おはなし  その15




 もし、あの日・・・
 病院からの呼び出しがなかったら、俺は確実に医大の前に行っていた。
 秀香に会いに・・・
 そして、秀香を抱いていたかもしれない。
 俺は、卑怯な男だ。


歩美は、ストレスをためないように、夜遅く、高橋家に来る事もあった。
でも涼介は「疲れてる」と言って、あまり相手にしなかった。
歩美のストレスは、どんどんたまっていった。


ある日曜日。

 歩美「昨日、お友達が家に来たのよ。披露宴の招待状を持って。
    すごく幸せそうな顔でした」

 涼介「・・・・・・・・」

 歩美「先日、結婚したお友達も、やっと新居で落ち着いたと電話がありました。
    それから、一昨年、結婚したお友達に赤ちゃんが産まれました。
    触ってみたら、柔らかくて、今にもつぶれてしまいそうでした」

 涼介「何が言いたい?」

 歩美「みんな、幸せそうな顔をしていました」

 涼介「結婚を、迫っているのか?」

 歩美「そんなつもりでは、ありません」

 涼介「そう言ってるとしか、とれないな」

 歩美「・・・・生理がなかった時、母に<赤ちゃんができたんじゃないの?>
    と言われました。母は、喜んでいました。
    でも・・・私は、そんなうれしそうな母を見て、違うとは言えません
    でした。母は、父にも言いました。 父も大喜びして・・・
    2人の喜んでいる姿を見て、哀しくなりました。
    次の日、母に赤ちゃんができたわけじゃないと、はっきり言いました。
    哀しかった・・・・・」

歩美は、言いながら、ポロポロ涙を流していた。

 歩美「私と涼介さんが、まだそういう関係じゃないから、余計哀しかった
    のです」

 涼介「まだそういう関係じゃないと、親に言ったのか?」

 歩美「言えるわけないでしょ」

 涼介「そうだな」

 歩美「私は、女として、魅力がないのですね?
    それとも、大学の時の恋人が、まだ忘れられないのですか?」

涼介は、ドキッとした。

 歩美「私は、その恋人に、勝つものは何もないのですね。
    私には、涼介さんの心から、その恋人を忘れさせる力はないのですね」

 涼介「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 歩美「・・・何も言ってくれないって事は、まだその恋人の事を、思い続けて
    いるという事ですよね。
    ・・・私は、バカです。こんな人を好きになってしまって。
    涼介さんのために、お料理をがんばって、将来いい奥さんになるように
    努力してきたのに。
    もう何のために、がんばってきたのか、わかりません」

歩美は、涙をふいて、涼介の部屋から出て行った。

どうしたらいいのか、わからない涼介。
出会った頃のように、だんだん時間を使って、逃げる事はできなくなっている。
逃げる範囲が、狭くなってきている。


トントントン。

 涼介の母「ちょっといいかしら?」

涼介の母が、部屋に入って来た。

 涼介の母「歩美さんと、けんかでもしたの?」

 涼介「別に。 最近忙しくて構ってやれないだけだよ」

 涼介の母「お仕事がお休みな時ぐらいは、優しくしてあげたらどう?」

 涼介「歩美は、もう帰った?」

 涼介の母「下にいるわよ」

涼介が、困った顔をした。

 涼介の母「子供じゃないから、今まで口出ししなかったけど、もうそろそろ
      結婚したらどう?」

 涼介「お袋まで、そんなこと・・・」

 涼介の母「・・・啓介も心配していたわよ。
      気分転換に、歩美さんと2人で、啓介のところへ行って来たら
      どう?」

 涼介「そうだな・・・」

 *******************************

涼介は、気分転換に歩美と2人で、東京にいる啓介夫婦のところへ行った。
啓介は、もう2児の父親になっていた。
恭子も、がんばって母親をしていた。

歩美は、啓介の子供と公園で仲良く遊んでいた。

こういう歩美も悪くないなあ・・・
歩美が、母親に見えてもおかしくない。
何か、歩美はうれしそうだな。
久しぶりに、歩美の笑顔を見たような気がする。
このところ、悲しい顔や淋しい顔が多かった。

 *********************************

東京から帰って来た歩美は、また少し沈んだ顔をしていた。

 涼介「・・・最近、順調にきているか?」

 歩美「まだ・・・」

 涼介「やっぱり、俺が原因か?」

 歩美「そんな事は、ありません」

 涼介「無理しなくてもいい。
    ・・・・どうしたら、治る? どうしてほしい?」

 歩美「涼介さんが、悪いわけではありません。
    私が、女として、未熟なのが悪いのです」

また、ふりだしに戻るか・・・
啓介のところへ行って、気分転換した意味がない。

涼介は、歩美の隣に座った。

 涼介「おまえは、優しい。啓介の子供達と遊んでいたじゃないか。
    すごくいい顔をしていた。 そういうおまえが好きだ」

もう歩美に対しての気持ちに、嘘はつきたくない。
涼介は、歩美にキスした。
最初は、軽く・・・だんだん激しいキスへ。

 歩美「涼介さん・・・」

涼介の唇が、初めて歩美の首筋までいった。
ドキッ。
涼介が、歩美を抱きしめた。

 歩美「もうおしまいですか?」

 涼介「ああ」

 歩美「・・・・・・抱いて下さい」

涼介が、予想していた事を、歩美が言った。

 歩美「私のストレスは、涼介さんが抱いて下されば治ります」

 涼介「・・・・・・・・・・・・」

 歩美「私を治せるのは、涼介さんしかいません」

 涼介「今日は、もう遅いから送るよ」

涼介が、もう1度歩美に、キスをした。

 涼介「今日は、親父もお袋もいる。
    ・・・明日なら、2人ともいないから」

 歩美「わかりました」

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金曜日。
涼介は、早く仕事を片付けて・・・歩美のところへ?
いいえ、思いを断ち切らなくてはならない人のところへ。

 秀香「どうしたの?」

 涼介「会いたかった」

 秀香「何かあったの?」

 涼介「少し、2人きりで話をしたいんだけど・・・」

涼介は、秀香と一緒にいる綾香を見た。

 秀香「ごめんね。涼。 今日は、おばあちゃんが温泉へ行ってて、明日帰って
    来るのよ」

秀香は、実家近くの祖母と一緒に暮らしていた。

 秀香「私と綾香だけなのよ。あがって」

綾香は、この人誰?という顔で、涼介の顔をじっと見ていた。
涼介は、綾香を抱きしめた。

 秀香「どうしたの? 
    お茶がいい? それとも紅茶がいい? 今でもコーヒーは飲めないの?」

 涼介「お茶はいい」

 秀香「何かあったでしょ? そうじゃなきゃ、わざわざ、私のところまで
    来るわけないよね」

 涼介「・・・・・・・・・・・・・・」

 秀香「何か、あったんじゃなくて、これから何かあるの?」

 涼介「・・・・・・・・・・・・・・」

 秀香「そうか・・・ついに・・・結婚するんだね?」

 涼介「まだ、そこまではいかないけど・・・」

 秀香「そんなに悲しそうな顔しないでよ・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 秀香「綾香。かくれんぼしようか? 綾香が鬼。目をつむって、1から10まで
    数えて」

綾香は、手で目を隠して、1から数え始めた。

 秀香「涼。来て」

秀香は、涼介の手を引っ張って、隣の部屋へ行った。
そして、秀香は、涼介にキスした。
これが、多分最後のキスかもしれない・・・

綾香の<10>と言う声が聞こえた。

 秀香「今日は、来てくれてありがとう」

 涼介「秀香。ありがとう」

今度は、涼介が秀香にキスをして、帰って行った。

ありがとう・・・


家に帰ると、歩美が玄関の前で待っていた。
約束の時間を、30分過ぎていた。

 涼介「ごめん・・・」

 歩美「おかえりなさい」

2人は、涼介の部屋に行った。

 涼介「シャワー浴びるか?」

 歩美「もう、お風呂へ入って来ました」

 涼介「そうか」

秀香・・・
おまえ以外の女を抱かないと、心に誓ったが、もうどうする事もできない。
今から、俺は・・・

涼介は、歩美をベッドに押し倒した。
今までにない、深い激しいキス。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

痛いけど、やっと涼介さんに抱いてもらった・・・
うれしい。
私は、涼介さんの女になったんだわ。

 涼介「痛いのか?」

涼介が、歩美の涙に気づいた。

 歩美「痛くないです。 嬉し涙です」

秀香との思いを断ち切ろうと涼介は、何度も何度も歩美を抱いた。
さようなら・・・愛しい秀香。

歩美の1番大切な部分は、涼介を快く、受け付けてくれた。

歩美は、今まで生きてきた中で、1番幸せな朝を迎えた。


涼介は、時間という早いものに捕まってしまった。
歩美に対して、愛情と言うより、義務感というものが生まれた。


         もう2度と、秀香に会う事はないだろう・・・
       もう2度と、自分の娘に会う事はできないだろう・・・


 おはなし その15 完

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 あとがき

 9月から、涼介×歩美が結ばれるお話を考えていた。
 9月時点では・・・

 歩美。ストレスがたまり、胃潰瘍で手術する。
 「涼介さんに体を見られる前に、体を傷つけられるのはイヤ」と
 歩美が手術拒否。
 それで、歩美のために涼介と結ばれる設定だった。

 けれども、胃潰瘍は薬で治るので、外科的手術はめったにやらない。
 他の病気を調べたけど、医学的知識がない私は断念した。

 その後、どうしようか考えていた。
 結局、ストレスを原因に、結ばれるお話を書いてしまった。

 次回は、いよいよ涼介と歩美と秀香の3人に、決着をつけようと思っている。
 しかし、最後がまとまらない・・・

 感想・リクエスト・漢字の間違えなどは、メールでお願いします。

 ここまで、読んで下さって、ありがとうございました。


 11月23日

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