海洋冒険小説の家

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(6)お市様のほうを見る。

      (6)

 「ほんに、そのとおりにございます。しかし、南海屋殿に損ばかりさせては可愛そうにござりますゆえ、お城で家来衆相手に商売させてはいかが?」
 「ほお、どうするというのじゃ」
 「お城に商売の品を持ち込んで、家来衆に品定めしてもらい、買って戴くのです」
 「お市はなかなかの商人(あきんど)じゃな」
 信長は笑い、お市様も笑った。
 「九衛門、いいようにとりはからうように」
 殿の指示が出され、九衛門は、平伏して答えた。
 「かしこまってそうろう」
 なんだか、硬い言葉である。よく考えてみれば一人、この男だけは笑っていなかった。四十半ばの歳であろう。丹羽五郎左衛門と同じ歳頃のようだ。
 「堺政所よりこのたびの航海の報告があった。よくぞ、海賊どもを打ち破った。五郎左衛門たちも感心しておったぞ」
 「それはそれは有難いお言葉でござります」
 五郎左衛門も微笑して頷いた。
 「それでは、そろそろ天主に案内いたそうか」
 信長の殿さんは立ち上がり、小姓もお市もそれに続いた。助左衛門たちもそのあとを追う。

 「ここは本来ならば一重めなのじゃが、この下に石蔵(いしくら)があるのじゃ。それで二重めとしてかぞえておる」
 変わった楼閣だった。地下一階に宝塔を置いていた。これは、法華経に言う舎利塔としてつくられた。そして、地上三階まで吹き抜けになっている。階段は東側に付いていてそこから最上階まで上がれる。この階の南西に鵞の間という十二畳の部屋があり、襖には金碧で唐国の花鳥が描かれていて、まことに豪華な雰囲気のものである。
 「三重めは助左衛門の好みそうな間がある。ここじゃ」
 信長は先に立って階段を上った。
 なるほど、ここは「駒の牧絵の間」と言うそうで二重畳程、襖に馬が生き生きと描かれている。
 「ふーん」
 感心した顔で見ている助左衛門や六兵衛を見て、殿は満足げの表情である。
 この階には能舞台が作られていて、板戸や襖を外すと吹き抜けの空間を通して、回りの座敷から、舞台が見えるのだ。広い納戸に広縁が舞台すぐ横についている。助左衛門は能舞台を見て、あることが閃いた。瀧に、
 「ここで、衣装の展覧(ファッションショー)をやったらどうや?」
 「私もそう考えていました」
 「そうやったら、上様に頼んでみようか?」
 「よろしくお頼み申します」
 目が笑っている。
 「上様、見事なお部屋ばかりで目がくらむ思いにござります。ひとつお願いがあるのですが」
 「なんじゃ、もうしてみよ」
 「じつは、あちらのお能の舞台で、衣装の展覧など如何かと、わが女房殿が申しますので」
 「ふーむ、衣装の展覧とな」
 「それは面白き趣向にございますなあ。堺の新しき風流がみとおございます。ご覧下さりませ。瀧殿のおぐし(髪)の形といい、小袖の柄の大きく鮮やかなのを。ぜひ、私の方からもお頼み申します」
 お市様まで味方につかれては、さすがの信長の殿様も、
 「ふむ、まあいいか。よきにはからえ」
 「九衛門殿、よろしく頼みますよ」
 お市様に言われ、九衛門は、
「受けたまわって候、さっそく手配つかまつり候」
 またも、堅物ぶりを披露した。

 お市様は瀧の方を見て、眼で合図した。それは男たちに分からない種類のもので、恐らく、
 「この男は堅物だけど、することはするのよ、刺激のない毎日が少しは潤いや楽しみに満たされるのは、女にとって嬉しいものよ、頑張ってね」
 と言っていたのであろう。それを一瞬にして送ったのだ。女って、凄くて恐い。

 信長は各層を見せたくてうずうずしていて、すぐ四重めに案内した。
 「ここには岩の間、竜虎の闘いの間、竹の間、松の間、鳳凰の間などがある」
 言いつつ、どんどん歩いていく。そして五重めの階段をのぼり、
 「ここには何もないから上にあがる」
 六重めに上がった。瀧が大きな声をあげた。
 「まあ、なんと美しいこと」
 助左衛門も息を呑んだ。
                  (続く)




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