海洋冒険小説の家

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第十章 助左衛門と仲間たち堺に帰る


       (1)

 京都奉行・村井長門守の配下の者が、海賊たちの死体を運び出したあと、こちら側のけが人の手当てがされた。軽傷者ばかりで、権大納言の数多の家人によって、手早く塗り薬が傷に塗られ、清潔な布が巻かれた。返り血を浴びた体は拭かれ、衣服も新しいものに着替えされた。壊れた障子などがたちまちのうちに取り替えられ、板の間は綺麗に拭かれ、敷物も新しくされ、何事もなかったかのように広間は元通りになった。助左衛門はその手際の良さにただ感心するだけだった。そして、酒肴の膳が運ばれ、権大納言を中心にして、みんなが座ったとき、村井長門守の来訪が家人によって告げられた。
 「来たか」
 権大納言が澄ました顔で言った。
 「こちらの方に通すように」
 すぐ、急ぎ足のどんどんという足音がして、長門守が顔を出した。
 「長門守殿、よう参られた。さあさ、ここに座られよ」
 四十代の太ってころころした背の低い男が姿を見せた。丸顔で温厚な感じであるが、抜け目のなさも持ち合わせているようで、信長の信任を勝ち得ているのは、おそらく、そのよく回転する頭のせいのようだ。
 丸い眼をくるくる回し、庭を見、障子や板戸をチラチラ見ていたが、騒動の痕跡がないのをいぶかっているようだった。
 「盗賊どもと一戦交えたとの知らせがありましたが、これは如何に」
 「もう片付けてしまいましたのや。長門守殿が参られるのに、血の飛び散った広間に案内するのも無粋なことやと思いましてな。まあ、一献なりとてお受けくだされ。話はそのあとじゃ」
           (続く)



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