海洋冒険小説の家

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(15)六条の院現る



 公家たちの方を見ると、驚いたことに、顔は笑っているのに、手に、刀や槍、そして半弓に矢まですでにもっている。堺の衆は一斉に助左衛門の顔を見た。助左衛門も「うん」と首を立てに振った。それで、彼らもそれぞれの武器を手にした。六兵衛は闘斧を腰にすでに差しており、鉞は左手にあった。しかし、公家衆は何事もないように、楽しげに歓談している。こんな芸当はわれわれには出来ないな、と思う。公家というのは、腹が据わっているのか、腹を見せない生き方がこうさせたのか、見事というほかはない。
 「横の戸を開けると槍、弓矢などなんでも入っておる」
 助左衛門は目くばせして、堺の衆に戸の位置を知らせた。みんなは、一人一人頷いて、了解した。

 池の前の空き地に急に黒い雲が巻き起こったように、黒い塊が押し寄せた。そして、広間の方に顔・顔・顔を突き出した。その数四十余り、全員が黒い衣、被り物をしている。そのうちの一人が縁先に飛び出してきて、
 「おう、助左衛門! 出て来い! 六条の院殿が挨拶に参った」
 大音声で呼ばわった。そして、後ろから身の丈六尺豊かな大男が出てきた。
 「わしが六条の院じゃ」
 被り物をとって、顔全体を見せた。広間の沢山の蝋燭の明るい光に照らされたその顔は、なるほど、潮焼けした色黒の顔である。引き締まった首の筋肉、隙のない体の動き、眼だけがキラキラと光っている。大頭目の貫禄充分である。
 「よう京までわざわざ参られた。わいが、甲比丹助左衛門や。よーく、この顔見て、おぼえといてや。それで、なんの用や?」
 助左衛門は広間の前に出た。
 「安土では、世話になった。その礼にまいったのじゃ」
                 (続く)



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