踊螺木偶 ・ 無目的

踊螺木偶 ・ 無目的

†うろ覚えライヴラリ†


うろ覚え ライヴラリ





 それは人と人ではない生き物とが、まだそれほど 疎縁では無かった頃のお話。

 一匹の金色の蛇が、人間の娘に恋をした。

 彼は彼女のもとを訪れ、先の割れた舌でしゅうしゅ うと「一緒に暮らしてくれませんか」とお願いをした。

 娘はその掠れた声と、ちろちろ翻る舌が気味悪くて 顔を伏せて首を振ります。

 金色の蛇はがっくりと無い肩を落としてその場を去 り…がたくて、木の上から娘を見守っていました。

 同じ村の人間の赤ん坊を抱き上げ、そのはしゃぐ声 に笑い、泣く声に愛しげに目を細める娘を見て、蛇は 神様を訪ねる決意をします。

 その頃はまだ神様の住まいもそれほど遠い所ではな く、人や人以外の生き物とも気さくにおつきあいする 間がらだったのです。


「神様、お願いがあります…。」

「ん?何かな?」

「私に人間の嬰児の様な声と、先の割れていない舌 をお授け下さい…。」

「それはまた、どうして?」


 金色の蛇は、娘への気持ちと想いのたけを包隠さず 神様に話しました。

 「そういうことならば、一肌脱ごう!」

 と、言ったか定かではありませんが、とにかく蛇は 望みのものを手に入れました。

 (その時はまだ、手はありませんでしたが…)


 蛇は再び、彼女のもとを訪れます。

 娘は様変わりした彼に少なからず興味を覚え、おずお ずと手を差し伸べました。

 金色の蛇は喜び勇んで彼女の腕に巻き付きます…が娘 はそのうねうねした動きと冷たい鱗の感触に驚き、思わ す彼を振り払い、地面に叩きつけてしまいました。


 運悪く、石に打ちつけられた金色の蛇は餌を捕るため の牙も折れ、身を護る鱗も割れ剥がれ息も絶えだえ…。

 娘は自分のしてしまった事に慌てふためき、彼を抱き あげると取るものもとりあえず、神様の所へ走ります。

…ぐったりとした金色の蛇を前に神様は考えました…。


 そして、娘とも相談しながら彼に新しい姿を与えはじめ ます…堅く冷たい鱗を剥し柔らかくしなやかな毛皮でその 身を包もう…割れてしまった、滑る様に走るためのおなか の鱗…代わりに、音をたてずに歩ける肉球をつけた四本の 脚…砕けた牙も治し、割れた欠片は爪に…。


 そうして、彼は「猫」という生き物として意識を取り戻 したのです。


 僕達の知っている猫が、時々丸くなって眠るのはとぐろを 巻いて眠っていた頃を憶えているから…。

 ネズミを追いかけたり、シュっという音をたてたりするの もそう…。

 え?蛇には「耳」や「ひげ」は無かったんじゃぁ?

 あぁ、実はね先の割れた舌が耳やひげの役目をはたしてい たんだ…でも、一枚に縫い合わせてしまったろう?

 それで、その代わりにって事で…ね。


 それと…これは内緒なんだけど…縫い合わせの時、何時も なら縫い物上手の蜘蛛が神様を手伝っていたんだ。

 けれど、その時は生憎、夜空に星をかがりつけにいってい て留守だったものだから…ちょっと仕上げが荒くなってしま って…それで、あんなザラザラの舌になっちゃったんだ。

 「…毛繕いには…ちょうど良いだろう?」


 ‥って、神様は言っていたらしいけど。


 …で、そのあと二人はどうなったのか…って?  あれから随分と時間が経った今でも、猫と仲の悪い女の子 ってそうはいないんじゃない?

 だから…きっと…そういう事だと思うよ…。





 …っていう”お話”…だいぶ前から頭の中にあったんだけ ど…もしかしたら過去に誰かから聞いて覚えている…単なる 記憶の寄せ集めなのかも…知れない。

 自分でも、怪しいあやふやな記憶…。

 そんなものを集めてみるのも良いかな…なんて…。


 これと同じ話、似たような話をご存じな方、もしいらっし ゃいましたら御一報いただけると幸いです。

 いや、なんのお礼もできませんけどね。(^^;)


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