海洋冒険小説の家

海洋冒険小説の家

(3)

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  王直は二十二年前、弘治三年(南蛮歴1557年)に明国によって捕らえられ、その後殺されたが、その配下のものは無傷であり、復讐心もあってか、以前にも増して明国沿岸部や内陸部まで入り込んで寇略した。広州、福州、恩州、寧波、杭州と、寇の過ぐる所、、八郡三千余里と言われた。しかし、平海の海戦の敗北からこのかた、海賊衆の出没範囲はせばまって、長江の北側から済州島の内側、朝鮮国の沿岸を含む内海部が海賊衆の出没海域になった。こんなところにいくら網を張っていても、そんなに交易船は通らないし通るとしても沿岸が見通せる範囲で航行するので、怪しい帆影を見るとすぐに浦に逃げ込んでしまう。それに明国の軍船の警戒も厳しい。昔のようにもう沿岸は襲えない。そして、その力もなかった。

 助左衛門は考えを集中させるべく静まり返った甲板を一人、手を後ろでに組んで、ゆきつもどりつ規則正しく歩いた。あの残虐さで知られる黒旗の海賊衆がここにいる理由はただ一つ、この助左衛門だ。
 昨年、薩摩の沖合いで坊津(ぼうのつ)に入るために風待ちしているときに、黒旗をなびかせた一団がこともあろうに、南海丸に対して小船10艘で夜襲をかけてきたのだ。それをこてんぱんに、一艘残らず沈めてやった。
 南海丸の大砲の鉛弾の前には赤子の手をひねるようなものだった。大砲は下方向に弱点があると思われがちだが、南海丸は工夫をして下にも撃てるようにしていたのだった。砲が一発発射するだけで数百発の鉄砲の鉛弾が大きな黒い広い雨のようになって小船に襲いかかるのだ。ひとたまりもなかった。
 そのときの復襲のためではないか。それで、この辺まで出張ってきたのだ。それにしてもおかしい。彼奴(きゃつ)等はなにをしているのか。もう一度遠眼鏡を眼にした。その遠眼鏡の中に、黒の大四角形に黄色に染め抜かれた、羽と足を広げた獰猛な鷹の絵柄の海賊旗が見えた。縁に赤い糸の飾りがしてある。
 見張り台から声がとんだ。

        (続く)



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