないのは、3つの言葉の脈絡が
おかしいからではなくて、「おまえ」がバカかつ暴力的であると批判
する場合に、無力さを指摘することが一般的でないと思われるからです。

言葉の場合には、感情的、残酷、無力という性質いずれも該当しうるで
しょうし、その性質のあてはまり方は、具体的な言葉によって変わって
くる(抽象的に、言葉という概念に性質を対応させる意味に解釈すると
明らかに意味がおかしくなるので、そのように解釈しない)という了解
も成り立つと見てよいと思われますから、3つの性質を例示的に理解
すれば、とくにおかしいわけではないと思います(もちろん、正しく
考えれば1のように言えるので、コピーがおかしいことに変わりはあり
ません)。

ともあれ、こういう指摘をなさっていることに強く共感した次第です。
ありがとうございました。 (2006.04.29 23:18:33)

Re:感想(02/01)  
ころんさんへ

ずいぶん以前に書いたものですが、ていねいなコメントをありがとうございました。具体的事例が三つ並んでいるという御指摘はよく理解できました。私がその時に感じた違和感は、「感情的、残酷」ということばと、「無力」ということばは、どうもレベルというか階層が違うのではないかということだったと思います。そのことばづかいにある種の無神経さを感じました。ことばが「感情的で残酷」ということは、たとえマイナスのものであったとしても、ことばに力があったということですよね。ことばにマイナスの側面があっても、あえてことばを信じる。そういう立場表明ならば、一応の筋は通ると思うんです。でも、無力というのはプラスにしろマイナスにしろ力がないということです。すると「力がないものを信じる」ってどういうことだろう。そこに疑問をもったのだと思います。ここはやはり、「ことばは時に感情的で残酷ではあるけれども、しかしその傷を癒すために用いられるのもやはりことばだ。だから私たちはことばを信じる」。こうやらないと具体的事例を並記した文章としてもおかしいと思いますね。これはあくまでも私の個人的な感覚にすぎないかもしれませんが。でも、とてもきめ細かく読んでいただいたことに感謝しております。コメントからことばを大事にしようという気持ちが伝わってきました。 (2006.04.30 19:17:44)

非ジャーナリスト宣言 朝日新聞   
詠み人知らず さん
初めての参加です。
一言一句、納得の文章だったものですから。

(2006.05.16 10:16:57)

Re:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01)  
詠み人知らずさんへ
どうもありがとうございます。ずいぶん以前に書いたものですが、いまだに時折感想をいただくことがあります。以前に書いたものに目を通していただくこともたいへんうれしく感じております。また機会があればお立ち寄りください。

(2006.05.16 18:56:23)

宣言文  
所左派駅 さん
このあきれたポスターも朝曰クオリティー。
しかし、騒ぎすぎではないだろうか(笑) (2006.06.16 20:31:29)

Re:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01)  
ににに さん
文句を言うだけの人っているもんですね
まあ6年前の奴だけれどwww (2012.10.08 15:05:51)

Re[1]:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01)  
М17星雲の光と影 さん
まずしい感想をありがとうございました。

まあ、六年前のものですけれど。 (2014.03.02 22:50:08)

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