海洋冒険小説の家

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(4)「へ~え、そんなこと・・・

     (4)

 色々と話をしながら前に進んだ。六兵衛の怒りをかった関所をはるかに過ぎて坂にかかってきた。逢坂関までは難所の急坂ではあるが、信長殿の命で綺麗に広く整備され、この道がずっと安土まで続いているという。馬を休ませるために、馬から下りてこの坂を歩いた。
 やっと、峠を越え琵琶湖のよく見えるところで食事をとった。ここからは安土の城は見えなかった。うっすらと靄もかかっている。瀧は握り飯に瓜の粕漬、鶏のモモ肉の燻製などを出し、三人ともよく食べた。助左衛門は食べながら頭は先を考えていた。とにかく午の刻(午後零時)には安土の旅宿には入りたい。そこで体を洗い、装束を改めて城に入りたいのだ。

 下りの道は馬に乗り、急いだ。瀬田の橋もさっと渡り、ゆっくり景色を眺めることもなく、前を急いだ。やがて安土山の上に築かれた、高く聳える巨大な城と天主が前方に見えてきた。日の光を受けて、まばゆいほど金色に輝いていた。瓦も壁もきらきら光っていた。その美しい城に案内されるように、また大きな力に引っ張られるようにして安土の町に、旅宿・日野屋に着いた。考えていた時刻通りだった。
 日野屋の前で、瀧が昨日から先発させていた者たちが出迎えた。助左衛門は思わぬ出迎えに驚いた。
 なんと、髪結いの吉田屋のさわ殿、着付けの十四屋のらん殿など、総勢十名が来ているではないか。思わず瀧のほうを見た。瀧はにっこり笑って助左衛門に流し目を送った。助左衛門は、目がクラクラっとしたように思い、あわてて頭を振った。

 安土城の大広間。
 三人はこの広々とした板の間に案内されて座っていた。もう、小半時(約30分)ほどになる。助左衛門と六兵衛は薄緑の直垂(ひたたれ)の武家姿、総髪を後ろで束ねてくくってある。助左衛門は髭を好まないので、いつも綺麗に剃っている。六兵衛は頬と顎の髭に加えて見事な口髭が、ピンと先が上に跳ね上がっていた。
 瀧は青地に、花が描かれた扇を散らした華やかな小袖に赤格子の細い帯を締め、白地に金と緑、青の三色の大きい亀甲文があちこち散らしてある小袖を、打ち掛けにして着ていた。髪は髷(まげ)にして結っている。堺で、瀧やさわ殿らが、新しいファッショナブルな髪型を追求して生み出されたものだった。頭の上で輪を作りくるくると巻かれ、細い布紐で括られている。この髪型はうなじが美しく見える。結んだ布地は帯と同じものである。唇は控えめに紅をさし、指の爪は爪紅(注1)の花で、薄い桃色に染めている。

 しばらくして、信長が、小姓衆と美しい婦人、そして安土奉行・菅谷九衛門、安土城惣普請奉行・惟住(これずみ)五郎左衛門(丹羽長秀)、その他、よく知らない武将たちを従えて入ってきた。萌黄(もえぎ・黄緑色)の素襖(すおう)に小袴というラフな姿である。
 背の高さは五尺四寸位、色白で細い口髭をたくわえていて、すっきりして清潔な顔である。眼は澄んでいた。九衛門と五郎左衛門は旅宿まで迎えに来てすでに挨拶をかわしている。家臣たちは皆、直垂姿、特に美しいお方さまは紺地に金糸銀糸の小さな花で埋め尽くした豪華な打掛姿で背が高く、恐らくお市の方だろう。信長が上座に座った。
                    (続く)
[注1=つまくれない、鳳仙花のこと]


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