
1985年の雪の夜にイェーツがシンプソンを発見した場所を見た時のシンプソンの表情を、決して忘れることはありません。彼は、あたかも自分自身の亡霊を見たかようなような表情をしていました。その瞬間からシンプソンは内なる悪夢に囚われ、フラッシュバックとパニック発作に襲われるのが傍目にもわかるようになります。さらに悪いことに、私はドラマを組み立てる為に彼に質問し続け、彼の恐怖体験を再現させてしまったのです。(ケヴィン・マクドナルド監督)
https://www.theguardian.com/film/2003/nov/21/sportandleisure
私は18年間、ほぼ毎日のように事故の話をし続けていますが、たいていは表面的なことしか話しません。私は7週間かけて自伝を書きましたが、自浄作用など全く無く、とても悲惨なものでした。読み返すこともありません。こうして話ができるようにするために、すべての体験をしっかりとした箱に入れ、蓋に封をしました。しかし、再びシウラ・グランデを訪れた時、すべてが5分前に起こったことのように思い出されました。振り向いてもそこには撮影隊がいないのではないか、この18年間は幻想だったのではないか、という思いに駆られ続けました。(ジョー・シンプソン)
https://www.stephenphelan.co.uk/articles/touching-the-void/
心理的な変化をきたしたのは、シンプソンだけではありませんでした。
標高5500メートル、氷河の上の我々の最も上のキャンプまでの長く厳しい旅をした時、状況は本当に悪くなりました。シウラ・グランデの急斜面に登らせ、私が撮影クルーの命を危険に晒そうとしていると、シンプソンとイェーツが心配し始めました。標高が高まり、疲労が蓄積するに従い緊張が高まり、現場で心理的に影響を受けることはないと何度も断言していたイェーツまでも、理性を欠いた行動をとるようになりました。ある日の午後、彼はひどく攻撃的になり、脅迫的になりました。イェーツが話すと決めていた以上のものが彼の心の中にあると最初のインタビューから感じてはいましたが、現場に戻って爆発した彼の感情に驚きました。彼は罪の意識を感じたのだろうか?「ザイルを切った男」として知られることによって、罠に嵌ったように感じたのだろうか?
この映画では1985年に起きたことだけを描き、2002年にサイモンとイェーツがその地に戻ったことは最後に触れるだけにしようと思っていましたが、私は果たしてそれが正しいのかどうか、迷い始めました。今、自分の身の回りに起きていることにカメラを向けるべきではないか?(中略)私は作ろうとしていた映画、即ち、1985年に何が起こったか?に集中することにしました。再び訪れたシウラ・グランデでの出来事が例え素晴らしいものだとしても、それは別の話だと考えたのです。(ケヴィン・マクドナルド監督)
https://www.theguardian.com/film/2003/nov/21/sportandleisure
一方、当事者でもあるシンプソンの見解にも興味深いものがあります。
自伝の成功は、(豊かな生活という)実際の事故よりも大きな影響を私達にもたらしました。これは、ケヴィンが決して理解しなかったことです。
(中略)
サイモンは罪の意識を背負っていると、ケヴィンは示唆し続けました。また、それが二人に起こった最も重要な出来事であると暗に言い続けました。でも、我々はその後も世界中の山に登り、数多くの友人を、おそらく毎年ひとりの割合で失っています。シウラ・グランデの事故は、我々が思い出したくない特別な事故のひとつに過ぎないのです。ケヴィンはとても良い映画を作りましたが、我々の苛立ちを全く解決できていません。
(中略)
(事故に遭った時、)私は自分自身を、自分が常に存在するという感覚を失っていました。そうした感覚を失い、無くしたことに気づくと、ひどく心をかき乱されます。それまでの自分には決して戻ることができません。
(中略)
我々は皆、そこにたどり着きます。そこは楽園でも何でもありません。私はクレバスの中でそれを知りました。我々は皆、死にますし、それは孤独な体験です。あなたにその順番が回ってきた時、あなたは私と同じ感覚を味わうでしょう。自分自身でもうまく言い表すことができないその感覚を、私もいつか再び味わうことになります。」(ジョー・シンプソン)
https://www.stephenphelan.co.uk/articles/touching-the-void/



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