海洋冒険小説の家

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 第四章 打毬の試合始まる

 第四章 打毬の試合始まる (1)
 毬戯場は、南北に五十八間(約104m)東西に四十五間(約81m)、回りを高さ三尺ほどの柵で囲っている草地である。南北に毬門(ゴール)があり、南には白の幟がはためいて公家側、北には赤の幟で堺商人側になっている。毬門は縦六尺、横八尺の大きさで木の枠が取り付けられている。毬旗係がそれぞれ二人いて、毬子が毬門に入ると旗がさっと上げられる。赤の毬門であれば赤旗が。また、毬子が場外に飛び出すことがたびたびあるので、毬子係が十二人配置されている。
 審判席は西側の観客席の下につくられてあった。唐国風の天蓋が張られ、日差しをさえぎっている。ここには花梨の木で出来た美しい机と椅子が三脚、それに権大納言と中納言の公家審判が座り、端の椅子に銭屋の新左衛門が座っている。それぞれ思いっきりのおしゃれな装束である。
 公家の二人は、立烏帽子に、金糸の織り込まれた、緑色の紗(注1)の狩衣、新左衛門は折烏帽子に、龍の刺繍入りの直垂(ひたたれ)である。机に料理と酒、ぶどう酒などが置かれ、この酒好き三人衆は人目も憚らず、よく飲み、よく食べている様子。それからまた西側は公家方の応援席でもある。上品な公家の女房衆が美しい流行の着物を身につけ、京の着倒れそのままに静かに、そして華やいだ雰囲気をかもしだしていた。
 競技はそれぞれ十人の選手で争われる。交代は自由、一ゲームの時間は一刻(30分)、休憩はその半分(15分)、船で使用する砂土圭(時計)で時間をはかる。土圭係が二人、法螺貝係が一人、太鼓係が一人。あと審判補佐役と雑用係が十人ほどいて、競技の運営にたずさわる。
 二度目の法螺貝がすこし長いめに吹かれた。ざわついていた観客席は静まって、それぞれ座り直したり、食べ物を急いで呑み込んだりして、次に始まることに注目した。
 太鼓がゆっくり「ドーン、ドーン」と鳴り始め、そのリズムにのってまず白の公家チームが、白の毬門の脇から、毬技場に、白旗を持つ奉行を先頭に一列になって軽やかに馬に乗って入ってきた。その華麗な美しさに「ほーお」というため息と拍手が客席から送られた。
 そして、赤の毬門の脇から商人チームが、これも赤旗を持つ奉行を先頭に興奮する馬をなだめながら力強く入場してきた。観客席の眼は奉行のすぐ後ろを、真紅の南蛮服を着込んで巧みに馬を操る人物に注目した。服の上下ともに赤く、金糸がきらきら光る。黒色の帽子に、首の回りには白のラフ(注2)がちらちら見える。客席の誰かが叫んだ。
 「甲比丹だ!。甲比丹助左衛門だ!」
 「おおっ」
 全毬技場がどよめいた。
 昨年、公家チームを打ち破った、かくれもなき堺の英雄、その人ありと知られた、甲比丹助左衛門が、南蛮服で現れたのだ。堺に富をもたらす船主で船長、大船頭の評判高い助左衛門を目の当たりにして毬技場の熱気はいやがうえにも高まった。拍手が歓声が長く尾をひいた。
                     (続く)
[注1=しゃ、カラミ織りした薄絹のこと、注2=襞衿=ひだえりのこと]



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