2年目のOP室ナースマン

心に残った小児看護の講義(小児がん)


 まず、小児がんについてご説明しましょう。悪性腫瘍は、私達の体のどんな部位からもおこってきます。どこにできたかによって「肺がん」とか「舌がん」とか呼ばれ方が違います。また悪性腫瘍は病理学的に「癌」と「肉腫」のふたつに大きくわけられます。私達に比較的身近な胃にできる悪性腫瘍を例にとって考えてみましょう。胃の表面の粘膜(上皮)から発生すれば「胃がん」であり、すこし深い場所、たとえば筋肉などからでてくれば「肉腫」と呼ばれるのです。しかし普通、私達は、全ての悪性腫瘍をひっくるめて「がん」と呼びならわしています。そして、15歳以下の子どもにおこる悪性腫瘍が「小児がん」です。
 正常の細胞は無制限に増えつづけるということはありません。1個が2個に分裂しても、やがて一個は死滅するようなしくみになっているからです。ところが「がん」の細胞は、ここのところがめちゃくちゃにくるってしまっているのです。1個が2個に、2個が4個に増え、4個が8個に、とどまるところを知らずに増えつづけます。こうしてある場所でおこった「がん」は無制限に増殖し、となりの器官にまで入りこんでいきます。血管やリンパ管に入りこんだ「がん細胞」は、血液やリンパ液の流れにのって、遠くはなれた組識や器官に飛び火して、またそこで増殖をつづけるのです。これを転移といいます。「がん」の細胞の特徴は、この無制限の増殖と転移です。
 まだ、がんは全ては解明されてはいないものの、「がん」が発生するためには、2つの段楷が必要であることがわかってきました。まずイニシエーションと呼ばれる初めの段階で、私達のDNAに傷がつき、そこに、何回もくりかえしある種の刺激が加わるプロモーションという段階をへて、ついに本物の「がん」がおこってくるというのです。こんな発がんのメカニズムを考えてみれば、長く生きていればいるほど、「がん」になりやすい状況になるということは容易に想像がつきます。確かにその通りで、「がん」は、本質的には大人の病気です。実際、15歳以下におこる「小児がん」は「がん」全体の1%にも当たらないぐらいまれなものなのです。そのほかにも「小児がん」にはおとなの「がん」とはちがういろいろな特徴があります。まず、病理学的に「癌」よりも「肉腫」が多いこと。「小児がん」の番付けの上位からながめてみても、白血病、脳腫瘍、悪性リンパ腫、神経芽腫、ウイルムス腫瘍、すべて「肉腫」に属します。上皮から発生する「がん」が、おとなの悪性腫瘍の8割以上を占めるのに、子どもでは1割にもみたないのです。上皮由来のおとなの「がん」が比較的表面の見えやすいところからおこるのにくらべて「小児がん」は大方が、深いところからはじまってきます。それだけに早期発見がむずかしいともいえます。大人に比べて子どもの「がん」の発生の度合いはすくないとはいいながら、「小児がん」は子どもたちにとってやっぱり大きな脅成です。3歳以上の子どもの死亡原因を見ると、「がん」が、事故に次いで常に第2位の座を占めています。しかし幸いなことに、「小児がん」にはもうひとつの大きな特徴があります。それは化学療法にきわめて高い感受性を持っているということです。
 過去20年の間に「小児がん」の治療は、めざましい進歩をみせました。外科的治療、放射線療法、それに化学療法を加えた集学的治療によって、「小児がん」と診断された子どもたちの6割は病気にうちかって生存できるような時代になりました。しかしそれだからこそ、「小児がん」の子どもたちは、「小児がん」の専門医によって治療されなければならないともいえます。


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: