海洋冒険小説の家

海洋冒険小説の家

(5)小見の公秀殿に智恵を借りに・・

     (5)

 ほんまにそおやった。月がかくれてしまうんや。十五日の満月の日ぃが一番良かったんや。えらいことした。あの三奉行がえらい日ぃにこだわるんで、ちょっと困らしてやろ思うて二十九日にしたんやけど、よう考えたら月の無い真っ暗の日ぃやった。また、陰陽師殿のいい智恵借りにいかんならんな。
 助左衛門は心のなかでつぶやいた。
 「六月の朔日(注1)以後には、京には戻れるのやろ?。使いの者寄越して帰る日教えてくれたら、気心の知れたもん呼んどくから、旨い料理でも食おう。酒は遠慮しといたるから、安心して来てや。はっはっはっ」
 権大納言には弱みを握られているので、どうしようもない。五月は小の月で二十九日で終わりやさかい、うまく行って六月一日には帰れることになるが、どうなることやら。再会を約して屋敷を辞した。
 その足で西八条の小見の公秀殿の屋敷に向かうことにした。
 「真っ暗闇の中で罠を張るなんてようそんな阿呆なこと考えついたもんや。なんかいい智恵借りんと、なんや不安になってきた」
 六兵衛に本音をもらし、馬を急がせた。

 公秀殿は、あの見慣れた仕事部屋でにこやかに迎えてくれた。
 「今日はどんなことじゃ」
 それで、助左衛門はいままでの経過を説明した。あの強盗提灯(がんどうちょうちん)の、光の素晴らしさ、舞台での成功、忍者の出現、信長殿が狙われていることなど、細かく話した。公秀殿は一つ一つうなづきながら聞いていた。
 「安土の城に抜け穴が掘られているようじゃな。これは大工のなかに、どこぞの息のかかった腕利きの衆がおったようじゃ。誰にも気付かれずになかなか出来るものやない。これは、わしが、直々に行かねばなるまいて。そうや、あれを試すか。今度の件はわしに任せておけ。助左衛門殿、わしの弟子、梅小路(うめこうじ)の敦盛(あつもり)殿じゃ。紹介しておく」
 二十歳くらいの若者が急に机の下あたりから顔を出して、ぺこんと挨拶がわりに頭を下げた。
 「公家の六男で、なんにもすることないゆうとるから、今わしのところで手伝ってもろとる。覚えも呑み込みも早いし、わしの後を継げるかもしれん。いい若者じゃ」
 「敦盛って、あの平家の敦盛でっか?」
 「そうや、親が平氏びいきでの。子に平家の一門の名前をつけとるのじゃ。重盛(しげもり)に忠度(ただのり)に教経(のりつね)に、あとはなんやったか忘れてしもたが。しかし、この敦盛は笛は下手やで」
 こんな若者がいるのであれば、ここは心配ない。年寄りが二人だけでは無用心だと思っていた。
 「あと、一人、まだおる。嵯峨野の小屋に行ってもろうとる。これはわしの遠い親戚で、橘の実朝(さねとも)とゆうのやけど、敦盛殿と同じ歳じゃ。それで、二十九日やったな?。やるのは」
 「そうですが」
 「うーむ、もう一人手がいるのう。そうや、明石屋の次郎丸を貸してくれぬか。体が小さいのと、機転がきくのが気にいった」
 「明石屋の秀五郎と相談して連れてきます」
 「それでは二十八日にわしの屋敷で会おう」
 「宜しくお頼み申します」
 助左衛門には公秀殿が何をやるのか想像もつかなかったが、なんだか凄いことがおこりそうで、いままでの不安は吹っ飛んだ。そして期待に胸がだんだんと、ふくらんできた。
                   (続く)
[注1=朔日=さくじつ、一日のこと]



© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: