海洋冒険小説の家

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(7)黒旗の海賊衆が出張ってきた



 「この海賊というのはひょっとしたらひょっとするでぇ」
 吉兵衛が言う。熊の十蔵も頷く。
 「そうや、なんかピーンとくるなぁ」
 高田の将監もそう言う。
 「なんや、ぞくぞくしてきたわ」
 小町の源左の眼がキラリと光った。
 「きゃつらのやりそうな事や。これは大頭目のお出ましやないか。あまりにも手際が良すぎる。この四十がらみの潮焼けの男というのが、六条の院ではないか」
 六兵衛が最後を締めくくった。六角坊も東風斎も「そう思う」と言う。助左衛門には全てが今、はっきり理解出来た。そうや、あの、黒旗の海賊衆がこのあたりまで出張って来たのだ。それで、大湾沖(台湾沖)の海戦には六条の院はいなかったのだ。その頃、すでに、京か近江に来ていたのではないか。それも信長の命を狙うために。まだこの近く、京の町中に潜んでいるかもしれない。
 これは用心せねばならぬ。遅かれ早かれ、助左衛門のことは奴等の耳に届くだろう。宴の前に、全員に、この海賊衆のことを話し、武器は体から放さないことを徹底させることを申し合わせた。

 黒旗の海賊衆は毛利氏と手を結んだのだ。昨年十一月の水軍の大敗で、毛利勢は水軍の建て直しに、黒旗の海賊衆の力を借りることにしたのだろう。これは九鬼水軍にとってもかなりの強敵になる。
 瀬戸内の制海権を今は九鬼水軍が握ってはいるが、六条の院が正面から対決してくれば、危うい。助左衛門の頭は凄い回転で動いていた。とにかく、手を打つところは打っておかねばならぬ。さっそく、菅屋九右衛門に書状を出した。
 それには助左衛門たちの推測による海賊の正体と、京都奉行の村井長門守に、京の町中の探索を徹底させるよう申しつけては如何、と書いておいた。また、北山の権大納言にも、身辺の注意を促す書状を重ねて出した。助左衛門とつながりのあるものは危険だと感じたからだ。宿の主人は、書状を大量に、それもあちこちに出すのであきれ顔をしていたが、金を惜しまず出したので、すぐ引き受けた。
 宴は、海賊衆のこともあり、節度あるものになった。仁助は兄の顔を見るまでは、手放しでは喜べぬとはいうものの、やはり顔はほころんでいた。
                    (続く)



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