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第5章 GAME
翌日、アルカリアの案内で3人は町を出る事となった。
「エルフの里はあなたが暮らしていた町一つしかないのですか?」
「いや、一言でエルフといってもその仲に種族は幾つるもあるからな。俺たちの町はそんなことはなかったけど同属争いとか他は結構多かったらしくて、現存が確認できたのは俺たちの町だけだったんだ。もっとも、エルフは人に変化することが出来るから。人里のように町人全員が姿を変えている場合もあるから、詳しくは分かっていない」
「そうでしたか」
アルカリアは指を折りながら何かを数えている節があったが、何を数えているのかは分からない。
「エルフは全種族で役12種類。この数は神聖とされていて人間の間ではエルフは神の申し子とも言われていたことがあるくらいだよ」
危険人物だとか、怪しいの代表者ではないと思うくらいだが、本人の自覚はまったくなし。驚きながら何度も瞬きをしているアルカリアと、突然のことにわけが分からず動きが停止しているリシアの中で、ハルは大きくため息をつく。
「レチェ、どうしてあなたがここにいるのですか?仕事は?」
「つれないなあ、パパってよんで?」
「レチェ」
呆れた様に大きくため息をつきながらアルカリアの肩を数回たたく。
「あの人はいつものことですから」
「お前は本当に人間か?」
「おや?酷い言われようだけどれっきとした人間だよ」
レチェはにっこりと笑いながらハルの肩を抱きしめると大きくうなずく。
「あなたは?」
「レチェーダ=カルタート、ハルの父親です以後よろしく」
どう見てもこの男が医者とは思えない。技術云々の問題ではなく人間的に間違っているような気がするのだ。医者というよりも、オカマかホストにしか見えない。
「で、何をしに?」
「ちょっと心配事があってね」
「カレンなら昨日会いましたよ」
ハルの一言に、レチェの動きが一瞬と待ったようにも思えたが、あさっての方向を見ながら笑っている姿にハルは肩の力を抜く。
「目的地はおそらく同じ。どうするつもりですか?」
「考えてもいないよ。再び会うことがあればそのときは言いたいことの一つもあるんだけどな」
ハルはあきらめたようにうなずくと、そのまま森の中へ入ってしまう。
森の中に入ってから数時間。レチェは絶えず一人でしゃべっていてリシアも話しかけられれば返事をしている様子だったが、いまいちなじんでいる様子がない。それに比べてアルカリアとの会話は弾んでいるというか、一方的にアルカリアが遊ばれているような感じもした。
「レチェ、それくらいにして少しは備えてください」
「分かってるよ、これでも高位ウィザード抜かりはないよ」
「ならいいのですが」
ハルとレチェの会話は少なく、どちらかというと仲が悪いように思える。
「本当にお前って何?」
「といいますと?」
「不気味というか、怪しすぎる」
レチェは笑っていたが、アルカリアの目は少し据わっていた。
「知りたいのかい?」
「怪しいといっているだけだ」
「知りたいといっているのと同じことさ。教えてあげるよ、そのときが来ればね」
「お前って、ホント卑怯」
「はいはい」
はじめからこたえる気などないくせに、そんな愚痴をこぼしながらアルカリアは道の先を見つめる。その先には崩壊したまま野晒しとなっている故郷があるのだろう。そんなことを思うと胸が締め付けられる思いだった。
「アルカリア」
「なんだ?」
