海洋冒険小説の家

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(5)焙烙丸を船から落とす

    (5)

 敦盛殿は鍛冶に使う鞴(ふいご)を押したり引いたりして、炎の出る大きな銅の筒に風を送っていた。銅の筒は「ゴーッ、ゴーッ」と大きな音を出して炎を上に噴出していて、その熱い風によって、この「かぐやひめ丸」は浮いているようだった。鞴は銅の筒の下にある四角の竃(かまど)につながっていて、そこで火が燃やされている。大きな風船は、薄い絹布になにかを塗って熱い風を逃がさないようにしてあるようだ。
 「六人乗ってしもうたが、次郎丸は体が軽いからなんとかうまくいったようじゃ。どうや、ちゃんと浮いているじゃろ。どんな気分じゃ?」
 「なんや、体が浮くというのは変な気分のもんですな」
 六兵衛が不安げに言った。助左衛門は意外といった顔つきで言う。
 「ふわふわしてるかと思うたらえらい足元がしっかりしてますねんなあ」
 海の上とはまた違った感じである。
 実朝殿が舵を握っていた。公秀殿が彼女に聞いた。
 「何か変った事はないか」
 「お城の上で待っている間、天主の屋根のあちこちと金の鯱瓦(しゃちほこがわら)に鉤爪(かぎづめ)を引っ掛けて止まっていたのですが、上に上がる力が強くて、鯱瓦が少し横に曲がったようです」
 「まあ、それくらいであればいいじゃろ、誰もあんな高い天主の屋根の鯱瓦の向きなど、気が付かんわい。他に」
 「紙で作った五寸の焙烙丸(ほうろくだま、=注1)がそこに二十個籠に入れてあります。一回り小さい三寸のが五十個ここにあります」
 「おお、そうか、それでは一つ試してみよう。助左衛門殿、六兵衛殿、手伝ってくだされ。この焙烙丸のここに火縄で火をつけ、落とす。そのときに、焙烙丸から出ている鉤(かぎ)にこの凧(たこ)の紐をひっかけて一緒に落とす。すると焙烙丸はゆっくりと落ち、破裂する」
 凧はパラシュートの役割を果たすようだ。

 助左衛門と六兵衛は、二尺四方ほどの細い竹と紙で作られた凧をつかみ、言われたとうりにして、この五寸の焙烙丸を落とした。それは、「かぐやひめ丸」と湖面の真ん中あたりまで、ゆらゆらと落ちてゆき、爆発した。すると、湖がいっぺんに明るくなって、湖面がはっきり見え、かなり向こうに小舟に乗った忍者(しのび)たちが見えた。その数、十四、五名。
 「このまま、まっすぐ行ってくれい」
 公秀殿は実朝殿にそう言い、
 「さて、どう料理しようか」
 独り言を言いつつ、風向きや星空を見上げて、紙に筆でなにか書き込んでいる。
 「この焙烙丸は湖を照らすために作られたんですか」
 「そうじゃ、火薬と籾殻(もみがら)を混ぜてある。こうすれば、光が走って綺麗じゃろ?。それに湖面がよくみえる。城の信長殿も楽しめるというものじゃ。はっはっはっは。まあ、小さい上に紙で作ったものやから、人を殺す力はない。しかし、舟にあたれば燃える。ひとつ舟の上から落としてみよう」
                    (続く)
[注1=焙烙丸=ほうろくだま、手榴弾のこと]



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