べんとう屋のつぶやき

 



「プレゼント」



 「これ、帰り際に渡したってな。」


クリスマスイブという事で、ショーウインドウや行く人波、町全体が浮かれている。
この仕事に付くようになってからは、世間は浮かれていても自分達には浮かれてるヒマは無かった。
クリスマス用のコンセプトで仕事をして、表面上は楽しそうに笑っていても
プライベートでは、誰とはしゃいだりするのは殆どありえない。
今日も2月からの舞台の打ち合わせと、劇中劇の稽古が入っていた。

時計の針が22時を指そうとしてる頃になってようやく自宅に帰り着く。
車から降りる時になってマネージャーから手渡された包みをリビングのテーブルに置くと
稽古でかいた汗を流す為にバスルームへと向かう。

バスローブを羽織って出てくると、氷のたっぷり入ったコーラを飲んでやっと一息つく事が出来た。
暫くソファの上で今日の稽古の事をつらつらと考えてる内に、転寝をしてしまったのか
ふと気が付くと部屋の中は暖房が入ってるにもかかわらず、しんしんと冷え込んでいた。
「うわっ、さむ~」
バスローブだけの足元から冷気が入り込んでくる。
「なんや~雪でも降ってそうな寒さやん。今日、そんなん寒くなかったんちゃう?」
一人つぶやいて、普段は決して開く事のない窓のカーテンを少し開ける。
人通りも疎らな住宅街のわずかな街灯の灯に白いものがキラキラと反射していた。
「雪・・・・?」
夜になって急に冷え込んだのか、イブの夜に華を添える白い雪が少し舞っていた。
「どうりで、寒いと思ったわ。」
この前も名古屋で見てる雪だけど、自宅から見る景色はまた違うのか、暫くぼぉ~っと眺めていた。
その静寂を破るかのように、テーブルに置いた携帯が短い音を立てた。
「ん~なん、メール?」
カーテンを閉めるとソファに戻って、携帯を手に取る。

「件名」
クリスマスだよ~ん はあと

「本文」
雪降ってきたね♪オレ今移動中~vv外はさみ~(>_<) byともや

「お~長ちゃんや~まだ仕事中なんや、ごくろうさんやな。んん?クリスマス?
ほか、今日クリスマスなん。すっかり忘れてたわ。
そういや、さっきマネージャーがなんかくれたっけ。」
電話を置くと、傍に置いてあった包みを手に取る。
軽いその包みをあけると、中からは毛糸の靴下が出てきた。
「なんやこれ~~~」
かさり、と音がしたので靴下の中を見てみると紙が出てきた。
「足、大事にせなアカンよ。これ穿いて冷やさんようにな」
メッセージカードじゃなく、ノートかなにかの端切れに黒のボールペンで そっけなく書かれたメッセージ。
差出人の名前なんかなくても、絶対にわかる相方からのプレゼントだった。
「なんや~もっとええもんやないんか。誕生日は腹巻かもしれん、うひゃひゃ」
茶化して笑ってるけれとも、とても幸せそうに笑ってる表情は本人には見えない。

そのすぐ後、バスローブに毛糸の靴下を履いてコーラを飲んでる光一の姿があった。

ちゃんちゃん(笑)  





ボヘさんから素敵なクリスマスカードを頂いたお礼に書きました。







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