「君って以外と乙女チックだね」
「殺すぞ」
笑顔で言われた科白に、アルカリアは問答無用で力を発動させようとしたが、その直前で異変に気づく。
「おい」
「やっとおいでか」
「レチェ」
「分かっているさ」
何を分かっているというのか、レチェは大きく伸びをすると耳飾を外すとそこに息を吹き込む。
「さあ、ゲームの始まりだよ」
全ての視界が闇に飲まれる。次に目を開けたときそこにいたのは自分だけで、どんなに周りを探して誰も見つけることが出来なかった。
「ラージェ何があったの?」
『分かりません、ウィザードの術中にかかったと思いますが、その根源を立たなければ術は解除されない』
『俺が行ってやるよ、リシアは休んでな』
男らしいルーヴァの言葉にリシアは深呼吸をすると、すぐさま人格交代をする。
『道案内は私がします。ルーヴァ、くれぐれも無茶だけはしないでくださいね』
「分かってるよ」
ラージェの言葉にルーヴァは笑顔で返すと、まっすぐ先に伸びる道を走り始める。それから数匹のモンスターと遭遇したものの、見に危険が生じることなく視界に一つのテントが飛び込んできた。
「あれは?」
『あれは、人の紋章………小さき者達の集まる場所』
途切れ途切れの言葉、めったに表に出ることをしない4人目の人格レリーシアの言葉にルーヴァは首を傾げるしかない。このあたりに人里がないことは知っている。問題なのは何の目的でそこにテントが存在しているかだった。
「入るか?」
『大丈夫でしょうか?』
『大丈夫………テントの中にいるのは……バハムート』
「竜王!!おいおい、冗談だろ?」
狼狽するルーヴァにレリーシアの言葉はなおも続く。
『未完成のバハムート。あれはまだ王にはなれない。………方翼が存在していないわ』
『とにかく、相手が竜であろうとなすべきことは同じ。竜と龍はとても近い場所に立っている存在です。ルーヴァいったんリシアと交代しましょう』
「大丈夫なのか?」
『大丈夫、リシアは……選ばれる者』
『だそうです』
メンバーで一人なぞめいた発言ばかりをするレリーシアの言葉を最も理解しているのは以外とリシアではなくラージェなのかもしない。そんなことを考えつつも、ルーヴァはリシアと交代する。
リシアはテントの前に立つと大きく深呼吸をしノックの代わりに声を上げる。
「すいません、どなたか居られますか?」
返事はなかった。レリーシアの言葉どおりならバハムートがいると聞いていたのに返事は一向に返ってこない。もしかすと寝ているのかもしれない。そんなことを考えながらもう一度声を上げる。
「すいません」
「大声を出さなくとも聞こえておりますよ。リシア姫様」
よく響く低い声、聞き覚えがあって、何度ももう一度聞きたいと願った。ラージェとよく似た性格のその人物を自分は知っている。
「ヴィスタ」
「お久しぶりです、あれからずいぶんと時間がたちますが本当にあなたはお変わりなく」
「どうして此処に?」
「私が今お使えしているは人王の御子君ですから」
リシアの動きがわずかに震える、バハムートと呼ばれた存在が今は人に仕えているという。気高く誇り高い竜の末裔が今ではすっかりその希薄を失っているように思える。
「あなたはそれでもよろしいのですか?」
「…………分かりません、あれからずいぶんと時間がたちますが、まだ答えが見つからないのです」
「そうなの?」
まだ苦しんでいるというの?過去の傷跡をいつまでも引きずって前に進めないでいるというのか?
それとも、既に見つかった答えに対して戸惑っているのか?
