海洋冒険小説の家

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(7)ちゃくちゃく進む安土宗論の布石

     (7)

 「知っていることなあ、そうや、京の風日庵様の屋敷に一昨日行ったときに、ゆうとった。安土から早馬が、大和の法隆寺や京の南禅寺の偉い坊さんの所に飛んだらしい。なんでかは分からん。しかし、今回のこの事とは関係があるかもしれん。どうする?」
 「どうするゆうても、どうしよう?」
 「油屋の本家の兄貴はどうゆうてんねん」
 「いま、病でふせっていて、どないもこないもでけへんねん」
 「ふーん、それやったらお前がやらなしゃあないな」
 思いつめた仁助の顔を見ると、なんとかしてやりたいと助左衛門は思う。
 「二十八日から京を通って安土に行くのやけど、じゃあ、そんときに一緒にいこか」
 「どんな用事で安土に行くのや」
 「しょーもない事を信長の殿さんにたのまれてんねん。そいつを果たさんならん」
 「あの? 曲者の件で?」
 「そうや。しょもないやろ。はっはっはっ」
 「しかし、わしの方は笑い事やないで」
 「うーん、何が起きるのか分からんが、二十八日までには、分かるやろ」
 「そうやな、じゃあ、一緒に行くか」
 「馬で行くから、その用意をして、二十八日の卯の刻(午前6時)に、ここに来てくれるか」
 「わかった」

 段取りを決めて仁助は帰っていった。肩を落として体中心配を表していた。それも無理はない。信長は、比叡山の焼き打ちをはじめ、敵に加担した寺や坊主衆には情け容赦なく焼き、皆殺しにしてきた。なんか京で法華の坊さんたちはしたんやろうか。京でしなくても、よそでやったとしても、信長は見せしめのために、坊さんたちを、皆殺しにするだろう。改めて、この権力者に対して「ぞーっ」と背筋に寒気が走った。瀧も心配そうな顔をしている。
 「いま安土に出かけて大丈夫やろか」
 「さあ、わからん。わからんが、でかけんならんのだけは、はっきりしている。あんまり心配すると顔にしわが出来るで」
 瀧はここでにっこり笑って、
 「そやそや、ここで心配しても仕方ないのや。船にのっているあいだ、心配してたらしわだらけになってしまうことだけはもうわかった。航海ちゅうのは危ないことだらけで、それに危ないのは、海だけでなくて、陸の上もおんなじやねんなあ。しかし、気ぃつけてや」
 「はいはい」
 二人は顔を見合わせて、微笑んだ。

 二十六日夜、安土の法華宗のものより油屋の仁助のところへ一報が入った。油屋からの使いが知り合いのところをまわり、助左衛門も含めて、数十人が油屋に集まった。その書状によると、二十七日の辰の刻(午前8時)、安土の浄厳院(注1)において、浄土宗の僧侶と法華宗の僧侶が宗論に及ぶという。はじめに、安土の五奉行衆より法華宗側に対して、この宗論に負けたら、京都並びに領国中の寺を破却する由の一札を入れよと迫られたが、断りぬいたらしい。宗論の原因は、月の初め頃、安土の法華衆徒数人が、浄土宗の道場で、説教中の坊主にいちゃもんをつけたのが、騒動の元になったらしい。
                       (続く)
[注1=浄厳院=じょうごんいん、金勝山慈恩寺浄厳院、浄土宗の寺]



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