おはなし  鈍感



 拓海が上京した後のはなし。
 私の空想で作った、みっちゃんが出てくる。

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拓海は、プロのレーサーを目指して、上京した。
右も左もわからない、田舎者の拓海。
すぐ近くに、啓介と恭子がいるとはいえ、そう簡単には部屋には行けない。

 啓介「遠慮しないで、どんどん来いよ」

と言ってくれるが・・・
2人の愛の巣を、邪魔したくない。

少し淋しい顔になる拓海。
そんな時、同じ階の「みっちゃん」が笑顔をくれる。

 みっちゃん「どうしたの? 元気出してよ」

と、自分の作った料理を持って来てくれたり

 みっちゃん「1人暮らしは、淋しいよね」

と、街中を案内してくれたり。

みっちゃんは、拓海と同じ年で、大学生である。
女の子に慣れていない拓海は、口数が少ない。

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ある日、恋の話になった。

拓海は、なつきのことを思い出した。
自分がいるこの東京のどこかに、なつきがいるんだ。
どこかで、会えるかもしれない。
でも、東京は人・人・人。
簡単に会えるわけがない。

 みっちゃん「私ね。今、好きな人がいるのよ」

 拓海「みっちゃんは、優しいから、彼氏がいると思っていた」

 みっちゃん「彼氏は、いないよ。 好きな人は・・・・」

ねえ、気づいてよ。拓海君。
好きな人って、拓海君のことなのよ。
拓海君って、鈍感みたいだから、多分私の気持ち、わかってくれないだろうなあ。

拓海は、みっちゃんの後のセリフを待っていた。

みっちゃんの好きな人って、どんな男だろう。
やっぱり、同じ大学生かな。

 みっちゃん「もう、夜遅いから帰るね」

気になるセリフを言わず、みっちゃんは帰って行った。

みっちゃんは、拓海の部屋に来るし、拓海もお礼にと、ケーキやお菓子を買って
みっちゃんの部屋にお邪魔する。
拓海は、1人暮らしが、だんだん淋しくなくなった。

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ある日。

 拓海「俺さ。みっちゃんとこで、ご飯食べたりしているけど、いいのかな?」

 みっちゃん「いいよ。どうして?」

 拓海「ほら、いつだったか、みっちゃんには、好きな人がいるって言っただろ?
    だから・・・
    俺が、ずうずうしく、みっちゃんちに上がりこんでいいのかな~と
    思って・・・」

 みっちゃん「うん。大丈夫」

 拓海「よかった」

そろそろ気がついてよ。
私が、好きなのは拓海君なのよ。

 みっちゃん「拓海君は? 拓海君は、好きな子いるの?」

 拓海「そんなもんいないよ。 仕事で忙しいし」

 みっちゃん「そっかぁー」

 拓海「みっちゃんの作るご飯って、お袋の味ーって感じだよ。俺んち
    お袋いないけど・・・
    何て言うのかな。家庭的っていうか・・・
    こういうのって、落ち着くっていうか、居心地がいいっていうのか。
    ごめん。俺、うまく言葉にできない」

 みっちゃん「私、実家におばあちゃんがいて、更にひいおばあちゃんも
       いるのよ。田舎なの。だから、都会では、こういう味は人気が
       ないのかもしれないわ」

 拓海「そんなことないよ。すごくうまいよ。
    俺、好きだよ。みっちゃんの作ったもの」

 みっちゃん「好きなのは、作ったものだけ?」

 拓海「え?」

 みっちゃん「拓海君は、私の作った料理が食べたくて、私のとこへ来るの?」

 拓海「え? そういうわけじゃないけど・・・」

みっちゃんは、だまりこんでしまった。

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 拓海「俺、何か悪い事言ったのかな? ごめん・・・もう帰るよ。
    ごちそうさま」

バターン。

拓海君の鈍感!
いいかげんに、私の気持ちに気づいてよ。

みっちゃんの目から、涙が出てきた。
拓海は、この涙を知らない。

拓海は、自分がみっちゃんに対して、悪い事をしたと思い
しばらく、みっちゃんのとこへ行くのをやめた。
みっちゃんも、拓海のとこには来なかった。
携帯のメールにも、何もない・・・
また、拓海は淋しくなった。

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時々、恭子が来る事もあった。
何となしに、恭子にみっちゃんのことを言ってみた。

 恭子「藤原君。もしかしたら、その子のこと、好きなんじゃないのかな~」

拓海は、ドキッとした。
好き・・・
今までそんな風に、みっちゃんを見てきたことはなかった。

 恭子「その子も、藤原君のことが好きなのよ。きっと」

 拓海「そうかな~?」

 恭子「藤原君って、鈍感なのよ。啓介と同じで。
    自分で気づいていないかもしれないけど、藤原君は、心の中できっと
    その子のことが好きなのよ」

みっちゃんのことが好きなのかな~?
淋しい時に一緒にいてくれる人。
一緒にいて楽しい人。
ごく普通に友達っていうか、同じアパートの住人っていうか・・・

 恭子「会えないと淋しいでしょ?」

 拓海「うん」

 恭子「彼女も淋しいと思うわ。会いに行ったら?」

偶然、恭子が帰ろうと玄関に出たら、みっちゃんが立っていた。

 拓海「みっちゃん・・・」

 みっちゃん「お邪魔みたいね」

 拓海「違う」

 恭子「私は、友達よ。彼氏と一緒にいるのよ。だから、安心して。
    藤原君。またね」

恭子は、帰って行った。

 拓海「あの人は、いつもお世話になっている人の彼女だよ」

 みっちゃん「そうなんだ・・・」

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 拓海「あっ。何か用事があって来たんだろ? 上がったら?」

 みっちゃん「うん・・・
       拓海君。今度のお休みに、映画でも観に行こうよ」

 拓海「俺と?」

 みっちゃん「うん」

 拓海「どうして、俺なんだ?
    みっちゃんの好きな人と観に行けばいいじゃないか」

素直に「うん」と言えばいいのに、ひねくれた言い方をしてしまった。

 みっちゃん「だから・・・だから、今その好きな人を映画に、誘っている
       ところじゃないの!」

 拓海「え!?」

 みっちゃん「だから・・・行くの? 行かないの?
       私と一緒じゃイヤ?」

 拓海「い、行く」

みっちゃんの泣きそうな顔が、いつもの笑顔に戻った。

 みっちゃん「ありがとう」

ああ。俺は、みっちゃんのこの笑顔が好きなんだ。
俺の淋しさは、この笑顔に癒されているんだ。

拓海は、みっちゃんにそっと・・・

これからも、ずっとずっと一緒にいようね。
いつまでも、君の笑顔を見ていたいから・・・


 おはなし「鈍感」完

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あとがき

1月18・19日に下書きしました。

「頭文字D」のおはなしを書き始めた当初は、官能的に書いていたが
最近の私は、私らしくないピュアが多いような気がする。
全然、番外編なんぞ、書く予定はなかったけど、R様のお手紙を元に
お暇なので書いてしまいました。

10代は、ラブストーリーは苦手だったけど、20代になって書けるように
なった!?
ある程度、自分の経験も混じっていると思う。

この拓海話は、即席なもので点数で言ったら、50点くらいの出来である。
まだまだ私は、修行が足りない・・・

ここまで読んで下さって、ありがとうございました。


 2003年1月27日

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