「ヴィスタ」
「はい」
「帰ってきてください。龍族はあれから大きく変わりました。竜と龍、同じ音を持つもの同士手を組みことは出来るはずです」
「それは、あなたの意思です。龍王の意思ではありません」
「けれど、あなたは竜王ではありませんか。この世界に竜族は貴方しかないけれどあなた一人でもあなたは王ではないのですか?」
いつのころからだろう。くだらないプライドが邪魔をして本音にふたをしてしまったのは。
「ヴィスタ」
「はい?」
「いつかゆっくり話をしましょうか。こんな風にあまりギクシャクした間柄ではなく」
「姫様?」
リシアはそっと笑うと、ヴィスタの手をとった。
「?」
「それはあなたに預けておきますね」
ヴィスタの手には小さな銀細工のブローチだった。
「これは………」
「預けておくだけです。いつか、返しに来てください」
「分かりました」
ヴィスタはブローチを握り締めるとリシアに一礼する。
「ありがとうございます」
「いいえ」
ヴィスタはテントの出入り口にかかる布をめくるとリシアを中へと促す。
「今は、まだあなたが動くときではない、彼らにかけられた術は彼らが破らなければなりません」
「そうなのですか?」
「あなたの役目はそのあとでしょう?」
「ヴィスタ?」
「あなたが行動をともにしていた男、彼は人間ではない」
ヴィスタの言葉にリシアは腕を強く握り締める。ヴィスタはその動きを見逃すことなく見つめていたが何も言わずに、ただ微笑んだ。
「天使が介入したとなれば、もう一人別の天使が現れるはずです。そうなれば地上側の統率をしなければならないのは龍族の使命、あなたならきっと出来ます」
「やはり、彼の運命は変わらないのかしら」
「リシア?」
「彼は、地上の敵ではありませんよ、少なくともアルカリアさんを害する者ではない」
「そうであることを祈りましょう」
「はい」
ヴィスタはお茶を入れるとリシアの前にそっと置く。お茶のいい匂いが部屋に漂い少しだけ肩の力が抜ける。
(天皇よ、あなたに心がひとかけらでもあるのならこの世界を見放さないでください)
ヴィスタは祈るように心の中で何度もつぶやく、きっとこの言葉を自分は発することは出来ないから。発したところで彼は王にはなれないしならないだろう。本当にその役目を担っているのは自分ではない別のものだからといって。
ハルは森の中をひたすら前に進んでゆく、その中で確かにいくつもわなはあった。中にはいつ仕掛けをしたのかさえ分からないほど手の込んだ仕掛けもあったが、そのほとんどは簡単に解除することが出来た。
「さてさて、早いところ出てきてくれるとこっちも楽なのにな」
少しだけため息が漏れる。持久戦は得意じゃないからと、言い訳をしたくなるのだがレチェは根性が足りないといつも口うるさく言ってくる。確かにハル自身力はほかのウィザードよりも桁違いで強い。一人ででも天使と渡り合ってゆけるのだが、それだけに持久戦など本人はしない。苦手というよりもそれをする必要がないのだ。
「崩れろ」
たった一言言霊を発動させただけで、あたりの地面は盛り上がり粉砕してしまう。その影響は少し離れた木々にも出ている。なぎ倒された木々が別の気を押し倒し大きな音が響く。
「物騒だな」
「…………」
相手を見るだけ見て気づかれない程度に落胆する。
「あなたには二度と会いたくありませんでしたよ」
「俺はあえてうれしいよ。お坊ちゃんだとは思わなかったけどね」
茶色の髪を束ね、落ち着いた色の服をまとい自信満々に笑いながらハルを見つめるウィザード、先日ハルを女と間違えて声をかけたがカレンに殺されかけてあきらめて撤退した。まさか、此処で再会するとはお互い思っていなかったかもしれない。
「引いてくださいといってもあなたは聞かないでしょうね。ドゥカルサス=リュナエダ殿?」
引きつった笑顔が面に出る。その目は笑っていないだけに冷たく鬼のようにも感じられ、放つ力のオーラも町で見かけたものとは桁外れに違う。
「さすがに、軽く伸されてはくれないか」
「当然でしょう?」
嫌いな相手には徹底的に、レチェ流の戦い方にドゥカは少し笑いが出てしまう。勝利への自身ではなく敗北へのさり気無い三重だったけれど、その瞬間に間違いなく自分の負けを理解したことだろう。
「はじめましょうか、時間がないので」
時間がないのは自分だけ。
アルカリアやリシアにはいくらでもある。別に仇の天使を探すことなどあとでも出来ることを急がせたのは間違いなく自分だ。そうやって気づかないうちに自分に合わせて動くことでもっともおこしたくない展開を避けている。
そう、時間がないのはハルだけなのだから。
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