分娩室(最後の力を振り絞って)


分娩台に上がると婦長が「膀胱におしっこたまってるんじゃない?導尿しましょうか」と言った。私はこれも断固拒否した。「嫌です!」管を入れるなんてとんでもない!いじらないで!という心境だった。もうここからは自由にいきんでいいよ言われ、私は腰の痛みを恐れつつも陣痛のたびに「ヴーン」とすごい声を出していきんだ。1回の陣痛に2回はいきんだ。夫はいつの間にか分娩室にいて私の肩をさすっていた。3,4回の陣痛の後、先生が入ってきた。ディスポの術衣を厳かに身にまとい「助けてあげるからね」と言った。吸引分娩することになったのだった。あれよあれよという間に局所麻酔をされ会陰切開された。どのように吸引のカップをつけたのかは分からなかった。「次いきんだら生まれるよ」と言われ「本当?絶対?」などとまたも子供のように言ってしまった。「うーん」といきんだ。しかし生まれなかった。大きなボーリングの玉が挟まっているような感じでとても尋常なこととは思えなかった。生まれないじゃん!と怒りをこめて「こんな状況でストップなんて耐えられない!」と叫んだ。それに対してスタッフは苦笑いしていたと思う。再度陣痛がやって来た。私は力の限りいきんだ。2回目いきんだときに「もういいわよ力抜いて」と言われいきむのをやめてみた。するとスルスルスルとすべる様に股間から赤ん坊が取り出された。その瞬間信じられないくらい楽になった。「男の子ですよ」と誰かが言った。その子は直ぐには泣かなかった。数回のサクションの後「オギャア」と甲高い声で泣いた。私はこういう場面をテレビなどでみると必ずウルウルしていたのに、いざ自分のときは放心状態で全然涙も出なかった。へその緒がつながったまま私の胸に赤ん坊が載せられた。確かな重みを実感した。赤ん坊の指が5本そろっていることを確認した。嬉しいとか、母性がわいてくるとか、そんなドラマチックな感動は無かった。ただただ終わったことにホッとした。臍帯を触ってみなさいと言われ、ぎゅっと握ってみた。拍動を僅かに感じた。「ご自分でへそのを切りますか?」と言われたが私は断った(まだ駄々っ子が続いていたかも)。
夫は私の頭をいつまでも撫でてくれていた。後から分かったのだが、夫は顔をくちゃくちゃにして泣いていたらしい。カメラを持って入らなかった彼は、先生に促され慌てて病室にとりに行った。その間私は、もう一度小さくいきみ胎盤を出した。見ますか?と言われたがこれも拒否した…。その後会陰の縫合を受けた。体重などを計測するため赤ん坊はいったん引き離された。そのとき泣き止んでいた赤ん坊が再び元気に泣いた。私を母と分かってくれたのだろうか。
計測を終えた赤ん坊は夫の手に抱かれ、廊下で待つ4人の両親たちと対面した(後から写真を見た)。
次へ

© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: