海洋冒険小説の家

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(4)権大納言の屋敷に行く

     (4)

 二十三日の未の刻(午後2時)ごろに京・三条の旅宿に着いた。着く前から、空は鉛色になってゴロゴロと雷が鳴り出し、宿に着くなり、夕立が来た。半刻ほど大粒の雨がざあざあ降ったあと、嘘のようにからりと空は晴れ渡った。それで、助左衛門は、皆を旅宿に置いて、北山の権大納言の屋敷に出かける事にした。ここからだと、馬で走れば、すぐである。旅宿で借りた馬で六兵衛と二騎、雨上がりの道を気持ちよく走らせた。下鴨神社のすぐ近くに屋敷がある。大きな門の前で馬をおりた。すぐ家人が出てきて、馬の手綱を受け取り、もうひとりが屋敷内に案内した。この屋敷は何度も来ているので、助左衛門の顔は知られている。早速、庭の見える眺めのいい座敷に通された。お茶と心太(ところてん)が出された。六兵衛と二人で食べた。
 「ここの心太はほんまにうまい」
 六兵衛が満足そうな笑みを浮かべて言う。ここの主は美味いものには眼がなくて、あるじ自身が料理を作るそうだ。食べ終わり、暫くして、廊下をどしんどしんと太った体を揺すって、にこやかな顔が現れた。
 「なんとか、無事に帰ってきたようやな、ふっふっふっ」
 最初からこの調子である。世の中の上にも下にも通じていて、なおかつ、腹も据わっており、乱世を生き抜いてきた自信もある。また、趣味も広く、知識も深く、そして、人をからかったり、笑わせたりするのもうまい。
 「なんとか、京までかえりつきまして候」
 おどけて、返した。
 「それで、忍者の件でなにか決めたんかいな」
 「へーえ、もう知ってますのんか?」
 「京の公家衆のほとんどが知ってるで」
 「ほーッ、めっちゃはやいな」
 「そんなことで驚いとったらあかん、この京で生き残ろうと思うたら、知らん顔して、なーんでも知っておくことが肝要なんや。武家のように兵をようけ抱えとるわけでなし、力ではかなわんからな」
 「それではお聞きしますが、二十七日に安土で何かあるんでっか?」
 「なんでや」
 「二十七日に忍者捕まえる罠張ろうゆうてるのに、安土三奉行が、その日はあかん言いますのや」
 「二十七日なあ。うーむ、そういえば、四、五日前、安土から早馬が大和の法隆寺にとんだゆうとったなあ。それに、南禅寺にも早馬が来たそうや。南禅寺元住持の秀長老こと景秀殿を探しているらしい。秀長老は、たしか日野で隠居しておられるはずやで。もう、耳も遠い、体も動かんようになった、と誰やらがゆうとったが。歳は八十はとうに越してるしな。京・五山で、その学識の豊かさ、深さで並ぶものなしと謳われたんは昔のことや。その秀長老になんの用があるんやろか。さあて、何が始まるのか、今は分からんが、二十七日がくれば分かるやろ。あわてることないわ。それで、罠はいつ張ることにしたのや?」
 「二十九日に決まりました」
 「二十九日?。えらい月のでえへん日にしたんやな。外は真っ暗やで。せめて、十日過ぎにせんと、顔もわからんで」
                  (続く)




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